髪ともういっこのララ
何このミラクル、とか思いながら側にあった椅子に座ってお茶をがぶ飲みし「あちっ!」とか言って驚き、ユフィアナの後ろからの抱きしめ――バックサイドハグと名付ける!――の癒しにより復活したわたしは、ヴェクとセーリーラに詳しい話を聞く。
「勇者は五人いるだろう?それが全員、この露河学園にいるんだ」
「嘘でしょ⁉ラッキーイヤースチューデントなのわたしたち⁉」
「らっきぃいやぁすちゅぅでんと?まぁそれは置いておくとしよう。己たち学年に三人、一つ上に一人、そしてもう一つ上に一人だ」
ラッキーイヤースチューデントは自作英単語だが、軽く流されて少しショックを受ける。まぁそこがセーリーラのいいところだけどね。
「一年生は、セーリーラ、ララノラ、カレナ。偶然にも皆最後がア行、このルームメンバーもだね……ごめん、ミズキちゃん」
「三つの名前全部使っても最後ア行の名前ないんですぅ。イ行とンとィなんですぅ。もはや『〇行』って付けられるのが一個しかないんですぅ」
「レム、げんきだして」
「うん、ありがとねユフィアナたん。レム姉頑張る」
「ん」
ユフィアナに背中を抱き着かれて、少しだけやる気が湧いてきた。オリジナリティと個性のある独特なキャラってことだよね!いいんだか悪いんだか……。
「二年生は、俺。三年生はアンカーだよ」
「セーリーラ、ララノラ、カレナ、ヴェク、アンカーね。よし、覚えた」
「身分順に言えば、アンカー、ヴェク、カレナ、ララノラ、己だぞ」
「え、セーリーラが一番低いの?」
一番まともそうなのに、という言葉はグッと飲み込み、続きを待つ。ヴェクもセーリーラのためなら暴走しそうだし。セーリーラだったら、ヴェクのことも考えるだろうけど事態に冷静に対処するだろうからね。
「そうだぞ。元々わたしは今の最下位国ツァンツの出身だからな。成り上がり者には世間も厳しいのだ」
「でも、名前は長いよね?」
「ツァンツ王の孫の血筋だからな。ツァンツという語は名字にこそ入ってはいないが、ツァンツの王の血筋としての誇りならば持っているぞ。それに、勇者としての尊厳もな」
「まぁ、今は災害も何にもないけどねぇ。七愚の魔物に備えてぇ、学園で特訓くらいかなぁ。することなんてそれしかないしねぇ」
なんとツァンツ王の血筋からの成り上がり勇者様だったとは。セーリーラの過酷であっただろう人生が知りたい。
二年前、わたしがこっちに来た時もツァンツは確かユラクソウの一個上だったはずだ。底辺近くを彷徨っている状態らしい。でもツァンツさんは優しいことに、一気に順位を上げたユラクソウに憎悪感情も持たず、普通に接してくれているらしい。
だからセーリーラみたいないい子が生まれるわけね!
「アンカーは王族の末裔だからね。俺は王族出身の父とコウリオウ出身の母、カレナはコウリオウ出身の父とリンケイ出身の母。ララノラは二人ともリンケイ出身だろう?だから圧倒的にセーリーラの身分が低いんだ」
「でも己は今年の夏、ヴェクと正式に、その……け、けけ結婚をすることになっていてだな。だからその、あれだ。カレナより上の身分になれるのだ」
「そうするとさぁ、ララが一番低い身分になっちゃうんだよねぇ。ハァ」
「そのような、己に迷惑を押し付けておきたいような発言はやめろ!ララノラ殿!」
確かに、出会った時から二人は気安かったような気がする。緊張感がなくて話しやすいペアだと思ったのだ。
「えーっと、わたしが会ったことないのは、アンカーさんとカレナさんだけだよね。早く会ってみたいなぁ」
わたしがそう言うと、ユフィアナ以外の周りの空気が一気に、凄いスピードで下がって行く。わたしはふわふわ温かいユフィアナで暖を取りながら、「な、何?」と聞いた。
「まぁ、踏ん張ってくれ、ミズキちゃん」
「ミズキ殿にカレナ……恐ろしい」
「アンカーもねぇ、アンカーだからねぇ」
な、何⁉何なの、ホントに⁉ねぇ、もう!怖いじゃん!
「で、でも、何でセーリーラもヴェクも、髪色がプラチナじゃないの?」
「髪色を変える魔法を習得しているだけだよ。本当ならプラチナなんだけど、俺には合わないからね」
セーリーラも、同意するように頷く。
いや、別に、合うと思うけどなぁ。まぁ、確かに今の髪色が一番しっくり来るかも。
「じゃあ、何でララノラは?ララノラはもっと紫系の髪色が似合うと思うよ?」
わたしは、本音を口にする。ララノラには、あまりプラチナが合わない。もっとシックで妖艶な雰囲気の濃い赤紫のような色が似合うと思っていたのだ。彼女は、気だる気にため息を着いて、わたしを見つめた。
「ララはぁ、みんなみたいにぃ、わざわざ自分の髪を偽造するなんてぇ面倒な真似ぇ、したくないんだよぉ。それにもぉ、エネルギーの保持も必要でしょぉ?だからララはぁ、いっかなぁってぇ。別にぃ、勇者ってバレてぇ、大変なことなんてないしぃ?」
「……」
いまいち現実味がない話だ。わたしは首を傾げて、ララノラを見つめ返す。少し経ち、ララノラが負けたというように首を振って改めて話し出す。
「まずぅ、ララはねぇ、勇者であるって以前にぃ、ララノラって一個人なんだからぁ、まずは勇者ララノラじゃなくて一人の人間のララを見てほしいって思うんだぁ。だから敢えてぇ、自分を隠さないでいるわけぇ」
「そうすれば、皆、ララノラのこと、勇者って見ちゃうんじゃ?」
「ミズちゃん、だから今ララはぁ、敢えてって言ったんだよぉ。ララはララ。ありのままの自分を受け止めてほしいんだぁ、みんなにぃ。だからぁ、勇者ララノラも隠さないってわけぇ。それもぉ、ララノラの一部だからねぇ」
難しい話だが、ララノラの言葉は間延びしているのにすっとわたしの耳に入ってくる。理解と共感がしやすい。果てしなくララノラらしくない理論だが、果てしなくララノラらしい理論でもあると思った。
「つまりぃ、ララはぁ、勇者ララノラもぉ、ただのララもぉ、そんでもちろんもういっこのララもぉ、三つの自分を持ってるってわけでぇ。三つともぉ、隠さないってわけぇ。もういっこのララは違うけどぉ、勇者ララノラもぉ、ただのララもぉ、二つとも髪の色はぁ、プラチナでしょぉ?だからぁ、誇るべき『ララノラ』の証拠を自分で消したくないんだぁ。だってぇ、ララノラの髪の色はプラチナぁ。そう決まってるんだもぉん」
感動した。久々にした。彼女の言葉で瞳が潤む。この中身幼女外見エロの女性が、こんなにまともで人の胸を揺さぶることを言うなんて……ララノラ、ごめんね、あんた、いいやつだった。
そう思って、わたしがララノラに笑いかけると、彼女も外見には合わない、ニパッとした笑みを浮かべた。そして、口を開く。
「でもぉ、結局はぁ、めんどくさいしねぇ!」
……
「こんの、幻想破壊魔めぇっ!」
「ぎゃぁーっ、ミズちゃん駄目だよぉ」
結論。やはり彼女は彼女なのだと知った。ララノラのいう「もういっこのララ」がよく分からないが、誰にも見せられない自分の弱さの事だろう。
「それと、勇者の中には天乃雨から来た人もいるんでしょ?」
「ララノラ」
―――
「え?」
「ララノラ」
「いやいやいや、天乃雨だったらアニメの中にしかいないキャラだから!」
「よく言われたよぉ」
うっそだぁっ!
こんな人が天乃雨にいたらドン引きもんなのに!と何故か悶絶するわたくし水樹。どーでもいーわ。
「いつ来たの?」
「二年前だよぉ」
もういっこのララって、天乃雨のララか!と変なところでも感動を生んでみたりする。こういうのほほん新発見、いい。
「同じじゃん!ひょーすごい!すごいやすごい!改めて絆が深まっちゃったり?」
「ララノラもミズちゃんのこと知った時、ビックリしたんだぁ。麗しき姫騎士になったって聞いて、一緒だって思ったのぉ。すごい嬉しかったぁ」
ララノラでもいいや。美少女に嬉しいって上目遣いで言われちゃぁ、ねぇ?
最近更新遅くなっちゃってすみません……
私立だからかな、夏休みの宿題に追われてまして(;^_^




