第七章その4 寄り道
「どうだった、田之上さんに会えて」
駅に向かう途中の住宅街で、俺は隣を歩く天花ちゃんに尋ねた。
天花ちゃんは手にしたメモにさらさらっとペンで書き込むと、すぐに文面を見せる。
(会えて嬉しかった)
「そっか、そりゃ良かった」
俺は心底安心した。ここにいっしょに来られて、本当に良かった。
いつも明るくて気さくに振る舞う天花ちゃんだが、幽霊として現世に取り残されてどれだけ心細かっただろう。だからこそ両親とお兄さんが天寿を全うし、自分と血のつながった次の世代が生まれている。これを知れたことは天花ちゃんにとって何物にも代えがたい喜びだったに違いない。
俺も20歳前後の頃は家族の老後とか次の世代とかまったく考えもしなかった。しかしアラサーになって友人が結婚したり子供が生まれたりするのを間近で見ていると自分以外の人も成長したり、逆に年老いていくのを肌で感じて、将来についてより深く考えるようになった。
具体的には自分自身のことだけではなく、親や親戚、友人といった周囲の人たちを含めた将来像を描けるようになったのが大きな違いだろう。これは大人として俺が成熟してきたことの表れだろうか?
見た目は女子高生だが、天花ちゃんは俺よりも倍近く幽霊をやっている。時に精神面で年不相応の強さを見せるこの子ならば、俺の実感もきっと理解できるだろう。
そんなこんなで今日あったことを思い返しながら歩いていると、いつの間にか六甲道駅に到着していた。もうだいぶ陽も傾いている、帰宅できるのは暗くなってからだろう。
俺たちは電車に乗ったものの、そのまま余呉まで直行せず、途中の大阪駅で降りた。
さすがは1日に80万人が利用するJR大阪駅、ホームでごった返す人混みに天花ちゃんは完全におののき、おろおろと狼狽えていた。もしかしたら彼女は生前、ここまで多くの人で賑わう光景を見たことが無かったのかもしれない。
「こっちだよ、こっち」
俺は天花ちゃんの腕をつかむと、人の波に乗って移動する。俺たちが向かったのは、駅に直結する百貨店だった。
その地下、総菜屋や菓子店の並ぶいかにもデパ地下といったフロアの一角に、大勢の行列ができている。ここはイカ焼き屋、大阪を代表するB級グルメの名店だ。
「一度食べてみたかったんだ」
イカ焼きと聞けばお祭りの屋台で見られるイカ一匹をまるまる焼いた姿焼きを思い浮かべるところだが、大阪のイカ焼きはイカの切り身と生地を混ぜたお好み焼きのような「粉もん料理」の一種だ。一度テレビで見てあまりにおいしそうだったので、いつか食べてみたいとかねがね思っていた。
「すみません、イカ焼き2つ」
注文してすぐに、クレープのようなイカ焼きがアツアツの状態で発泡スチロールのトレイとともに渡される。俺はひとつを天花ちゃんに手渡すと、立ち食いのできるスペースに異動して早速アツアツのイカ焼きにかぶりついた。
噛んだ途端、もちもちとした生地の感触が口の中に優しく広がる。しかし突如、生地の内側からイカがぷりぷりと跳ね上がり、歯ごたえあるうま味を拡散させる。さらにさらに、折りたたんだ生地の間から甘辛ソースが染み出し、わずか一口で3つの味を堪能してしまった。
そしてこんなに美味しいのに、1つなんと152円という驚きの安さ。そりゃ食の都大阪では、下手な料理屋はあっという間に閉店するのも納得の出来ですわ。
隣では天花ちゃんもご満悦の様子でイカ焼きを頬張っていた。そのとろけるような笑顔に、俺は今日ここまで来て正解だったと確信して頷いた。
せっかくここまで来たんだ、百貨店も見て回って、天花ちゃんにお菓子でも買ってあげよう。
あとそれから、菫坂先生へのお土産も発送しておかないとな。




