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何故か王様になっちゃった件について。  作者: 白玉 ショコラ
第一章
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選考会

 困惑した状況の中、それは始まった。


「こちらが、依頼の書類ですわ」

「心梨様……素晴らしいお方なのですね」


 不思議そうな顔をする心梨を前に、わたしは青ざめていた。料理人候補の書類が多い。多すぎる。少なくとも、五百枚以上ある。それに、翌日に面会が出来るとは思ってもみなかった。朝っぱらからゴテゴッテンである。


ぬはあぁああぁあぁっ!これ、四人で捌くの大変っ!


「どうぞ、ご自分が信頼できるお相手をお探しくださいませ」


 はぁ、と頷きながら、サティに書類を手渡した。予想以上の遥かに上を行く量だ。さぞかし重いだろう。


「ふふ、クッキー、楽しみにしておりますわね」

「はい、お楽しみに」

「どうか、されましたか?」


 いえいえ、健康状態バッチリです、と答えて、鳴りそうなお腹をグッと抑えた。昨日から何も食べていない。さすがに大広間に集まっても、なかなか収まらない。


「それでは、またお会いしましょうね。アリナーラ、片づけを」

「はっ」

「失礼、致しました……」


 どべーんとお辞儀をすると、サティが後ろで苦笑した。


「多いですね、この量は」

「この世界でも多いのね。これが普通だと思ったわ」


 わたしが愚痴を漏らすと、サティが「露河の基準もご存じないんだわ」と呟いた。


親不孝者で、すみません。ん、側仕え不孝者か。


「とにかく、今日一日……二十四時間、1040分あります。四人で捌きましょう」

「えぇ、そうね。でも、1040分と聞くと、安心するわね。桁が大きくなるから」


 そうですね、と笑いながら、サティは部屋のドアを開けてくれる。


「面会してきたわ。料理人以来の資料が、これだけ集まったの」


 わたしが言うと同時に、サティが泰雫に書類を手渡した。


「なんと……多いな」

「えぇ、そうです。とても多いのです。1040分で、4人で捌きましょう」

「フッ。なんとも頼りがいのある言葉だな、サティ」


 二人が笑ったところで、わたしは書類の確認をしていく。


「男性候補は煌紳と泰雫が、女性候補はわたくしたちが見ていきましょう。料理人は2人で構いません。男女二人ずつです」

「貴族と平民のペアはどういたしますか?」

「構いません。その二人が協力できそうならば、貧民と上級貴族でも良いですよ。貴族が平民を蔑んだり、平民が貴族を舐めて自分第一にならないような関係なら、許しましょう」

「畏まりました」


 3人から力強い返事が返ってくる。わたしとサティはソファで、煌紳と泰雫はテーブルで書類を見始める。


「そういえば、サティ。3人の身分は何なのですか?」

「わたくしは中級貴族です。2人は上級貴族出身です。安心感があるでしょう?」

「サティだって、信頼できますよ?」

「あら、お褒め上手ですこと」


 わたしたちは、また書類を捲り始める。







 どれほど経っただろうか。向こうから、「彼で決まりだな」「うむ」という声が聞こえてきた。


「決まったのですか?拝見します」


 わたくしが席を立つと、煌紳と泰雫がこちらを向いた。


「ミズキ様、彼はどうでしょう」


 見ると、下級貴族のユーザンドという人らしい。写真を見ると、とても優しそうな金髪をした、爽やかイケメンだった。グッド。


「えぇ、構いませんよ。わたくしは賛成します。では2人とも、こちらを手伝ってくださいませ。あと100枚ほどですから」


 わたしがとびっきりの笑顔で言うと、2人もとびっきりの笑顔で、「お断りしたいところですが、主上の命ならば……」と左の部屋に移ってくれた。


「さぁ、再会しましょう」


 わたしが手元にある書類を少し2人に分けると、サティも真顔でこちらを見て、すぐにわたしと同じくらいの量を2人に渡し始めた。


「女性候補は多いな」

「そうだな」


 だいたい、女性候補は350人、男性候補は150人だったのだ。いや、男性候補だって多いのよ、十分。


 わたしたちはペラペラと書類を捲り、良い人材は右へ、候補にしては甘い人材は左へ置いて行く。


「こちらは終わりました」

「私も終了した」


 サティと泰雫が終了の合図を告げた。わたしはあと3人、煌紳は最後の1人だ。


「私も終わりましたが、ミズキ様は」

「わ、わたくしとて、あと1人ですよ!」


 わたしも急いでその1人を見て、右に置いた。


「わたくしも、終わりました」

「では、この右の書類から、良い人材を選び抜いて行きましょう」

「何名ほどいるか?」

「ザッと見て、50名はいるかと……」

「ご、50名っ⁉」


 わたしは思わず、素っ頓狂な叫び声をあげてしまった。


だって、誰だって驚くじゃないか、これだけ頑張って50名。誰か、わたしに殺意を感じている人、いる?


「わたくしと煌紳、泰雫は15名、レムーテリン様は5名で構いませんよ?」

「嫌です。皆で10名ずつ……一度10名ずつ分け、終わった人から順に残りの方を見て下さいませ」

「分かりました。それでは、始めましょう」


 サティが手際良く配ってくれる。わたしたちはまた、厳選した50名を左右に分けて置いて行く。


「終わりました」

「わたくしも」

「私も、終わったぞ……」

「わっ、わたくしとて、あと7名ですっ!」


あぁ、生暖かい目。わたし、17歳。


「残りの書類も、3人で見ていきましょう。レムーテリン様は終わり次第お声かけ下さいな」

「わ、分かりました……」


 わたしが最後の2名を見ている間に、もう残りの書類はなかった。


「お、終わりましたよ」

「右の書類は?」

「うむ。12名だ。ミズキ様、どのような配分で?」

「決まっていますっ!3、3、3、3ですっ!」

「ふふっ、分かっていますよ」


 わたしが言い切った時には、手元に3枚の書類があった。わたしは急いでパラパラと捲る。が、じっくり見ないと合否判定は出来ないものだ。


「わたくしは、終わりましたわ」

「私も終わったぞ」

「私も、終わりました……」

「わっ、わたくしとて、あと1名ですからね!1名!ほら、終わりましたよ!5秒くらいしか差はありませんからね!」

「はい、分かりました。右の書類は?」

「4枚だ。テーブルに並べて、全員で見よう。ミズキ様、構いませんか?」

「えぇ、良いですよ」


 わたしが鼻息を吹き出してふんぬぅっと構えていると、サティがテーブルに4枚の紙をわたし向きにササッと置く。


「良いのですよ、3人に見せても」

「いいえ、主上第一ですからね。まず、1人目。この方ですね」

「私が拝見したときには、好印象を覚えましたが、主上はどうです?」

「えぇ、身なりも整っているし、家庭の環境も申し分ないです。上級貴族ね。ただ、ユーザンドは下級貴族ですから、蔑まれては困りますね」

「では、置いておきましょう。2人目、彼女は落ち着いた印象ですね」


 じっくり吟味して、2人目はどうか決めていく。3人目、4人目もしっかり見ていく。


「あら?この4人目の方は、わたくしが何度も見た方ですね」

「レムーテリン様が?そうですか。毎回レムーテリン様のところに回ったのかもしれませんね。煌紳も泰雫も、じっくり見ていますから」

「そうみたいね。中級貴族で身分も完璧だし、穏やかそうな物腰で、しかも綺麗な肌をしていて、清潔そう。良い人材ね、と思ったの」

「そうですね。私たちも、全く否定は致しませんよ」

「サティは?」


 わたしは、サティのいる左を見る。


「わたくし、ですか?ふふっ、主上がお決めになることですから、わたくしは関係ありませんよ。どうぞ、ご自由にお選びくださいませ。わたくしは、側近としてのコメントを言ったまで。ここから先は主上がお決めになることです」

「そうなの?それならば、わたくしは、4人目の、中級貴族のリッフェルヴィが良いと思います。嫌な人はいない?」

「構いません」

「心配は無用です」

「わたくしも、大丈夫です。ふふっ」


 サティが、小さな笑みをこぼした。わたしはそれを見逃さず、すかさず質問する。


「あら、サティのお友達ですか?」

「……あ、いえ、そういうわけでは、ないのですけれど……そうです。幼馴染です」


 恥ずかしそうに縮こまるサティを見て、わたしたちはクスリと笑った。


「それならば構いません。料理人は、ユーザンドとリッフェルヴィ。決定です」



「最終候補はこの5人。誰にしましょう?女性も同じく5名です」


 料理人を決めたその翌日。朝早くに料理人以来の手紙を送り、今は側仕え候補を吟味している。総合計、600人。


「1人目の彼は信頼できますよ。私の友です」

「2人目は、確かリッフェルヴィと仲が悪いと聞いたことがありますが……」

「2人目は外しましょう。3人目は?」

「ユーザンドの料理に文句をつけた経験がありますね」

「3人目も外します。4人目の彼はどうでしょうか」

「上級貴族です。私たちにとっては良いですが、サティたちはどうでしょう」

「4人目は置いておきますね。5人目は、わたくしが推薦したのですが、どうでしょう」

「彼は、泰雫と諍いがありましたね」

「煌紳!その通りです、主上」

「それなら残るのは、1人目と4人目ですね。それならば、1人目の彼にしましょう。中級貴族の、エキャーニス。構いませんか?」


 皆から賛同を得ると、わたしは即座に女性候補をテーブルの上に広げる。


「あっ……」

「どうしました?サティ」

「いえ、何でも。便箋の数が、少なくなってきたかと思いまして」

「あぁ、そうですね。これが終わったら、手続きをお願いしたいわ」

「畏まりました」


 サティが笑顔を浮かべる。何事もなかったと判断して、わたしたちは資料に目を通す。結果、3人目のレーランティーナ、上級貴族、4人目のヴァラーペリアン、こちらは中級貴族という杯分になった。


「レーランティーナ様とヴァラーペリアン様、それにエキャーニス様ですね?分かりました。手続きをしておきましょう。レムーテリン様はお手紙をお書き下さい」

「サティ、寒いの?声が震えているわ」

「えぇ、少し」


 わたしは、一度大広間に行って、床に「暖」の字を書く。すると、3番目の部屋全てが、ほんわりと暖かくなるのだ。


「どう?サティ」

「え?あぁ、えぇ、ちょうど良くなりました」


 サティは、慌てて笑顔を浮かべた。手元の書類を見てみると、ところどころ発注書の計算ミスがあった。


「ここは違うわ、この部分が1ではなくて2よ。それにここも、ここも……。どうしたの、サティ?」

「……実は、レーランティーナ様の家とわたくしの家が、お金の貸し借りで……少し」

「ならば、レーランティーナは変えましょう!いけないわ、そんなことがあるなら」

「いえ!わたくしは、まだ、レーランティーナ様と、直接はお話させて頂いたことがないのです。わたくしの身元も、レーランティーナ様はご存じないと思いますし、問題ありませんよ。レーランティーナ様は優秀な方だと聞いております」

「そう?なら、良いのだけれど。辛かったら言って下さいね、サティ。わたくしにとって貴女は、信頼できる唯一の女性側仕えなのです。苦しい事を聞いてくれる、大切な女官。わたくしは貴女を誇りに思っていますし、共に居たいですから」


 わたしが笑みを浮かべて言うと、サティはホッと和やかに笑って、わたしを見た。


「……有難う存じます。ですが、わたくしがいるせいで、レムーテリン様に不利益が訪れませんよう、お祈り申し上げます」


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