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何故か王様になっちゃった件について。  作者: 白玉 ショコラ
第三章
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ばいんばいんとキリリ天使

『以上で、第三十回露河学園入学式を終わります』


 最後まで、冷静で機械的かつ感情の籠った女性のアナウンスで、入学式は終了した。途端に、新入生が話し出す。


お、これはもしやまさかチャンスでは⁉


 わたしは、すぐに主席に駆け寄る。


「セーリーラ様、お初にお目にかかります。夢楽爽の姫の従姉妹レムーテリンこと、麗しき姫騎士リーミルフィこと、移民の羽葉澤水樹と申しますわ。これからどうぞ、よろしくお願い致します」

「ミズキ殿、そのように畏まらなくとも構わぬ。セーリーラとでも呼んでくれ。己たちは学友ではないか」

「おぉっ、学友……!まさかこの平凡な言葉にこんなに感動する日が来るとは思っても見なかった!」

「ミ、ミズキ殿……?」


 セーリーラがわたしを不可解な目で見つめてくるが、そんなの関係ない。これで、これでやっと、露河の女友達が出来た!ちょっと変わってるし、自分のこと「己」って言ったりぶっきらぼうだったりするけど、本でもこういうクール系はいるよね!いいよいいよ~♪


「わぁ、ミズちゃんとセーちゃんがいるぅ。ララも一緒にお話ししたいなぁ」


……空耳が聞こえた。こんな年で幻聴とか、嫌だなぁ。


「おーい、ミズちゃぁん?」


……聞きたくない声が聞こえるよ。わ、幻覚も。まだ二十歳だよー。


「ミズキ殿、どうかなさったか?」

「セーリーラ⁉」

「おぉ、気が付いたか。先からしばらく前を見ながら硬直なさっていたぞ?」


 彼女の声ではっと覚醒したわたしの目の前には、可愛らしいセーリーラの顔がある――のだが。


「ララもぉ、びっくりっちゃったよぉ。も~ぅ、何にもないんならぁ、ララたちのことぉ、心配させないでよねぇ」

「はっひふっへほ~!」


 ドアップで視界に映りこんでくるプラチナ美女。艶々で煌いた紅色の唇がぽよんと動くのが地味に色っぽくて……麗しいセーリーラの像を完全に消し去った勇者よ。君のことは別に嫌いじゃないがこの後絶対厄介事に巻き込まれるぱてぃーんでしょ?目に見えちゃうんだ。ごめんね。だからボクは君からそっと遠ざかるよ。すすすす……


「あっれぇ、ミズちゃんどうしたのぉ?突然動き出してぇ。なんかロボットみたいだねぇ。足も動いてないよぉ?何の魔法なのぉ?」

「ララノラ殿、魔法ではないようだぞ。ほら、よく見てみるとよい。足が細かく凄い速度で動いているではないか」

「うっわぁ、ミズちゃん俊敏~!よくできるねぇ、ララできないよぉ」

「何かから本気で逃げようと思ったら出来るのではないだろうか。何となくだが、ミズキ殿から焦りと慌てが感じられるぞ」

「何から逃げてるんだろうねぇ」


貴女です。


 という言葉は口にせず、右に逃げていたわたしは出入り口のドアに盛大にぶつかった。


「いっつぅっ!」

「ミズキ殿⁉」

「ミズちゃぁん、駄目だよぉ、怪我しちゃぁ!」


 不幸中の幸いというやつで、全身にエネルギーのガードを張り巡らせていたおかげで怪我はなかった。だが、痛みは頭や骨にガンガン響いている。


「ぅうぅ……」

「ミズキ殿、落ち着いて行動なさってくれ。でないと己たちも困惑してしまう」

「ごめんなさい、セーリーラ……」


 わたしに癒しの魔法をかけながら苦笑するセーリーラは、すっかり人が消えた講堂を見回して呟いた。


「ミズキ殿、そのように他人行儀なのはいらぬぞ。ところどころ、遠慮が見られる」

「あぁ……バレてました?」


 セーリーラは仕方なさそうに笑う。そして、少しばかり瞼を伏せて、膝のあたりを見つめる。


「……正直なところ、もっと親しくしてほしい」

「……」


 セーリーラのこんな顔なんて見たくない。わたしは迷わず言葉を投げかける。側にはララノラという人もいるが、さすがに彼女も空気を読んだのか、自重して何も言わないで待っていてくれている。


「セーリーラ。分かった、じゃあこれからは身分も何も関係なく、友達ということで。それで良いよね?」

「ミズキ殿」

「実を言うと、わたしも、セーリーラともっと仲良くしたかったの。だからわたし、セーリーラの方から身分の壁をぶち壊してぶっ倒してぶった切ってくれて、すっごい嬉しいよ?」


 わたしは、感激してわたしを見つめるセーリーラに笑いかけて見せる。


「セーリーラがわたしの初めての露河友達なの。ずっと女友達が欲しかったから、セーリーラには感謝感激雨嵐!いくらありがとって言っても足りないくらい。貸し借りの借りが多すぎて貸すことなんてほぼなくなっちゃうかもしんない。でも、セーリーラと友達になりたいです」


 天乃雨で青春を満喫していた頃の、いや、それよりも快活なわたしがいる。セーリーラと話していると、すごく元気なわたしになれる。


 ヤバい、まずい、どうしよう。わたし、セーリーラが好きすぎる。いや、そっちの意味じゃなくて。そう、まさに!セーリーラこそ、わたしの中のプリンセスメインヒロイン!いや、さやかも負けてないぞ!


「あのぉ、ララ、珍しく空気読んでみたんだけどさぁ、突然ミズちゃんが嫌らしい目し始めたから、ちょっとストップかけるねぇ。ストップぅ~」

「ふぇっ⁉あ、セーリーラ、ごめん、ちょっとセーリーラとさやかは二人ともプリンセスメインヒロイン~とか好きだ~とか考えてたから、ちょっと、ついね……ってもっとひかれた⁉」


 ララノラがわたしの頬をぐにっとつまむ。


「ひょ、ひょっと、ひゃひゃのひゃひゃま?(ちょ、ちょっと、ララノラ様?)」

「もぉミズちゃんったらぁ、セーちゃんがびっくりっちゃってるよぉ?」

「ひぇっ、ひゅひょひぇひょ⁉(えっ、嘘でしょ⁉)」

「ホントだよぉ、ほらぁ見てみなさぁい」

「ひゃーっ、ひぇーひーひゃ、ひひゃうひょ!ひひゃうひょひょ⁉(ひゃーっ、セーリーラ、違うの!違うのよ⁉)」


 確かに、あんな誤解されそうなことを言ったら誰だって気味が悪いと思うだろう。で、でもっ……


「ひょんひゃ、ひゃひひゃひぇひぇひひゃひゅひぇひょ……(そんな、涙目で見なくても……)」







「ごめん、遅れた~」


 どうにかララノラから逃げかえり、怯えるセーリーラを宥めた後、わたしは先に講堂を出ていた仲間に急いで合流した。


「よ、水樹。仲良くやってたから置いてってやろうと思ってたんだけど」

「ただのララノラ様の押し付けでしょーがっ」

「えっ、でも、水樹ちゃん、新しいお友達とも仲良くしてたよね?」

「あぁ、セーリーラ?うん、あの子は可愛いよ。新しい羽葉澤水樹が出たっ、て感じ」


 わたしは、演技っぽく様々なかっこつけポーズを取ってみる。三人から冷めた目で見られたので、すぐにやめた。


 そのまま四人で歩き出す。いつの間にか、颯がメイドさん(学園のお手伝い兼お掃除係だったらしい。それにしては魅力的な体ですな)から、わたしたちの部屋割りを貰っていたらしい。


「四人部屋?嘘!まっ、マジっすか!」


 それは、わたし&颯&凛子&さやかという最高のメンバーの可能性大では⁉あ、凛子がセーリーラでもいいよ。脳内で凛子が叫んでるけどまぁいいや。


「でっ、でっ、わたしは誰となの?」

「良かったじゃねぇか。仲いい奴らばっかだぜ。あと一人、知らねぇ奴」

「おぉっ⁉」

「さっきのメンバーだよ、お前ら仲良かっただろ。お互い幸せだな」

「……ぇ?」


 真顔で返してくる颯の言葉に絶句したわたしは、不意に自分の喉から出てきた掠れた声で現実に戻った。


「え、って、ほら、さっきの三人組だよ」

「ぅ、ぅ……うっそだぁっ‼」


 わたしはやけになって冷や汗で背中をびちょびちょにしながら颯の手から紙を奪い取る。そこには、『A棟1号室……ハヤト・ロガ、リンコ・ナツバタ、クィツィレア=ユラクソウィッテ・アローラ・ユーヒレア=ジェヴァーノ・ミルティック、レーイレア=イスクレッテ・メルゴライル』とある。クィツィレアの名前の長さが二人と比べると長すぎて、読むのが大変だ。ってか、わたしの部屋はどこだよ。嫌な予感しかしないから、見るのは後にしたいです。


「よ、よよ良かったね三人とも……」

「あぁ、良かったぜ?」

「おぅ、良かったぞー」

「うん、良かったよ!」


 三人とも微妙にバラバラだけどおんなじことを言ってくれてありがとう。


 そしてわたしは、2号室の方に視線を滑らせる。


「――。――――。――――――――」


『A棟2号室……セーリーラ=ローゲルディック・ミュリレ=ヴェツァート・マノエグ・モース、ララノラ=ソイーロリド・イル・ミドゥ=イタルゥニィナ、ユフィアナ・エルメリック=カーリーラ、レムーテリン=ユラクソウィッテ・アロール・ユーヒレア=ジェヴァーノ・ミルティック』

「――。――――。――――――――。死んだーっ!」


 別に、ララノラ様が嫌いなわけじゃない。背筋に悪寒が走るんです。小説にいそうなキャラだよね、とは思うけど、実際に会って見ると怖いね。それがルームメイト?……別に嫌いじゃないよ?好きでもないけど。常識的にちょっと、ララノラ様は、ね。いや、いいんだけどさ。よし、決めた。頑張るよ!わたし、ララノラ様と仲良くなってみましょう!出来る範囲で!あと。……ユフィアナさんって、誰?


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