お風呂編 Part3 ~緊迫~
おおお遅れました!もーしわけございませんっ!
大丈夫です、試験が終わったら毎日投稿します。
……違うよね。試験が終わったら毎日投稿目指します。
ショックは、受けた。もちろん受けた。けれど、それよりも、そうだろうな、と思った。
わたしより、レーイレアの方が可愛いし教養もあるし、きっと一緒にいて落ち着くんだと思うし、声も仕草も綺麗だ。肌なんてすべすべで白くて、絶対にわたしみたいに魔人と戦って死にかけたりしない優雅なお嬢様だから。
――嘘だ。悔しくてたまらない。わたしよりレーイレアの方が颯の中では上なんて認めたくない。だって、絶対、わたしの方がレーイレアより一緒にいた時間なんてずっと長いし、好感度とかは比べ物にもならないはずで――
「いやーあたしさぁ、思うわけさね!中身も外見も可愛いレーイレアと、外見はかっちょいいけど中身はどーでもいい榎賀!でも二人でいたらお似合いでピッタシ!いや、二人で話してる時見てたらさ、すっげぇマッチすんのね!ホントに!」
「うん、わたしも応援するよ、レーイレアちゃん。レーイレアちゃんならきっと、先輩くんのこと、射止められると思う」
「ありがとうございますわ、サヤカさん。ですがリンコさん?これ以上ハヤト様の悪口を言ったら、わたくしの剣がうなりますわよ?」
三人で、ふふっと楽しそうに歓談している様子が、脳内に入ってこない。わたしは、誰から見ても分かるほど動揺していたが、本気で真剣に青ざめる顔に赤みを取り戻し、笑顔を作って見せる。わたしの作り笑顔は一級品だ。露河に来てから、作り笑顔と値切りは得意になった。
「ですので、レムーテリン様。出来れば、わたくしの応援をして下さいませんか?」
「応援……?」
「そうですわ、もちろん固い意味ではなく、リンコさん曰く、『フレフレ的な何か』を、していただきたいのです」
するか、してやるもんか、と心の中で黒い感情が蠢く。出会って早々、いや考えて早々、レーイレアには悪い感情しか湧かない。
「レムーテリン様?」
「んぁっ、ごめんね。ん、分かりました。応援、出来る限りするよ」
「ありがとうございますわ!リンコさんにサヤカさん、それにレムーテリン様の応援があればわたくし、無敵と思っても構いませんわよね?」
「おいおいレーイレア!いくらあたしたちでもアイツの好きなタイプなんかは知らねぇぞ?」
凛子が、レーイレアの肩を軽快に叩く。彼女は、叩かれながら「あっ、やりましたね!よしっ、くすぐっちゃいますよ!うりゃえりゃとりゃ!」と凛子をくすぐりまわしている。さやかはその隣で、楽しそ
うにその光景を見て笑っている。
わたしの居場所を彼女に取られたような気がして、一気に心に空洞が生まれた。
「おぉいぃ、ミズちゃん?どうかしたのぉ?」
「あ、ララノラ……」
ふと、目の前で手を振るララノラが見えた。今は、ララノラの声に落ち着かされる。
何やってんの、わたし馬鹿なの?ずっと前から頼りにしてた友達より新しいルームメイト優先って……いや、それも悪くないかもしれない。
だって、もう無理だ。精神的に、あの中に入るのは。
「ねぇ、ミズちゃん。ララはぁ、心配なんてぇ、いらないと思うよぉ?」
「――ララノラ」
「ララ、ミズちゃんの考えてることぉ、ちょっぴり分かっちゃってる。ごめんねぇ?」
「ううん、ありがと。全然いい。一人くらいはわたしの気持ち、理解してくれたって、むしろ嬉しい。それがララノラなら、もっと嬉しい」
ララノラは、一瞬表情を綻ばせる。それが無性に傷ついたわたしの心を癒してくれる。だってきっとそれは、ずっと一緒にいた凛子とさやかの友情に、ララノラへの信頼が勝ったという、喜びだと思うから。その喜びを感じてもらえる人間に、ララノラの中で既になっていたことが、苦しいほど嬉しくて。
「ミズちゃん。お風呂、入ろっかぁ」
「ん」
妙に間延びした彼女の声が、胸に、染みわたる。
「あ?ララノラと水樹、もう風呂入んのかよ?」
「そ。御歓談をしに、ね」
「?」
つい、声が尖る。低くて冷酷な声が出てしまったことに少しばかり驚き、凛子に笑いかけて見せる。ちょっぴり、嫌味ったらしく。一掴みの、皮肉を込めて。
「わたしのルームメイト、すっごく楽しくって!ユフィアナたんもレムって呼んでくれて、癒しの抱っこまでプライスレスだし、セーリーラも強かで、優美で、力強くて、格好いいし、ほら、ここにいるララノラも!皆最高のルームメ――」
「ミズちゃん」
静かな静止の声に、わたしは言葉を止めてしまった。後ろから聞こえてきた、さきほどのわたしの声より低く冷たい響きで、彼女の声はわたしの耳に浸透する。
先ほどはこの上ない癒しになった、あのどこか抜けた白々しい声が。こんなにも毒気を孕んで。
「ごめん」
わたしは即座に謝った。今の否は、完全にわたしにある。それくらい、今の沸騰した頭でも理解できている。
「水樹?どったんだよ、何か調子おかしくね?」
「のぼせてしまわれました?」
「レーイレアちゃん、お風呂に入ってからじゃないと、のぼせたくてものぼせられないよ?」
こんな言葉でも、凛子の心に傷はつかない。そのことに、安堵する。
今わたしは、親友をばっさり切り捨てようとした。親愛なる凛子の心を、ぶった斬ろうとした。
嗚呼。馬鹿。何やってんだ。わたし。麗しき姫騎士の、羽葉澤水樹さん!
足元にある水でバシャリと音を立てて、わたしは振り返る。そこには、酷く悲しい顔をしてわたしに右
手をのばすララノラがいた。
「ごめん、ララノラ。お話は後でにさせて。ちょっと……気分悪い」
わたしはパシャパシャとお風呂から上がり、浴場を出る。後ろから、レーイレアの、全く罪悪感のない綺麗で澄んだ声で、「やっぱり、のぼせられたんじゃないでしょうか?」という声が聞こえてきた。
彼女が悪くないことなど知っているのに、拒絶する自分の身体。意図せず、歩くスピードが上がる。
バスタオルで適当に体を拭き、下着を着る。羽織物は適当に、持って来てあった浴衣のような着物を羽織って外に出る。どうせいるのはセーリーラとユフィアナのはずだ。別に少しだらしなくてもいいだろう。
「分かってる……わたしがいつ颯に惚れたのか、惚れる時間とか暇とかって、あったのか。なかったはずなのに、何で」
これって、――
「恋かな」
ちゃんと恋、してるんだろうか。
靴をひっかけて、すぐに女湯の暖簾を開けて出る。必死に、喉から声を振り絞った。
「セ、セーリーラ、ユフィアナたん、待たせ――」
「――?」
視線を、そろそろと上げる。一瞬だけ見えた顔が、腕が足が瞳が、格好が髪が、人影が。雰囲気が存在感が――違った気がして。
「っ」
何で、ここに――?
一番居てほしくない時にも、一番居てほしい時にも、その人はわたしの側で、けだる気に口元に微笑を浮かべ仏頂面で。
「水樹?」
「はやと……」
ぺたりとへたりこんでしまった大理石の床が、以上に冷たく感じて。それが、皆のわたしに向ける心の温度のような気がして。
辛かった。
恋って、辛いんだろうか。
経験とか全然ないから、分かんないです。すみません。




