ララノラ Take2
ついに来てしまった。この日が。この恐ろしい日が。
「それじゃあ、行こっか……」
朝から、水樹が暗いと言われる。仕方ないと思うのだ。語尾のばし常識知らず低身長ゴスロリ(想定)に会うんでしょ?それに質問ざめにされるってことじゃん。普通は怯えないよね。でもね、この立場になって見ると恐ろしいもんだよ。
「じゃあ、僕が魔法を使うから、手を繋いで」
わたしは、アスートの右側を、颯が左側を掴む。わたしの右は凛子、颯の左がさやかだ。
「それじゃあ……学園へ!」
イズフェが、にこやかに手を振りながら見送ってくれる。ありがたいものだ。振り返そうとするが、手が繋がっていてできない。仕方ないので、凛子ごと左右に振った。
「ぅわぁっと⁉どったのさ水樹⁉突然振られた身にもなってみろよ⁉」
「あ、ごめんごめん」
しょうもないやり取りを最後に、わたしたちの意識はヨウカリから遠く離れた。
ぼふっ、と下の方から音がする。見てみると、わたしは草の上に座っていた。右には凛子、左にはアスートたちがいる。
「ついたみたいだね。目の前の建物が学園だよ」
「毎回有難う、アスート。後は大丈夫。気を付けて帰って」
「また同じ魔法を使うだけだよ。それじゃあまた、いつか」
そっか、またいつか、なんだ。颯も、二人と別れて別行動ってことだよね。なんか……悲しいね。わたしは、そっとアスートを見送る。彼がふっと消えた事を確認すると、わたしは一歩踏み出した。目の前に聳え立つ、興利央の城ほどの大きさの学園を見据えてわたしは叫んだ。
「青春、謳歌すっぞー!」
「「「おーっ!」」」
とは言ったものの、学園に入るための門を開けるところから始まった。門番がいたのだが、「麗しき姫騎士とオムニポテントナイト&ソールドレディ、レイカの英雄たちのリーダーです」と言ったら確認してきますなんて言われてしまった。
青春謳歌しようと思ったらいきなり身元確認だよ。悲しすぎない?
「お待たせいたしました、レムーテリン様、リンコ様、サヤカ様、ハヤト様。お通り下さい」
「あ、あら、ありがとうございますわ」
ここでは上品な言葉を使うべきだと即座に判断したわたしは、優雅に微笑んで一礼し、開けてくれた門を抜けて学園に踏み入れる。
「わぁっ!」
そこは、庭園と呼ぶのが相応しいような場所だった。噴水や花畑、草のアート、花のアーチ……とにかく綺麗なものばかりだった。
「綺麗だわ……」
「ですね、レムーテリン様?」
「茶化さないで欲しいですわ、ハヤト様」
左から肩をつついて来る颯を軽く睨んでから、わたしは庭園の中続く、一本道を歩いていく。石畳のような雰囲気で、洋風だ。それでいて可愛らしいなんて、この建築家なんて技術なの⁈
「この扉を開ければ、学園の中よね。えいしょっと」
わたしは、全体重をかけて大きな飴色の扉を開ける。わたしの身長はゆうに越し、まぁ、約3メートルといったところだろうか。でかいよ、全部。
扉を開けると、大理石の壁、床が広がっている。廊下の広さが半端ではない。控えていたメイドのような人たちがスッと出てきてくれる。
「レムーテリン様、ハヤト様、リンコ様、サヤカ様。すぐにご案内いたします。着いて来てくださいませ」
「あ、えぇ、畏まりましたわ」
何で名前を知っているのか、という疑問は口に出さず、わたしは手を前で交差させて優雅に歩く。音を立てないのがポイントだ。後ろには颯がいる。上から、漏れだした笑いが聞こえるのがひっじょーに不快だ。
メイドさんは、廊下を突き当りまで行ってT字路を右に行って一つ目の扉の前で止まった。
「こちらでお待ち下さいませ。新入生の方々が集まっていらっしゃいます」
「有難うございましたわ」
わたしはドアまで開けてくれたメイドさんにお礼を言うと、わたしはスッと中に入った。途端に、ざわめきが聞こえるようになる。講堂のような部屋の中では、新入生が自由にお喋りをしている。
「わたくしも混ざりたいわ……」
「水樹、一緒に行こうぜ。それと、その口調なしな?普通で良いんだぞ?メイドさんがビックリしてた」
「え、そうなの?知らなかった。ありがとね、凛子」
わたしは、新入生の雰囲気を確認する。
低身長のゴスロリ、どこだ……。
「貴女がぁ、レムーテリン様ぁ?」
「ひゃっ⁉え、えぇ、そうですわよ……って、でかっ⁉」
不意に視界に飛び込んできたのは、煌くプラチナだった。そして、豪奢な衣装。わたしは鎧なので、何だか悲しくなるよ――じゃなくない⁉ちょっと待ってよ、これってもしや――
「よく言われるのぉ。ララは、ララ。よろしくねぇ」
当たっターっ!
わたしが脳内で最高に頭を抱えていると、颯がわたしの背中をグイッと押してくる。その痛みで覚醒し、わたしはすぐににこやかで柔和な笑顔を作って相手を見上げる。
「ララノラ様、ですわよね?存じておりますわ。わたくしはレムーテリンことリーミルフィこと羽葉澤水樹と申しますの。これからよろしくお願い致しますわ」
「よろしくねぇ、レムちゃん。この人たちはぁ?」
初対面の人に仲間の紹介をせがむ低身長ゴスロリ美幼女――改め、高身長マーメイドドレス美女を見上げて、わたしはひきつった笑顔を浮かべ、必死に対応した。
「こちらが颯、レイカの英雄のリーダーですわ。こちらはオムニポテントナイトこと夏端凛子。そしてこちらが、ソールドレディこと夜桜さやかです」
「ハヤちゃんとぉ、リンちゃんとぉ、サヤちゃんねぇ?りょーかーい、よろしくねぇ?」
「ぉあ、あぁ、これからよろしくお願いします、ララノラ様」
「ララノラ様、だっけか?これから頼みま~す!」
「さやかです。ララノラ様、仲良くして下さいませ」
さやかの圧倒的可愛さを上回るララノラのギャップに、わたしは冷や汗をかいていた。
え、何で?何で低身長ゴスロリ美幼女じゃないの?普通ここはそう来るでしょ?違う?違うの?
ララノラのセクシーで何とも魅力的な体に張り付く淡い水色のマーメイドドレスの裾がゆらゆら揺れている。まさに、出るところは出、引っ込むところは引っ込んだ、男性の理想的な体型ではあるが――言葉が、ねぇ。
ララノラの髪色はプラチナだ。勇者の証ともいえる。長く伸びた前髪は左右に垂らし、すっきりとしつつも長い後ろ髪も、丁寧に整えられ艶もついた状態でドレスの上に重ねられている。髪の上にはカチューシャのように等間隔で真珠のような宝石が並んでいる。それが唯一の髪飾りだった。
「えっとぉ、リーちゃんって呼んだ方が良いかなぁ。それともぉ、レムちゃんがいいかなぁ?」
「どちらでも構いません」
「じゃあぁ、ララの好きな方にしちゃお♪えっとねぇ、ミズキちゃんだから、ミズちゃん!ミズちゃんはぁ、ララたち勇者を探してるんでしょぉ?」
わたしは、軽く頷く。背が高すぎて、必死に見上げている状況だ。2メートル近くあるんではなかろうか。わたしの顔がちょうど彼女の胸の下あたりで、非常に居心地が悪い。
「ララがぁ、みんなのことぉ、紹介してあげよっかぁ?」
「よ、よろしいんですか?」
「いいよぉ。ララもお手伝いするねぇ。だってぇ、七愚の魔物でしょぉ?危なくっておっかなくって怖くって、落ち着いて寝れないもん」
「ですよね!落ち着いて読書が――あれ?」




