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何故か王様になっちゃった件について。  作者: 白玉 ショコラ
第二章
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代わり

最近投稿量が少ないです。勉強などもあるので、執筆が遅れています。

毎日の投稿も出来る限りやっていきますので、投稿量の少なさは目をつぶって下さると嬉しいです。

 再びの気持ち悪さと嘔吐感を飲み込んで、わたしは踏み慣れたヨウカリの草原に足を下ろす。そこがもう天乃雨ではなく露河であることも、感覚で理解していた。


「っふぅ……」

「お、おかえり~、水樹」


 ただいま、とわたしは、陽気に笑う凛子に返す。後ろでは、さやかがにこやかに手を振っている。体感時間だとかなり早いが、どうだったのだろうか。


 わたしは、目で彼を探す。今頃へばっているだろうか。悔しがっていたら代わりに花束を貰ってやろう。


「お」


 アスートとイズフェに肩を叩かれながら、体育座りをして膝と胸の間に顔をうずめてしゃがみこんでいる。


「颯、あんたの花束、玖美玲の代わりに貰ってあげるよ」

「ん……水樹、帰ったのか」

「帰ったよ。ったく、すぐに消えちゃうからびっくりしたんだけど?」


 のそりと颯が顔をあげる。手には相変わらず花束を持って。どことなく萎れていそうな花たちだ。きっと颯の気持ちに比例しているのだろう。


「ほら、花束勿体ないじゃ――」



「お前じゃ白宇野の代わりになんねぇだろ」



 心が痺れた。心臓を撃ち抜かれた。思考が停止された。放棄したくなくても離れていく。硬直したまま動けなくなる体。ぴくぴく痙攣する足。


「お前と白宇野じゃ、俺の中での居場所が、違ぇよ」


 見開かれた瞳は、ただ颯の暗く濁った黒憧を見つめ返していて……先に目を逸らすのは――颯だった。


「ご、ごめん、俺白宇野と話せなくて花束も渡せなくてさ、すぐ戻って来ちゃって、心が死んでて、すごい冷たい反応になっちまって、ごめ――」

「ごめんね颯。わたし無神経だったね。確かにわたしは玖美玲とは違うよね」

「水樹……?」


 心の傷なんて代物じゃなかった。抉られるなんて鋭い痛みじゃない。思い、黒い、暗い、冷たい、熱い、鈍器のようなもので殴られたような衝撃が体の全神経を通じて痺れるように走った。


 颯がわたしの顔を心配そうに見つめてくる。わたしの瞳はきっと、先程の颯の目より死んでいるだろう。心も冷えた。寒い。でも気持ちは溢れ出る。苦しいし悔しい。だから少しでもそれを、颯に分かってほしくて。


「わたしは、颯の中で玖美玲ほど大きな存在じゃないよね。わたしなんかに色々言われたくないよね。玖美玲の代わりになんてなれないよね。わたしじゃ、わたしなんかじゃ……颯の玖美玲にはなれないや」

「お、い――」

「颯は!わたしの気持ちなんて分かんないよね!自分の存在を全否定されて、あの人の代わりには慣れないって言われて、その後言い訳みたいに色々謝られて、ね、ほら。心が、死んじゃった」


 学園入学まで十日。二十歳の癖して、こんな言い争い。冷静になれる脳味噌と思考がない。



「わたしなら出来ること、玖美玲にも出来るってこと?そうでしょ?そうなんだよね⁉わたしに出来ないことも玖美玲には出来る。つまりわたしは玖美玲の劣化品なんだよね?ねぇ、そうならそう言ってよ!わたしは、颯の中では、玖美玲より価値がないんでしょ⁉」



 熱い息が漏れる。本当に伝えたいことは、これだったのかもしれない。


「水樹、おまぇ――」

「もう……もう、いいよ。颯。もう何でもいいからさ」


 だから、これだけは。言わせて。



「何も、言わないで」


「っ」


「何も、言わせないで」


「――」



「わたしを、壊さないでよ」



 パタリと閉めた家のドアの向こうで、絶句する皆の顔が容易く想像できる。とにかく今はわたしの部屋に――。


 自分の部屋のドアをゆっくり閉めた後、突如として抜けた力。無気力、脱力。無関心。そのまま、床にへたりこんで、とめどなく涙を流す。



 疲れた。



 疲れたなぁ。


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