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何故か王様になっちゃった件について。  作者: 白玉 ショコラ
第三章
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滑らかなパらソる

「颯」

「よ、水樹」


 つくづくオレたちってここで話すよな、と零しながら、颯は夜闇と月光に混ざりながら、こちらに向かってくる。


とりあえず3割増しでイケメンっと。


「まさか、ホントに来てくれるとは思わなかった。……やっぱり噂のこと知らない?」


 颯がパラソルの下の椅子に座ったのを確認してから、わたしはそっと口を開いた。そう、これは言ってしまえば、恋人の恋焦がれた夜の逢瀬、『色香の寝床』だぁ!


 と内心浮かれながら普通を装って尋ねてみた。すると、


「知ってるよ、オレだって」


 なんて答えが返ってくるもんだから……!もう尋常じゃないくらいに心臓がばきゅんばきゅん並み打っちゃって仕方ないんです。はい。


「知ってて、来てくれたの?」


 怖くなりながらも最高潮にハッピーな気分に浸りつつ、でもって驚きつつ、もう一度聞く。颯は、思いがけない質問に苦戦しながらも、顔も紅色に染め上げて言った。


「だって、オレら一応……唇の仲だろ」


……え、えろい!エロい!えろっちぃ!えちえちだぁ!颯の言葉のトーンが甘い!まずいこれはエロい。颯の方が絶対に声優に向いている。


 心震えるキャラメル色の「唇の仲」という単語に目をクラクラさせながら、必死で頷く。駄目だこりゃ。わたし颯が好きすぎるのかもしれん。


「そうだね……はは……嬉しい……」

「来た瞬間に疲労困憊って困るんだが」


 颯の冷静な突っ込みがまるでホットチョコレートの中に突如として入ったアイスのようにとろけてしみた。


 ふと、思ってしまった。ポエムの中にさり気なく入れていたが、ちょまっ、く、「唇」って、颯、許容済みのキスだったの⁉


「は、はやとくん。君、わたしとキ、きキきキスをしても、よかったの、かな?」


 真っ赤になりながら聞くと、颯までわたしの林檎がうつったかのように頬を赤くして答えた。


「水樹となら、まぁ、いいかなーって……?はじめて、やっても」

「あーダメ!ダメですよそれ、颯くん。エロいからね、下手したらR18よ?下手しなくてもそうですよ?」


 はじめてがファーストキスだと、やってもがあげても、だと分かっていても、あっち方面に行くわたしの頭の馬鹿さに恨みつらみ。


わたしは一体何が言いたい。日本語までも使えなくなっている。


「颯って意外とこっちに疎いのね。ギャルゲーやってたならわかるでしょうよ」

「深いとこまでは行ってねぇって」

「そういう単語は分かるのね!」


 こういう話がしたいわけではないのだ。R18ってのは大丈夫、わたしたち二十歳越え。でも、だよ!


 やっぱり精神年齢下がりまして。恋を、したくなりまして。絶賛、恋愛中なんですね。困ります。でも、颯はレーイレアというお相手がいるのにわたしとキスしてくれて、こうして夜の『色香の寝床』にまで来てくれています。


 さぁどうする!決まっています。


「颯、気付かない?」

「?」


あ、駄目だ。コイツわたしのことなんか見てねぇ。


 なんて思いませんよ?仕方ない。鈍くて超絶鈍感な仏頂面ですからね。


「そうだよね。予想的中」

「そう言われると嫌だな」


 実はわたし、今日この時のために、唇に紅、引いて来た。果肉を潰したのを塗ったんだけど……元々赤めだったからかな?あんまり変わらなかった。


 あ、そっか。自分でもあんまり変わらなかったと認めるものが、颯に分かるわけないんだ。


「……レーイレアは、怒ってる?」

「話してねぇよ。ぜってぇ大噴火するし。オレだって静かに水樹と会いてぇから」

「え……わたしのこと好き?」

「え⁉いやぁっ、それずりぃ!ちげぇ!あでも、あ、あ、ああぁぁ!」

「ごめんごめん!困らせようとしてないから許して!」


 パニック状態に陥る颯も可愛い。これが恋ですか。相手の全部が可愛くカッコ良く見えちゃうんですね。了解です。


「レーイレア、わたしをライバル視してるよね。颯が、わたしに取られるのが怖いのかな」

「……二人とも、オレのどこが良いんだ?」


 颯は、ハァとため息を着いて横を眺める。笑い飛ばそうとしたけれど、結構真剣に考えているようなので、仕方なく教えてあげる。


「レーイレアは、顔だろうね。わたしは、性格、見た目、声、仕草、視線の流し方、食べ方。もう、全部」

「……、水樹……お前さ……」

「まっ、でも、レーイレアなんて気にしてないよ、わたし。だって、颯はわたしが取っちゃうからね」

「っ……」


 そっと颯を盗み見てやると、颯はめちゃくちゃ恥ずかしそうに俯いている。可愛い。


 こうやって強気に出て自己暗示も兼ねて颯の心もわたしに着いて来て欲しいな、という、欲望たっぷりの言葉だ。


 本当は、レーイレアは強いライバルだ。絶対に勝ってみせる!とかそんな情けない事、思わない。わたしは、わたしを好きになってもらいたい。だから、なるべく近くにいたいだけ。なるべく近くにいるだけ。


 笑ったら笑い返してほしい、話しかけたら返事してほしい、それだけ。颯がわたしだけを見ている瞬間があれば、あるならば、わたしはその時間を愛してる。レーイレアに勝ちたくて恋してるわけじゃない。


 あくまでわたしは、颯が好きなんだ。それだけなんだ。


「ふぁあ……眠い。颯、眠くないの?」

「天乃雨にいたときは2時くらいまで遊んでたからな。受験生なのにだらけてて、順位は下がりっぱなしだったけど。親に怒られる毎日で、マジ疲れるわだるいわ……その分朝の図書室は平和で良かった」


「……ん?それじゃあ颯、ほぼ寝てなかったんじゃ……?」

「おぅ、寝なかったな。寝る時間が勿体なくて――」


「馬鹿!颯は馬鹿!ちゃんと寝なきゃ駄目!颯が腐る。脳に休息をあげてよ。本はその次で良いよ。わたしも本好きだよ。確かによく寝ずに読書した。でもね、颯。君は受験生なんだから、ちゃんと勉強するべきだったでしょ?遊んでる時間と朝読書の時間を、受験勉強に回すべきだった。ほら、ギャルゲーにも、毎日の行動設定があるでしょ?あれをするべきだったんだよ、颯。もうわたしたち大学生だけど、就職の時はマジで頑張りなさい。わたしも頑張るから」


 ……やべっ。颯がぽっかーんだよ、ぽっかーん。


 つい、熱弁をふるってしまった。さぞ大変であったであろう颯を案じていたのに、2時まで遊んで朝に図書室に来ていたなんて。受験生なのに大丈夫かな、成績良いんだろうなと思ったら下がりっぱなしですと⁉許せない。


 なんて頭の思考回路が単純なんでしょう。彼の事を考えるあまり何行にもわたる生活習慣について口を出しちまいました。


 颯は、ふっと笑ってわたしをこづく。


「母さんかよ水樹は」

「どうせなら恋人で」


「あら、その座はわたくしのものともう決まっておりますわ」


 あぁ、幸せタイムが終了を告げた。椅子にもたれかかってバレないようにそっとため息を着く。


「「レーイレア……」」

「あら、ハヤト様が憂いげにわたくしの名前を呼んで下さるなんて、嬉しいですわ!」


 わたしも呼んだけどね、なんてことは言わずに、横目でちらりと好きでない娘を見て、わたしは首をゆるゆると首を横に振った。


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