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何故か王様になっちゃった件について。  作者: 白玉 ショコラ
第三章
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本当のリゼッテ

 パラソルの下で、白衣理系女子と凛々しい姫騎士が語り合っている。


本質?かまちょ文系移民とおちゃらけ平凡女だよ。……聞くな。


 もちろん、先程のわたしの断定についての解説だ。相変わらず、リゼッテは顔を青くしながら聞き入っている。


「そうねぇ、貴女のその髪は茶色、これは天乃雨でも通用するわ。でもね、あんたは確実に精神年齢が15なのよ。わたしだって流石に流されて、17、8くらいにはなってる自覚ならあるわ。あんたと同じ移民であるわたしが18。あんたが天乃雨からの移民なら、あんたもわたしと同じくらい、つまり18くらいの精神年齢ってわけなの。違うじゃない!ね?」

「……んぅぅ」


 難しい顔をして理解しようとしているリゼッテとわたしは、本質的に何か違うはずだ。違う世界の人だろう。少なくとも、会った時の抵抗感ではリゼッテよりララノラの方があった……よ、って言えない。


 リゼッテもなかなかの出方だったよ?でもララノラのあの感じも誰にも真似出来ないしねぇ。


 ララノラは、一度天乃雨民だって分かっちゃえば、すんなりいける。ララノラの本名なんて知らないけど、本質というか基本的な情報と言うのかなぁ、自分の基盤となってる元の状態が、一緒な気がするんだよね。


 リゼッテの感じ方、考え方。確かに、同じ人間だもんね、似てるよ。でも、さっきの言葉を借りると、「自分の基盤」「元の状態」それが、違う。


「例えば、わたしやララノラのことを天乃雨人、リゼッテを甘蛇人とするわ。天乃雨人と甘蛇人、それぞれは確実に別の種族よね」

「種族っスかっ。魔物みたいっスねっ」


 わたしは頷きながら、ノートもどきの一番後ろのページの右に「天乃雨人」左に「甘蛇人」と書き込んだ。


「甘蛇に国はあった?」

「あったっスよっ。言語も文化も違いましたけどっ」


 ならばラッキーだ。軽く頭の中で話す順序を企てて、話していく。


「なるほどね。なら分かるはずよ。A国とB国があるとするわ。A国はA語を教えられ、A国文化に慣れ親しみ、A国の中で活動し、育つ。B国はB語を教えられ、B国文化に慣れ親しみ、B国の中で活動し、育つ。A国とB国の人間が、交流するとするわね。そして、お互いの国の分かも自国の文化と同じと仮定し、話を進める。そしたら当然、疑問と誤解は生まれるわよね」


 そうっスねぇっ、と頷きながら、リゼッテも聞いている。


「今度は、A国を天乃雨、B国を甘蛇とするわ。わたしがAの天乃雨人、貴女がBの甘蛇人よね。すると……?」

「はいっ!つまりっ、疑問と誤解が出ちゃうってわけっスねっ!ボクとハバサワ様の間で自分の出身の話をしてもいないし自分の常識をさらけ出してるわけでもなかったからっ、ここまでスラスラ進んできたんスねっ。だってここがっ、ボクたちの新しい常識っ、基盤となる常識になるってわけっスもんねっ!」


 リゼッテにしては理解が早いと思いながら、わたしは頷く。リゼッテの言っていることは、伝えったかったこと、もうドストライクだ。


「貴女が移民だと、自分とは、わたしとは違う存在だと認めれば、確実にそれは貴女を見たときの基本情報としてわたしの中に記憶される。そして、今までの会話からどことなく違和感を感じる。でもわたしにはそれがないわ。だって貴女の言う通り、わたしたち今まで自分の話をあまりしてこなかった。例え違和感を覚えたとしてもそれは気の迷いよ」


 リゼッテは、にこにこ笑いながらわたしを見ている。


ホントは、移民ってだけで不安なんでしょ?


 わたしも、最初はそうだったもんね。きついよね、自分だけが今いる世界から切り離された存在であることって。周りは足が地面についているのに、わたしは浮いてるって言うより、逆立ちをしているような状態なんだ。


 不安定でぎこちなくて、嘘出鱈目の優美さを羽織って、無理矢理笑顔と人当たりの良さで物事を解決するしかなかった。持ち前の知識とコミュ力でどうにか生き延びる。


 わたしのコミュ力が抜群かと言われればそういうわけでもないし、貴族なのだから確実に生き延びれた。でも、精神状態のことも考えて見てほしいのだ。こっちに来た当初は、怖さをひた隠しして、初めて心梨に打ち明けた。


 二年前に泣きながら水晶を使って二人きりの世界にしてくれた姫。わたしは彼女をなだめながら、精一杯自分の心を吐いたのだ。


 心梨は言った。天乃雨人で、善を背負うのは5%だと。甘蛇から来る人の確率が多いと言っていたのも、わたしは覚えている。わたしがちょっとラッキーな存在でありながらアンラッキーなモノであることも、同時に知った。


 甘蛇ってどこなんだろう、とか、あまり考えなかった。表面上は冷静で、自分を偽って、心も騙して淑やかに過ごしていたんだ。もっと心の奥深く、きっと大波が吹き荒れて、恐怖で血だらけになるわたしがいたんだろう。考える余裕も、なかったのかな。


 心梨は優しいから、全て受け止めてくれた。わたしも、自分の気持ちを知れた。だからリゼッテにも、わたしを必要としてほしい。


 わたしを、あのときの心梨にしてほしい。


「リゼッテ」


 この子は今、動物のような人懐っこい目でわたしを見上げている。くりくりした瞳にふわふわの茶髪ロング、風に揺れる白衣に、薔薇色の頬。


 体調は健康でも、中が本当に健康かどうか。


「何年前?来たのは」

「……正直っ、一ヶ月前なんスよねっ」


 気が付いたら、わたしはリゼッテに抱き着いていた。強く、強く、抱きしめて。


「ハバサワ様ぁっ……ボクっ、泣いちゃうっスからっ、駄目っスよぉっ」


 リゼッテは、既に涙声になりながらもわたしに反論した。さらに強く抱きしめる。


もういいや。みっともなくても、いいの。


これでリゼッテが楽になってくれるなら。わたしはリゼッテじゃないから分からないけど、せめて――


「友達、よね」


 直後、大人げない大人の泣き叫ぶどこまでも純粋な声が、「色香の寝床」に響き渡った。


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