大当たりのお友達が出来ました!
「これが、『チュウニビョウ』はそのままに、一般人として暮らせる方法……」
「そうですわ、カレナ様。絶対に、貴女様のお力になるはず。このレムーテリンが見事にサポートしてみせます!」
ドンと一発胸を叩き、朗らかに高らかに宣言する。
今わたしがカレナに話したのは、「脱中二病せずに現実復帰する方法」だ。このままでは碌に人と話せもしない他人を見下して終わる残念コミュ障美人に成り下がってしまう。というかもはや既に成り下がっている。
これ以上成り下がる前に、わたしがどうにかして成り下がりをストップしてみせる。
「レム、むちゃ」
「ううん、ユフィアナたん。無茶なんかじゃないよ。だってわたし、中一の時中二病だったから!」
「……レム、むかしはアレだったの?」
「あぁ、はは、あそこまでじゃないよ。ヲタク度の微々たる進行って感じなだけで」
ユフィアナの昏い視線から逃れるため、冷や汗たっぷりに両手を振って否定する。
いや、ホントにあそこまでじゃない!ヲタク+中二病という最悪の事態から逃れるためにグレードダウンさせたタイプの新型モデルだったんだから!羽葉澤水樹は!
「それで、カレナ様。どうなさいます?」
わたしは、ユフィアナから目を外し、目の前に座るカレナを見た。彼女は、瞼を閉じて顎を擦っている。
「レムーテリン、と申したか?」
「えぇ、リーミルフィ、羽葉澤水樹、色々な名前を取り揃えておりますが、カレナ様はレムーテリンをご所望で?」
「む……ならば、リーミルフィにしようかしら」
真剣な顔でカレナが言うものだから、思わず笑ってしまった。変な目で見られたが、気にしない。うん。
「それで、どうなさいました?」
「うむ。リーミルフィ、其方な……」
「えぇ?」
カレナは、少しばかり言いにくそうに顔を下に向けた後、バッと顔をあげてわたしと視線を合わせ、言い切った。
「なまじ顔が良いだけ、ニヤリと笑うと凄みが出るわ。かなり怖い。普段使いには向かぬよ」
「……」
突然の告白に、ブフォッと思わず吹き出してしまったわたしを見下ろし、カレナはドッと立ち上がって、顔を真っ赤にしながら「無礼者ォ!我の言葉に反するつもりか!闇の炎、ダークファイアが其方の麗しい肌を焼いてしまうのだぞ!今すぐ逃げろ!」と叫ぶものだから、もうわたしはおかしくなってしまって、笑い転げた。
「な、な、其方、仮にも一国の王女であろう!」
「ち、違いますわよ、王女はわたくしの従姉妹ですわ。これが王女でしたら、もうわたくしの国、滅んでおりましてよ。そして先程のセリフ、あれは何ですの?そのぉ……ふは、味方ですの?敵ですの?『焼いて』が『妬いて』に聞こえてしまわれますし……かといって中二病を忘れることはありませんし。もう、あはは、貴女様、つくづく面白い人だわ。これからもお付き合いよろしくお願い致しますわね」
優雅に優美にお淑やか、に気を付けて、わたしはツッコミを入れ続ける。
最後にはもう爆笑しながら右手を差し出していたけどそこは無視してね。
明らかにひきまくっている周りの生粋貴族の方々には申し訳ないが、これがわたしだ。
ヴェクさんまで顔青くするとか、まずい、カレナさんの言う通り、わたしヤバめな無礼者かもしれない!でも大丈夫、だよね。だって無礼を働いた相手に贔屓にしてもらえれば、万事恙なくOK!ということになるしね。
「リーミルフィ、我と手を繋げばファイアの残り香に焼かれるのだぞ?」
「あはは、また妬かれた……違う違う。えー、残り火ではありませんこと、なんて気取ったことは申し上げませんわ。ですけれどもわたくし、是非とも握手という形で、永遠の絆を結びたく思っておりますの」
まぁ、裏を返せば「裏切んなよてめぇ、何かしたら例え勇者であろうとぶっ殺す。この契約は死ぬまでてめぇを追い回すかんな」と言った挑発文にもなるわけでありまして。
違うよ⁉わたしはただの「おともだちになりましょー、なったらずっとおともだちだよー」っていう幼稚園児のお手紙……そこまで価値下げなくてもいいか。
「よし、構わぬよ、リーミルフィ。其方を我の、そうだな……ヴォイド・ルナの華王とする」
「意味もネーミングも最悪なのですが?虚の月という意味でございましょう?発音がよろしいだけではございませんこと?」
「リーミルフィ、ヴォイド・ルナの華王は、嫌なのか?」
突然カレナが下から見上げてくるものだから、わたしは「可愛え、可愛えよぉっ!」と叫びながらカレナの頬をとってぎゅっと潰した。
「むぁっ、てょ、てょっとはにゃしてくりぇはしにゃいか、リーミルフィ」
「あ、ああぁ、申し訳ありませんわ、カレナ様。つい貴女様のお可愛らしさに負けてしまいましたの」
即座に手を離して、カレナを解放して優雅に謝る。そう、それはまるで、直前に勇者の頬を最速平手打ちビンタで挟みむにむにしてとろとろしていた姫騎士とは似ても似つかない!
わたしがカレナの予想通りぷにぷにほっぺの余韻を味わいながら手をワキワキさせていると、カレナが立ち上がってビシッと人差し指をわたしに突き付け、笑顔で言い切った。
「よし、ヴォイド・ルナの華王!其方に感謝と褒美をやるわ!」
「……え?」
「リーミルフィ、其方はよくやってくれたぞ。故に我も、その方法を実践しつつ、其方に感謝を申し渡さねばならないだろう?」
「……あ、はぁ」
「リーミルフィが我に命じたことは全て完璧に全うしようではないか!幸い、我には仕えている主もおらぬのでな」
……史上最速で嫌な予感がするよ。
わたしはごくりと唾を飲み込み、これから発せられる無茶ぶりの言葉を想像した。
「其方が我の主となるのだ!」
からんからーん、おおあたりぃ~。




