可愛いユフィアナだん・・・・・・
入学式の後、わたしたち新入生の出番はない。故、わたしたちはずっと部屋に籠っておしゃべりタイムだ。全員気の合う女子で、本当に良かった。
シェアハウスとかで、よくあるじゃない。合わない人と同じ家になって、すごく居心地が悪いってこと。友達のお姉さんがその状況に陥って大変って話を聞いたことがあるんだよね。
それに比べわたしたちは、ものすごく平和平穏無事万歳だ。和やかにうふふおほほあひゃひゃ(最後のだけ例外です)とやりながらお茶を飲みつつ、お菓子を爆食いする、という時間を過ごしていた。いわゆる「女子会」というやつだ。
わたしは天乃雨で女子会何て開催したことも、ましてや参加したことすらない女だ。こんなゆるゆるした時間を過ごすのは初めてである。
もちろん、本好き仲間や図書室常連メンバーで本の魅力について語り合う会ならば開催していた。その会は一回最低三時間、出るのはのどを潤すペットボトルの水のみ、という過酷な中で行われる神聖なパーティーである。
この会を侮辱した者は万死に値する!がモットーだった時代もあったが、全校生徒の約9割がドン引きしていたため、その9割が死ぬと学校が持たないということでそのモットーは呆気なくわずか二分で消え去った。
そして、ユフィアナはあの連絡石を取り出して側近にお菓子を持って来るように言っていた。すぐ後に素敵なお姉さんがお菓子を届けに来て、「ユフィアナ様、お気を付けくださいね」「ん、分かってる。待たね」「はい」と主の頭を撫でて帰っていったのは記憶に新しい。
「それにしても、この菓子は美味いな」
「ありがど……いたぁい」
「ぅえぇ、ユフィアナたんどったの⁉」
「したかんだ」
確かに言われてみれば、彼女の言葉の最後辺り、僅かに濁音が聞こえたような気がする。ただの雑音だと思っていたが、ユフィアナの口の端からあくまでも貴族らしく、優雅に流れ出る真紅の鮮血は何故か美しく、見ているこちらがあまりの儚さにホウッとため息を漏らすほどの芸術作品となっていて――
「じゃないよね!ごめん!わーわーどうしよ、わたし知らないよ!口から血を滴らせる少女の後始末の方法なんて!」
「ごめん。ユフィアナがおかしもってきてっていったから。レムがわるいわけじゃない。ぜんぶユフィアナがわるいんだがら……ぅぅ」
「わきゃーっ!また噛んだ⁉噛んだよね今確実にねぇ⁉ユフィアナたん!」
結局、何事も落ち着いて冷静に対処するセーリーラが全てを丸く収めた。というより、わたしたちがあたふたと(「レムごめんめいわくかけで……ぃぃ」「ぎゃーっもうやめよう!ユフィアナたん!」「血、なくなるがも……ぉぉ」「感心しないでね⁉あと舌噛み切ると死ぬからね⁉血が無くなる以前に!」)やっている間に、全てが終わっていた。いつの間にかユフィアナの口から滴り続ける鮮血は消え、下の傷もなし。床に垂れた血まで消えていた。
セーリーラ、サンキュー!
それにしても、まぁ、言ってしまえば、このルームメンバーは奇跡のように全員が見目麗しい美女たちだ。それに、貴族の令嬢やら麗しき姫騎士やら勇者やらがいるんだから何とも言えないが。
わたしだって、自慢のようで嫌だが、自分が不可解な現象により美人になっていることくらい知っている。だからこそ、この部屋は最高だといえるのだ。
だって、こんな美女に囲まれてお茶会とか、夢みたいよ!どこをどう見ても、ふわふわもちもちの癒し系女子、キリッとしているが清楚なお嬢様、魅力的な体形のセレブな雰囲気漂うセクシーお姉さんがいるわけで。
颯に見せたら泣かれるぞ。水樹ずるいぞ変われって。ここまで来たら変わってやらないね。こんなに至福の時間過ごしたことない――わけじゃないか。一日中本を読めたあの日!覚えてるよ。楽しかった!それの次に楽しいもんね。
「ミズキ殿、己はこの菓子が特に気に入った。食べてみてくれ。美味いぞ」
「わっ、そう?……もしゃもしゃしゃくしゃく……これ、ユッチェントの味?」
「そだよ、レム。ユフィアナもだいすき。だからもってきた。みんなすきになってくれたらうれじい……」
「のおぉぉっ!セーリーラ対処プリーズ!」
「ぷりぃずが何か分からないが、とりあえず止血だな」
わたしの言葉に疑問を抱きつつ、姉御なセーリーラが素早く、目にもとまらぬ速さでユフィアナの口周りを色々やっていく。気が付けば何もなかったかのようにお茶をすすっていた。
わぁお。
「ありがとセーリーラ」
「いや、構わない。……礼は抱擁で構ない」
「サラッと条件に抱擁を入れるセーリーラに乾杯&完敗です」
ま、セーリーラの気持ちも分からなくはない。というか同感だ。わたしも「お礼は抱っこで!」「いーよ」となっていただろう。現に目の前では、「いーよ」と了承したユフィアナにセーリーラが抱き着いている。
ユフィアナの背はとにかく低い。そして声が高い。子供のような可愛さと口調で、わたしたちを誘惑する。眠そうにとろけた薄紫の瞳でわたしたちを見つめる「喋る小動物」を抱きしめたくなる気持ちよ!あぁ!
知ってる、知ってるよこんなキャラ!あの本とあのアニメのあの子とあの子だよ!
「ララはぁ、ミズちゃんを抱っこするねぇ」
「ひぃぃっ⁉ラ、ララノラ⁉」
「ん~?」
突然後ろから、豊満な体が迫っていた。ギリギリ交わすことも出来ずに、されるがまま振り回されているわたしに、セーリーラとユフィアナが同情の目を向ける。
「ララノラ殿……ミズキ殿。ふぁいと、だ」
「セーリーラぁ!」
「ふぁいと……レム、ふぁいと」
「っ!頑張るよ、レム姉!」
セーリーラが片手を額に当てて軽く首を左右に振りながら、もう片方の手でギュッとユフィアナを抱きしめている。そのユフィアナは右手をわたしに振りながら抱き着いて来るララノラを見ている。
ユフィアナたんがそう言うなら、このレム姉!頑張る!




