第八章その6 胡瓜、西瓜、南瓜、糸瓜、甜瓜、冬瓜。全部読めたら偉い!
(これはトウガンって読むのよ)
緑のラグビーボールのような野菜を指差しながら、天花ちゃんがメモを見せる。
「トウガン?」
冬瓜と書いてトウガンと読むのか、なるほどひとつ賢くなったな。
「で、トウガンって何?」
天花ちゃんが目と口を大きく開いて驚いた顔を見せる。声が出せたら多分絶叫していただろう。いや、そこまで驚かれましても……。
(ウリ科の野菜よ。味はキュウリに似ていて食感は大根に近い。煮物やあんかけにすると美味しいの)
「へえー、そうなのか」
メモを読んだ俺はトウガンという物体をしげしげと眺めた。見た目はたしかにキュウリに似てるが、一番似ているのはマクワウリって感じだよな。
(食べたこと無い?)
「うん、初めて見た。煮物にするってユウガオみたいなもんだね」
日本にはまだまだ流通量が少ないマイナーな野菜もたくさんあるんだな。
だが俺が何気なく言った隣で、今度は天花ちゃんが目を点にしながら首を傾げた。
(夕顔ってかんぴょう以外に食べる方法あるの?)
そう文面を見せる天花ちゃんの頭の上には、大きなクエスチョンマークが浮かんでいた。
「え、知らない? あんまり売ってはいないけど、食べられるよ。新潟の爺さんの家なら……」
そこまで話して、俺はふと思い出した。
そういえばこっちに来てから、スーパーでかんぴょう巻きが売ってるとこ見たこと無いぞ。こっちでかんぴょうと言えば、太巻きの具として卵やきゅうりといっしょに巻かれているのしか見た覚えがない。
かんぴょうの原料、ユウガオの一大産地は栃木。あそこでは多彩なかんぴょう料理が根付いていると聞いたことあるけど……なるほど、これが食文化の違いか。
「天花ちゃん、これ料理できる?」
俺はトウガンを持ち上げながら訊いた。せっかくもらったのだから、おいしく食べたいよな。
(実は私もトウガンあんまし使ったことないの。下処理もしたことない)
しかし天花ちゃんは俯き気味にこう返したのだった。
そうか、単に切って煮込むだけじゃダメなのか。独特な風味の強い野菜には、下処理の必要な種類も多いからな。
「それならネットで調べようか」
俺は立ち上がり、天花ちゃんを仕事部屋に連れていった。ここには仕事に使うための、ネットに接続したパソコンが置かれている。
今まであまり天花ちゃんはパソコンを触ったことが無かった。テレビや炊飯器はまだしも、パソコンは操作方法が複雑で壊しそうだから怖いからとのことだ。
パソコンの電源を入れ、天花ちゃんをデスクの前に座らせる。
緊張で目を白黒させる天花ちゃん。俺はその隣から手を伸ばし、手をつかんでキーボードに添えさせた。
「ほら、ここにローマ字で『トウガン』て打ち込めば」
ゆっくりと、キーを探りながら一文字ずつ打ち込む。最後に検索の文字をクリックすると、トウガンの写真や調理法のリンクがずらりと表示された。
「はい、出てきたよ」
ね、簡単でしょ?
「あとは見たいページに矢印を合わせて……」
天花ちゃんの手にマウスを握らせ、その上から手を包み込んで操作する。
一方の天花ちゃんはパソコンを使えた驚きと喜びのせいか、頬を紅潮させながら丸く開いた目をきらきらとさせていた。
夜遅くのことだった。
就寝中にもかかわらず尿意を感じた俺は、ゆっくりと布団から起き上がった。
バーベキューでがぶ飲みしたビールのせいで眠りが浅くなっているのかな?
若干の頭痛を感じながら、俺は真っ暗な廊下を歩いてトイレを目指す。
「ん?」
しかし俺は妙なことに気付いて立ち止まる。仕事部屋の襖の隙間から、明かりが漏れていたのだ。
天花ちゃんが掃除してくれているのかな? 本当に健気な子だ。
「天花ちゃん?」
いつも頑張ってくれる彼女に、お礼くらい言ってもいいだろう。そう思い俺は襖をガラッと引いた。
だがそこで俺は絶句して固まってしまった。
なんと仕事部屋にいた天花ちゃんはデスクに座り込み、パソコン画面をじっと睨みつけていたのだ。
気まずそうな表情を合わせる俺と幽霊。
「な、なにしてるの?」
ようやく思考の追い付いた俺は彼女の背後から画面を覗き込む。
画面に映っていたのは、天花ちゃんの好きな漫画の二次創作漫画だった。




