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何故か王様になっちゃった件について。  作者: 白玉 ショコラ
第二章
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転のみの物語

「じゃあ、凛子。世界と世界の干渉、お願い」

「おぅ」


 行くのは、わたしと颯のみだ。これ以上が移動すると七愚の魔物の目覚める原因である颯を感じて魔物が集まって来やすいそうだ。ちょっとわたしも理解できていない部分がある。


 凛子いわく、世界と世界の干渉と言うのは魔物などに勘付かれやすい違和感を生み出すものだそうだ。その部分だけ世界が歪むため、エネルギーが変化する。エネルギーに敏感な魔物が目覚めてくる可能性がある、と。


 本当は、颯が行くのも少し危ないらしい。でも、わたしと颯は少なくとも玖美玲に会いたい!というか会わなくてはならない。本と花束を渡すため、一応鎧と剣を身に着けて。わたしは剣に触れないため、さやかに、鞘に入れてもらった。


「改めて、もう一回言っとく。二人が行くと魔物の反応が怖いから、実際に話すとかそういうのはなしな。あと、向こうでは二人の姿は半透明、いわば幽霊的な存在になる。人の上でも歩けるたりするけど、ものの受け渡しは出来るから、やってこいよな。あと、颯の場合は水樹の場合より魔物が怖いから、会えるってか見える時間は早めになると思うから」

「了解。じゃあ、こっちの準備は出来たよ」


 わたしの胸の中で、色々な思いが揺らめく。玖美玲、変わったわたしを見たらビックリするかな。わたしと颯がいるところを見たら驚くよね。そのために軽く事情説明ってことで、本にメモも付けておいたし。颯が言うには、玖美玲のご両親が颯の色々を誤魔化してくれているらしいし、ご両親からの説明をお願いしたいなぁ。


「じゃ……行くぞ。スイジュ!力を貸してくれ」


 凛子がそう呼びかけると、ふわりとスイジュが現れる。颯がそれを見て、軽く目を見開いた。


「さすがにスイジュも沢山の干渉は出来ないからな、協力してもらうことになった。ってことで、またな、二人とも」

「無事に帰ってきてね?待ってるよ」


 さやかが可愛らしく手を振る。わたしも手を振り返して、本を抱きしめた。花束を持つ颯の手が震えている。楽しみだね、と言おうとした瞬間、わたしたちの周りに竜巻が起きて、何も見えなくなった。


「ぅお?おぉ⁉」


 びゅおぉと凄い音で風が吹く。立っているのがやっとで、しばらくしてから慣れ始めた嘔吐感と目まいがわたしを襲う。


「うげ……気持ち悪いよぉ。颯もきつかったでしょ――って、颯⁉大丈夫?」


 色々収まって、左に立っているはずの颯を見ると、そこで彼は跪いて呻いていた。


「お……大丈夫だけど、ついたのかよ?」

「あ、ついてる。ここ体育館だよ。そろそろ、演説が始まる。誰だろ……わ、賢太じゃん!」

「へぇ、あいつか」


 知ってるの?と返すと面倒そうに「俺も図書館常連だって」と言って、歩き出した。花束は大切に抱えていたらしくて、汚れても折れてもいない。わたしも、本はしっかり持ったままだ。


「じゃ、先に俺が行く。そのあと水樹な」

「了解。じゃ、行ってきて」


 颯は、素早く玖美玲を探し出す。凛子が言っていた通り、人の上を通っても透けるだけですいすい進める。これなら人混みも余裕だ。凛子は他にも、わたしたちの姿は指定した玖美玲以外には見えていないという。好都合すぎて感謝したくなる。その矛先が凛子だと思うと悔しいけれど。


 わたしは、颯が玖美玲の右後ろから行きそうなので、左から向かうことにした。黙ってジッと賢太の演説を聞いていた玖美玲が、いきなりバッと後ろを向いた。そこはもちろん颯のいる場所。よく気が付いたね、玖美玲。


 颯は、珍しく笑みを口元に浮かべて玖美玲に花束を持って近づく。瞬間、空気と体が同化するようにふっと霧の中に颯が消えた。


「ちょ、何やってんの?馬鹿みたいだよ?」


 わたしはそう言いながら玖美玲に近づく。彼女は、今度もわたしに気が付いた。何かあるのかな?単に玖美玲が凄いだけ?そう思いながらわたしは、玖美玲に笑いかける。そして、左手に抱えていた本をそっと差し出した。玖美玲は、大事そうにそっと受け取る。本に対する扱いは完璧だ。さすが、わたしの教え子だけある。


 と、玖美玲の瞳から唐突に滴が溢れ出した。


「え?え⁉大丈夫?だ、だよね。うん。感動してくれてるってことかな。ありがたやありがたや……」


 玖美玲がわたしの方を見る。既に本の一ページ目は開かれていた。ちょっとだけ読んだのだろうか。きゃー恥ずかし!わたしは、照れ隠しで手を振って、後ろを振り返った。ガチャガチャなる鎧を無理矢理動かして、後ろに歩き出す。きっとそろそろ帰る時間だろう。ここで消えれなかったら格好悪いからやめてよね?


 と思った瞬間、わたしの体が溶け出した。不思議と感覚はある。でも、痛くもかゆくも、何もない。ただ、自分がこの世界から存在を拒絶されているような、制限時間に達したといわれているような……でも、不満は感じなかった。


玖美玲、大人っぽく可愛く綺麗に美人に色っぽく艶っぽく、なってたなぁ……めっちゃメインヒロインだった。玖美玲主人公のマンガが欲しい!さやかとか女王とか颯でも良いなぁ。凛子?駄目駄目、起承転結の転しかない物語になる。飽きる。


 その凛子への呆れた思考を最後に、『わたし』は天乃雨から消え去った。


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