講堂でのあれこれ
その後、そそくさとララノラと別れて、わたしたちは英雄組として部屋の隅っ子に集まった。
「ねぇ、これどうしたらいいの⁉」
「何がって、まぁなんとなく付き合っていけばいいんじゃね?」
「違~う!ララノラ様の幻想破壊だよ!ゴスロリメイド服でも着てきてほしかった!いや、身長をもっと縮めないとだね」
何を言っているんだコイツは、という目で全員から見られる。どことなく颯の目が覚めているような気がして、わたしは彼の肩を揺さぶった。
「あんたもギャルゲ好きなんだから分かるでしょ⁉ああいう台詞を言うのはだいたい低身長ゴスロリ美幼女!」
「いや、少し違うな。低身長ゴスロリメイド美幼女だ」
「「どーでもいーわ」」
凛子とさやかからストップがかかった。ごめんなさい。
凛子が一歩前に出て、右手の人差し指を突き出す。
「とにかく!社交だ外交だ接触だ!情報集めまくって友達増やすぞ!」
「~だシリーズの最後のだけ、すげぇ怖いぜ……」
「この世界の最初の女友達があれってどうなの?」
ツッコミにツッコミを返して、最後にため息を着いたのは至って冷静で可愛いさやかだけだった。
「水樹、覚えてるか?」
四人で集まって話をしていると、突然颯が話し出した。
「何を」
「イズフェの弟のニズフェだっけか?それが学園にいるって、話してたじゃねぇか」
「そういえば……そんなこと言ってた」
「だろ?」
「かもしれないような違うようなそうじゃないような」
「おい」
軽く頭を叩かれたのが結構痛くて、わたしは思わず「うぅ」と呻いて少し目線を下げ颯を下から睨み、頭を押さえてみた。ギャルゲにでも合ったりするポーズなんじゃないの?目の淵に涙なんか溜めちゃってさ。……って、おぉっ⁉
「そ、そそそそれは、俺のメリアちゃんのポーズ⁉いや、クリスちゃんにも似てるような、その双子のマリスか⁉」
「誰でも変わんないし!っていうかホントに登場してたし!いや違うし!」
と、いうことで。
「ニズフェさぁん」
「馬ぁ鹿」
ニズフェ探しをしてみることにした。講堂のどこかにはいるだろう。と思ったら、ここは新入生だけの場所でした。ニズフェさんはいません!
「で!またこの隅っこに集まって来ちゃいました英雄共です笑いたか笑えばいいさハッ」
「「「――」」」
やけに悲しい沈黙が続く。苦笑いを浮かべるわたしの頭を叩き、颯が発言する。
「ニズフェは明日探そう。水樹、夏端、夜桜、そろそろ入学式が始まるみたいだ。講堂から新入生が案内されて出て行ってるぜ」
「お……そうだね、わたしたちも隅っ子から移動しないと」
お友達を作りたい。さすがに、ララノラはお友達認定したくない類だからね。絶対に量の部屋で一緒になりませんように。きっと三人部屋だよね。仲間だからわたしと凛子とさやかになるよね。
「レムーテリン様、ハヤト様、リンコ様、サヤカ様。おいでくださいませ」
「分かりました」
わたしたちがメイドさんに呼ばれる。すぐに行くと、彼女は笑って「こちらですわ」と歩き出す。学園の中はやはりとてつもなく広い。この建物の中を把握できているメイドさん達の記憶力よ。
メイドさんが止まったのは、大きな扉の前だった。ここで入学式が行われるらしい。メイドさんがドアを開けてくれる。目の前に広がるのは……先程のどでかい講堂の何倍だろうか。ゆうに三倍は越しているであろう大きさに圧倒どころではない驚きに打ちのめされる。
「ふぇ……でかっ」
「でけぇな、会場。まぁ、露河に一つしかない学園なんだし、学生も多いのか?」
確かに、と颯に相槌を打ちながら、わたしは新たなメイドさんに案内される。講堂のど真ん中の席、前から三番目だ。前も見やすいし人に囲まれていて落ち着く。
「水樹ちゃん、首席のご挨拶があるみたいよ?首席って誰だか分かる?」
「首席?あぁ、入試の首席じゃないかな。わたしたちは受験してないからさやかもわたしも知らないよ。どんな人だろうね」
「「ガリ勉じゃね?」」
まさかこんなところで颯と凛子の声が重なるとはね……。
そして、全員が席に着き、皆がホッと息を漏らした時、講堂内に静かなアナウンスが流れてくる。
誰もがどこか固く緊張した顔をして、アナウンスに耳をすませる。
『ただいまより、第三十回露河学園入学式を始めます』




