弱気なゴシック美女
「いんやぁ、こっち系のヤバい人だとは思っても見なかった、あはは……てアレ、皆なんかだんまりで――すンません」
必死で誤魔化しながら、ベルツィーナが出してくれたお茶を一口コクリと飲んで見せる。
この場ではお嬢様の令嬢レムーテリンでいた方が良いってことだよね。羽葉澤水樹じゃ駄目だ、うん。
一度瞼を閉じ、深呼吸をする。自分がレムーテリンに切り替わったところで、ゆっくりと瞳を開けた。一番最初に目に入るのが――
「黒装束の金髪美少女、そして重度の中二病なのよねぇ」
「ぁっ、ハバサワ様がいつもに戻ったっ」
最初に言った言葉に大分驚いていたのか、リゼッテが可愛らしい笑みを見せる。
リゼッテの前では確かに、いつもレムーテリンでいたな。
ちなみにわたしは今、右にユフィアナたん左にリゼッテと、両手に花状態でまさに幸福真っ盛りなのだ。まぁ、前にいるのは、
「ゴスロリの二十歳、そして重度の中二病だけれどねぇ」
まず目を奪うのは、キラキラピカピカ過ぎて見るのを躊躇うというか、慣れないと直視できないほどに磨き上げられたカレナの金髪。だって光ってるもん。
長く艶々で尻の辺りまで伸ばしており、まさにゴシックカラーが似合いそうな、ララノラとはまた違う成人女性の魅力を持っている。
そして、澄んでいる青緑の宝石のように輝く瞳。目が合えば何秒間は誰しも必ず動きを停止するほどの純粋な響きを孕んでいる。
カレナの勢いに負けて顔を隠せられなかったかのように、教会のシスターのように裏返った黒レースのヴェールまである。
そして極めつけは、黒装束とゴスロリの間のような感じの服だ。大きく膨らんだ提灯袖に、途中まで腕に這わせて手首の辺りからダラーンと下に垂れたレースの袖。
襟と裾に縁どられた真っ白のレースは手縫いなのか、とても緻密で丁寧だ。裾たけは、ホットパンツ辺り。
「大胆過ぎて見てらんないよね」
「ん、どうかしだ、レム……」
「あ、あぁ、ううん、何でもないよ、ユフィアナたん。そんでさりげなく舌噛むのやめてねー」
「うん、わかっだ……」
「おんなじポイントで噛むのもなしだよー。ほらユフィアナたん、吸血鬼みたいになってる」
「きゅーけつきはしらないけど、レムがいまほめてないのはしっでる」
「躊躇い消えたね……」
もうこれはドレスなのか?お尻の真下で終わるドレス、というか髪の毛の方が洋服より長いんだけども。
ドレスの全体にも黒レースで刺繍があったりなど、めちゃくちゃ凝っているのは分かるのだが、この人が中二言語をぽいぽい出すと本気で攻撃になりそうで怖い。
だって勇者なんですもの。これでも、一応ね~⁈……マジこの世界大丈夫かな。崩壊とかしてない?え何、奇跡?だってこの人たちが勇者でサ、崩壊しない世界とか……え。すげぇな露河。中二病勇者?……設定的には完璧に程近いけども。
「む……早く用件を述べよ、愚民共よ。さもなくばダークムーンファイアの僕であるダークムーンデビルが其方らを――」
「あぁ、はいはい分かったよ、カレナ。実はね、ちょっと聞いてほしいことがあって来たんだ」
ハッと我に返ると、カレナとヴェクが会話を始めていた。カレナを華麗に躱すヴェクがかっちょえぇ。
「君のルームメイトが、君の性格というか、特徴なのかこれは?いや風習というべきか……」
「ヴェク様、これは『中二病』でしてよ」
ここでスッとわたしが助け舟を入れる。
そう。これはまごう事なき中二病。見た目も中身も中二病。
「でも唯一。カラコンを入れていらっしゃらないところが驚きとでも言っておきますわ」
「ミズちゃん。ララもちょっとは思ったよぉ。でもねぇ、この世界にはカラコンがないらしいのぉ。だから仕方ないねぇ」
ララノラが、同意したように身を前に乗り出して頷いて来る。その言葉を聞いた瞬間、頭回路がぐるぐる回り、わたしの目がピカリと光った。
「ほぉ……なるほど。これはカラコンを売ったら大儲け……一個の値段設定が厳しいな。何個かまとめて売ると安くなるしな、あっでも、高くし過ぎても売れないしね。お洒落に敏感な御令嬢が買うとも思えないし、ヤンキーもいないし、てかヤンキーってカラコンするか?ギャルか?ありり、ギャルも中二病もカラコンするっけ?あぁあ、待て、わたしそもそも、カラコンの作り方知らないじゃん!最初から無理ゲーでしたー。……あっ、はい、どうぞ、続けて下さい」
シーンと静まり返った空間を作ったの、これで二回目である。恥ずかし悔しき悲しき。
お願い中二病のカレナさん!中二病独特の破天荒さで会話を、お願いだから会話を続けて下さい!貴族の令嬢が金儲けの算段とか語ったらひかれるのは分かってます。だからお願い~っ!
ふっと視線をあげると、カレナと目が合う。
「ぅぇあ、あー、ぇと、ぁあ、ぐ、愚民共は失せろ!」
……何とも頼りねぇ「失せろ」宣言どぉも。全然カッコよくも可愛くもねぇよ。中二病の勇者サン。
わたしの広げた沈黙を縮めようとしてくれたのは非常に嬉しいが、それも空しい努力だ。泡となって消えて、全員が冷めた目でカレナを見、彼女が一人「うぅぅ」と恨めしそうにわたしを睨み、わたしは一人消え入りそうに縮こまりながらその様子を見ているだけ……
というわけでもなく。
「すまないがカレナ。この騒動を解決するまで己たちは退出したくても出来ないのだ。分かってくれるか?」
「ぅあぁぁあっ、無理矢理引きずり込んだのはボクっスからっ!すみませんすみませんっ、セーリーラ様っ!」
「なっ、そのような意味を込めて言ったわけではない。誤解を招いてしまったようだな。すまなかった」
セーリーラが問答無用でカレナに脱中二病を訴えかけ、凛々しくリゼッテに謝る。
何このスマートさ。わたしには皆無の一品。
いきなり脱中二病というのは難しいと思う(それに結構侵食していそうだし)。カレナは、儀ッと唇を噛んだ。
「我は、我の信ずる道を行くわ。愚民共に指図される気などさらさら――」
「あの、再び口を挟んでしまい申し訳ないのですが、カレナ様」
「今は沈黙などしていないわ!我に口を利けるのは高等の魔力使いのみよ!もはや其方、高等魔力使いか?」
ビシッとわたしを指さし、またしても中二言葉を巧みに操り出したカレナの指を下げ、「違いますわよ」と、ニヤリと微笑んで見せる。
「……我の耳に入れるかどうかは、先の僕が判断する。僕に話してみるが良いわ」
「ハァ。カレナ様、一度だけで構いませんわ。現実を、直視なさって」
カレナは、何もない足元をつま先でトントン叩きながら、右を見る。唇をつまらなそうに尖らせているのは普通に可愛らしいが、今は友人のお困りごとだ。
「……」
「必ずや、貴女を救うとお約束いたしますわ」
彼女の頬を両手で掴み、目の前に持って来る。見つめ合うとカレナの瞳は、同系色のオッドアイだった。右は青強めの青緑、左は緑強めの青緑。綺麗だ。じゃない、魅了されそうになった。
美人なのに勿体ない。これじゃあモテるものもモテないだろう。ならば、わたしがモテさせてあげる。
再びニヤッと笑いかけて見せると、カレナは青ざめながらごくりと唾を飲み込んだ。




