誕生したり!
「凄い、凄いよ颯。めっちゃエロいよ!あ、でもやっぱり美麗イラストと言いますか、ギャルゲとか乙女ゲーにありそうな絵じゃない?颯にはなじみ深かったりして!」
「すげぇよこれ。普通にプロ行けると思うぜ。俺が好きなギャルゲレベルのイラストだし、あ、ほら。この水樹、『スターメルティア』のレシナちゃんの表情に似て――」
「あんたのギャルゲ語りはいらないよ!」
「お前の語りもいらねぇよ⁉」
逆に突っ込まれたわたしは頬を膨らませながら颯の肩を叩こうとしたが、骨が折れるのでやめた。颯が固すぎて叩いたりしたら手首から先が粉になって消えて終わりだ。
「わたしも、こんな小説を書きたいな……絵がなくて、文字だけで、人に何かを伝えられるような文が書きたい。さやかにとっての絵がわたしにとっての小説、みたいになればいいのに。もっと、人に何かを訴えかけられる分を書きたいね」
戦いの後、わたしと颯が倒れながら見つめ合って笑うシーンの絵を見ながら、わたしはそっと、ぽろりと本音を零した。颯が不思議そうにわたしを見てくる。
「水樹……?」
「わたしね、小説家になりたかったの。小さい頃から、幼稚園生くらいから、ずっとそう思ってた。本を書くのが好きでね、だからタイピングは大の得意分野。凛子みたいに小説書いてたんだ。でもこっちに来てからそういうのに縁がなくて。今書けててホントに嬉しいんだけど、これってさやかの絵みたいに心を動かすかな?ちゃんと人を揺さぶれる文章になってるかな?何か、心配になって来ちゃって……」
絵を握る手に、不意に力が入ってくしゃりと音を立て、紙がよれる。慌てて力を緩めて、颯の方を見た。彼は、驚いたように目を見張って呟いた。
「俺が水樹の本を読んで、何回感情揺さぶられたと思ってる?感動して興奮して、悔しくなって嬉しくなって、楽しくなって、あーこういう生き方って良いなぁって思ったり、色々思えた。経験みたいに思えた。水樹に同感できた」
そこまで言って彼は、嬉しそうに顔をクシャッと歪めて笑い、わたしを見た。
「だからさ、小説家。俺、応援する」
「颯……」
「水樹の本なら皆読みたがる。水樹が思ったことを自分も思いたいって思う。俺は思ったよ、水樹。だから小説家、目指そうぜ」
「……貸し一つ消えたと思ったのにな。また返さなきゃ」
わたしが唇を尖らせて言うと、彼は笑いながら「赤くなってるー」と茶化してきた。
「それに、そんな風に思うなって。そしたらお互いめちゃくちゃ貸し借りあるぜ?」
「だね。たったこれだけの日でお互い、色々頼み合ったね」
「さすがは運命共同体だな?」
悪戯っ子のように笑う颯を真似して、わたしも悪魔の笑みを浮かべる。ふは、と笑って、絵を見直す。いつかわたしが出した本のイラストはさやかに頼もう。編集は凛子にもしてもらおう。味見係ならぬ感想係みたいな?いいなぁ、楽しそう。読者一号はやっぱり運命共同体かな?ふふ。
「かっ、完成しましたーっ!」
「イラスト組み込みもシステム導入も完了だーっ!」
二日後。締め切り(卒業式)まであと七日、一週間だ。わたしたち二人はわたしの部屋で雄叫びをあげていた。
「終わったか?さやか」
「終わったみたいだよ、凛子ちゃん」
こんなに達成感があるのは初めてだ。すっきりしている。とてつもなく。
「お疲れ様、颯」
「よく頑張ったねぇ、ミズキちゃん」
ドアの外から四人の声が、開け放った窓から爽やかな風が吹き込んでくる。山の上で朝日を浴びて風に吹かれている気分だ。あー、あのアニメを思い出す。ハァ、いい気分。今あのアニメのBGMを流したい!
わたしは、出来上がった本――自分の本を手に取って、ベランダに飛び出た。そして、太陽に向かって本を突き上げて叫ぶ。
「わたしの本、誕生!」
後ろから颯が追いかけてきて、一緒に叫ぶ。
「ここに、新・女性作家・羽葉澤水樹、誕生したり~!」
「ふふっ、そうそう、ここにイラストレーターの夜桜さやかも誕生したり~!」
「きゃーっ、もうちょっと恥ずかしいよ水樹ちゃん!もぅっ」
可愛いなぁとさやかの頭を撫でまわしながら、颯と見つめ合う。彼は親指をグッと立てて笑った。
「こりゃあ絶対白宇野も喜ぶぜ、水樹!」
ピースサインをすると、凛子も一緒に撫でまわしてはしゃいだ。颯?呆れ果てた表情でアスートとイズフェと話してた。いやー、今日は良い日だねぇ!




