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何故か王様になっちゃった件について。  作者: 白玉 ショコラ
第二章
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ララノラ

 石は、心梨の目の前に、ふわりと表れた。光の再結晶だ。心梨がそれをギュッと握りしめると、高く興奮した声が耳に飛び込んできた。


『まぁっ、レムーテリン様⁉お話しできるなど光栄ですわ!わたくし、勝手ながらジムを研究させて頂きました、研究者のイルゼットと申しますわ――』


『ちょ、イルゼット様!レムーテリン様、レムーテリン様と仰いませんでしたか⁉もしかして……初めまして、レムーテリン様!私はモールクレットーと申します。天乃雨からいらっしゃったんですよね?噂に聞いております。是非、是非、お話を伺わせて頂きたい!』


『そうですわ、モールクレットーの言う通り!わたくしたち、有り余っております時間だけが取り柄ですのよ!レムーテリン様のご都合のよろしい時をお教えくださいませ。それに合わせて、わたくしたちも動きますわ』


『きっと私が一番レムーテリン様とお会いしたいはずだ!イルゼット様、少しばかりに私にお貸しくだ――』


『いいえ駄目よモールクレットー。わたくしの方が会いたいに決まって――』


『ふわぁ……』


 突如、場違いな欠伸の音が石から聞こえてきた。


「?誰、心梨?」

「わたしにも分からないわ」


 そりゃあ心梨に分かるわけないかと、わたしは耳を澄ます。


『二人ともぉ、もうちょっと落ち着いて話そうよぉ。ララ、眠いよぉ』


『あら、ララノラ起きたのね』


ららのら?誰じゃそりゃ。研究者さんと移民さんだけじゃなかったの?


『ララノラ様!今、レムーテリン様のお言葉が聞けたのです!』


『おはよぉ、イル、モー。レムーテリン様って誰なのぉ?』


『ララノラ様はご存じありませんか?私たちの尊敬すべきお方でございます!』


え?


『レムーテリン様ってねぇ、ララ、聞いたことあるよぉ?』


『ララノラの起きているときに話したことなんてあったかしら、レムーテリン様のこと』


『イルゼット様、私たちはいつだってレムーテリン様のことを話しているではありませんか』


え⁉


『ララねぇ、レムーテリン様が良い人ってことは知ってるのぉ』


『そうです!ララノラ様、そうなのですよ!レムーテリン様は素晴らしき方なのですよ!羽根ペンを作って下さったのもレムーテリン様です!』


『ハネぺん?』


「ちょっと待って、何、わたしが奉り上げられてるんだけど?羽根ペンとか作ったらどうかなーってノリで作って、ジムもストレス発散させてあげようって作っただけなのに!」


 あまりの三人の尊敬の仕方にドン引きしながら、わたしは全力で抗議する。わたしは決して、こんな良い人ではない。


「その前に!ララノラさんって誰⁉」

「あ……それ、聞く?ミズキちゃん」

「聞かなかったら何も分かんないし」


 心梨は、ため息を着いて、そっと一言零した。


「勇者よ」


「――ごめん最近耳悪くてさ――」


「勇者の一人よ」


「――脳味噌が追いつかなくて――」


「五人の勇者の一人よ」


「嘘って言ってねぇお願いララノラさんと一緒に戦ったら『ララやめるー』とか言って帰られそうで怖いからぁ!」


「嘘じゃないわよ、ミズキちゃん。それに、ララノラ様は十分お強いわ。ララノラ様に敬語を使わないイルゼット様はそんなに権力をお持ちだったかしら?もしかして、ララノラ様のお母様?」


 こんな幼女が勇者で落ち着いていられる皆が分からない。か弱いし、すぐ死んでしまうし、会話の内容から察するにいつも寝ているみたいだし、強いとも思えない。それなのに――


「ララノラさんだけで、前のわたしと颯と女王を合わせたレベルの強さ……恐ろしくて考えたくもないね」


 こういう小説を呼んだことがあるから、もっと怖い。この後戦争になっちゃうからなあ。絶対嫌だよ。戦争断固反対、絶対平和主義。


「こりゃあ、ララノラさんにも会わないとだね」

「そうね。それじゃあ、また始めるわよ」


 心梨は、握っていた石を離した。すぐに、会話が続く。


『このペンです、ララノラ様!』


『……ふぅん、ララも作れそうだねぇ』


『そりゃあ、ララノラ様に出来ないことはありませんから』


『でもララ、明日から学園だからお茶会なんてできないよぉ?』


『大丈夫よララノラ。レムーテリン様も明日から学園に入学されるそうだから』


「待って!」


 わたしはすぐさまストップをかける。イルゼットがわたしの学園入学を知っていることも怖いが、それよりなにより一番怖いのが――


「ララノラ様が学園に入学⁉」

「そうよ、ミズキちゃん。ララノラ様は今年で二十歳。ミズキちゃんたちと同い年よ」

「えぇっ⁉」


 新事実、発覚。こんなに甲高い眠そうな声で、二十歳。自分のことを「ララ」と呼ぶ、一日中寝る、二十歳。羽根ペンを知らない語尾のばしロリ(想定)。幼女勇者から、一般勇者になるララノラ様。――脳味噌がちゃぽちゃぽだ。


『そうなのぉ?それならララ、レムーテリン様とぉ、沢山話してくるねぇ』


『有難いです、ララノラ様!』


『ララノラに任せればたいていは大丈夫よ。それより、この会話は全部聞こえているはずだけれど?』


『あぁ、そうでした!レムーテリン様、これから私たちをお願い致しま――』


『聞こえてるぅ?ララだよぉ、こんにちはぁ、レムーテリン様ぁ。ララとこれからぁ、仲良くしてねぇ?お願いしまぁす。天乃雨から来たんでしょぉ?たっぷりお話聞かせてねぇ。ばいばぁい』


ぶちっ。

……

――

―――


「え?え、どうすんの、これ。え?」

「「「「「「さぁ?」」」」」」

「えぇーっ!」


何この「知らねぇよ勝手に考えてろオレ関係ねぇし」感!皆冷たいよ~!


 第一!わたしは何も分からないのだ。右も左も……分かるけど、でも分かんないのだ!


「あ、で、でも、学園には皆いるし、大丈夫だよね!」

「ララノラ様の目的は水樹だけみたいだぞ?」

「……榎賀水樹、羽葉澤颯、ここに誕生!」

「じゃ俺羽葉澤颯な」

「わたし榎賀水樹……ちげわい!どーすんのさ、ちょっとマジで。わたし、知らないよ?ララノラ様の質問の受け答えマニュアルとか持ってる人いる?ちょっと貸してよ!って言いたいレベルで困ってる」

「どういうレベルだよっての」


 颯へのツッコミを終えると、わたしは身を乗り出して叫んだ。ララノラがどういう人物か、何となくは分かるのだ。だからこそ、怖いのだ。


「とにかく……今日はもう寝る!明日に備えて早く寝る。お風呂入ってくる」

「学園の話はもうしなくていいのかい?」

「なんとなく分かった、有難うアスート。後は行ってみてだね」

「分かったよ、少しでもお役に立てて良かった」

「アスート、ごめんね、すぐに終わりにしちゃって。すごく助かったのは事実だからね?」


 突然眠気が襲ってきた。わたしは、浴場にてぽてぽ向かう。頭の中でははっちゃけたアニソンが流れて

いる。今にピッタリだ。


わたしのこのぐちゃぐちゃな脳味噌にね!


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