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何故か王様になっちゃった件について。  作者: 白玉 ショコラ
第三章
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「っとまぁ、さんざん大人げない会話、というか一人語り!繰り広げてきましたよ!二十歳の英雄様が!」

「そうむくれるな、ミズキ殿。ミズキ殿のメンタルが回復したのであれば、己たちも嬉しいものだ」

「ん、そ。ユフィアナもうれしい。レムよかった。げんきはいい。でもユフィアナあんましちからになれなかった。くやしぃ」

「ううん、ユフィアナたんは力になってくれたよ。ありがと。二十歳にもなって、ごめんね?てかユフィアナたん二十歳なんだね⁉今更だけど驚いちゃうねレム姉⁉姉じゃないよね⁉その身長で二十歳ってどうなんだろうね⁉」

「言ったでしょぉミズちゃん。この世界ではぁ、二十歳が十五歳くらいなんだってぇ」

「それにしてもちっちゃいし言葉がとろとろしてるよね⁉」

 

 ユフィアナたんがわたしの頬を人差し指でぷいぷいとつついてくる。


 今は心に悩みを抱え、懸命に振りきった次の日の朝だ。食堂に行くため、四人で歩いている。


 正直、まだ微妙に解決しきっていない。否、かなりだ。悩みと言うか、黒くもやもやしたものはずっとしこりとなって胸の中で悲鳴を上げている。それを無視すると決めただけだと思っている。


 ララノラにもセーリーラにもユフィアナにも、精神的に補強してもらったのは本当だし、感謝もしているが、無理矢理立て直しただけだ。これからもっとしっかり直さなくてはならない。このままではいつ倒れてもおかしくない。


 もう立ち直れない、という状況からだけは、少なくとも脱出していたいから。だから――


「お?あれ、水樹じゃね?」

「ララノラちゃんもいるみたい」


 という声が聞こえてきた瞬間、一気に顔が青ざめ、思わず座り込んでしまった。


 そんなわたしを庇うように、一人の勇者が前に出た。そう、比喩抜きで勇者。


「おはよぉ、リンちゃん、サヤちゃん。今日も眠いねぇ」

「おっはよぅ、ララノラ!」

「おはよう、ララノラちゃん」


 ララノラの出るタイミングが完璧すぎて、わたしがしゃがみ込んでしまったのが誰にも見られていないという奇跡。


 すごい。としかいえない状況。ある意味、こちとらカオス。


「あら、おはようございますわ、ララノラ様。今日もいい天気ですわね」

「おはよぉレーちゃん」


 どこかララノラの対応ががさつに見えるレーイレア。心の中で「ざまぁ」と叫ぶ。とことん意地悪そうな顔をしているわたしに誰も嫌な顔を向けたりしない。だって、わたしを中心に囲んでくれているルームメイト――仲間たちは、全員わたしの味方だからだ。何も怖くない。


 いや、嘘だ。颯がレーイレアに奪われるのが怖い。奪われるほど独占していなかったつもりだけど。


「よ、ララノラ……さん?」

「おはよぉ、ハヤちゃん。今日も相変わらずいいイケメンっぷりじゃないのぉ」

「何言ってんだよララノラさん」

「えへへぇ」


 不意に、颯の声が聞こえてくる。それだけでギュウッと胸が締め付けられるが、わたしを庇ってくれるララノラの体温や、セーリーラとユフィアナの息遣いで、少しはまだ心拍数ちょい上がりくらい

で済んでいる。


 それに、ララノラがとことん優しすぎる。とことん甘えたくなる。今だって、いつものララノラなら颯に、「ララノラさんじゃなくてぇ、ララノラでいいよぉ」と言うところだろう。でも、何も言わなかった。それは確実に、わたしへの気遣いだ。颯にわたしだけ名前呼びされている、という、僅かな優越感に浸る余裕を、ララノラはわたしに与えてくれている。


――実際、それくらいしかレーイレアに勝る要素がないのだ。


「……ぁ?水樹は」

「あぁー……えっとねぇ、ミズちゃんはぁ――」

「――ここにっ、いるよ」


 ララノラが、バッと振り返る。視線が、わたしと絡み合った。わたしだって、微々たる時間の中で決心したのだ。颯と向き合うのはドクドクするけれど、レーイレアと目が合うのはギカギカするけれど、でも、立って話さなきゃ。


 『何かの想い』が、わたしをそうさせた。現にわたしは、味方に囲まれて、こうして立っている。


「おいおい、何かのマジックかよ。……貧相だな。んでもってはしたねぇ」

「何を言いやがるお前さん⁉」

「じゃねぇよ。ウス、水樹。お前らも仲良さそうでいいじゃねぇか」

「軽くスルーするのやめてくれないかなぁ⁉」


 結局、話せばいつものわたしなのだ。語尾に「⁉」を付けて突っ込みまくっていれば、だいたい羽葉澤水樹になれるのだから。


 『何かの想い』の正体なんて、分かりきっていることだ。颯が、わたしだけを名前呼びしてくれるから。颯が、一番最初にわたしの不在に気付いてくれたから。


 たったそれだけのことで、大きく胸を揺さぶられるわたしがいるから。


「ハヤト様、行きませんこと?わたくしもう、お腹がペコペコですの。早くハヤト様と朝食、いただきたいですわ……?」

「ッ」


 不意に聞こえてくる、不快な音。わたしにとっては、黒板を爪でひいた時のような音だ。もはや声と認識されない、したくない、無意識にわたしの中の「存在区域」から切り離されたモノ。


 レーイレア自体は嫌いではないのだが、颯を奪われると思うと途端に敵意にすり替わる。本当なら、いい子そうなレーイレアとは仲良くできそうなものなのに。


 でも、レーイレアの調子が、完全に昨日とは違うのだ。そう、あからさまに、一目で分かるほどに。何が目的か、わたしは知っているから――


――その、不愉快な甘くとろけた魅惑な声色で誘惑のためだけの雑音が、颯を魅了しているのが、気持ち悪いのだ。


 いわゆる、ぶりっ子である。颯の前だけ、レーイレアは優しく可愛く少し我儘で、それでも令嬢の見本であり、身分もそこそこ高くプライドも威厳も尊厳もある、立派できらびやか、そして豪奢でありながら清楚。そんな同級生の女の子を演じている。


 令嬢の見本より、ぶりっ子の見本にした方がよさそうな具合に、目をキラキラ輝かせ、下から見上げ、「わたくし二人で行きたいですわ」と誘ってくるレーイレア。


 わたしだったら、不快感ダダ漏れで拒否るか、あるいは嫌な人に割く時間が勿体ないと笑顔で徐々にフェードアウトしていくかのどちらかだ。


 そう……わたしならば、どちらかなのだが、颯はと言えば……


「あ、あぁ、レーイレア。そうだな、腹も減ったし。朝食行くか」


 見事にわたしの期待を裏切り、頬を真っ赤に染め上げ、レーイレアを見つめ返していた。



 彼女の、下の名前を、呼んで。



 わたしの唯一の存在価値を、踏みにじった。


「まっ、酷いですわ、ハヤト様。まるでわたくしが最初から目に入っていなかったかのようにふるまわれて。わたくし、悲しさで酔いそうですわ」

「悲しさで酔えんのかよ⁉」

「あら、ハヤト様がお相手でしたらこのレーイレア、いつでも酔えること間違いなしですわ。現にわたくし今、ハヤト様の声に酔っておりますもの」

「そ、うか。ハハ」


 どこか声固く、颯がレーイレアに対応している。いや、レーイレアの言葉や仕草、一つ一つが自分に向けられていることに、むしろ喜びを感じている。


 まだそこに恋愛感情はないのだろうが、少しはレーイレアを意識していることくらい誰の目で見ても分かる。分からなかったらその目玉は節穴以前に腐っている。


 そして、女子でわたしだけを名前で呼んでくれなかった。わたしと、レーイレアだなんて。最悪の組み合わせで、名前呼びしてくれるもんだ、この男も。


 の前に、レーイレアが邪魔である。何が「酔っておりますの」だ。清楚系であまりアピールせずにちょこちょこ颯の気をひいて、そこまで自分を強調せずにそっとモテていく作戦を立てていたのかと思えば、この有り様だ。……敵陣と言えど、思わずため息ものである。


 イラついているわけでも熱っぽいわけでもない。


 ただただ浅はかな彼女に、失望している。つまり、体全体が冷め、興味が失せた。


「あぁ……レムーテリン様たちも、一緒にいかがです?」

「……遠慮しますわ。わたくしたちはわたくしたちで、ルームメイトで親交を深めたいと考えておりますの。お誘いはありがたいですけれど……申し訳ありませんわ。また、いつか、今度ご一緒致しましょう」

「……?えぇ、分かりましたわ……?」


 彼女が不思議そうにわたしを見つめてくるが、それに対して一切の感情が湧かない。コレに割く時間が惜しい。


「さぁ、ララノラ、セーリーラ、ユフィアナたん。行きましょう」


 ついいつもの癖で「たん付け」してしまったが、まぁ特に問題はないだろう。逆に友情を見せつけるいい機会になったかもしれない。レーイレアに惚れかけている無様な颯に、見せつける。


「お、おい、どうしたのだミズキ殿。貴殿らしくないではないか」

「まぁいいじゃないの、セーリーラ。わたくしは今冷めきってしまっていて、温かいスープやお飲み物を頂きたい気分ですの。少しばかり急いでもよろしくて?」

「あぁ、構わないが……本当に大丈夫かとは聞かないでおこう。代わりに……無茶だけはしてくれるなと、そう伝えよう。意味などさらさらないだろうが」

「申し訳ないわ、セーリーラ。確かにその言葉の意味なんて皆無だわね。でも、貴女の詩的な表現、わたくし結構好んでおりましてよ」

「口調が変わっても言ってることはたいして変わってないミズちゃんに乾杯&完敗でぇすぅ」

「ユフィアナよくわかんないけど、レム。いっしょにコーンスープたべようね」

「あはぁっ、えぇ、えぇ食べましょうねユフィアナたん!このレム姉様、貴女のためならば腹十二分目になるまでコーンスープに付き合いますわぁっ!」

「口調が変わっても言ってることはまったく変わってないミズちゃんに乾杯&完敗でぇすぅ」


 正直怒る気力も熱をあげるやる気も、もはや冷める元気さえ消え去ったわたしは、親愛なるルームメイトに囲まれながらコーンスープを求めポーカーフェイス(?)で食堂に向かっていた。


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