信じてる!
「っ⁉」
自分でも、何を言っているのかよく分からなかった。とにかく、今の気持ちを颯に伝えたかった。方法が、これしかなかった。
自覚なんてした覚えはない。颯が好きなんて、確信したこともない。でも、今更笑って誤魔化したり、冗談だなんていうとか、そういうのは言いたくないから、きっと。これが、わたしの気持ちだったんだろうなって、思った。
「待て、よ。水樹が?水樹が、俺を?なっ、は……?」
「戸惑っちゃうよね。ごめん。颯、言いたいこと全部吐き出してくれないかな?こんなこと言ってくれたのにとか、そういう憚りは無用だからさ、ね?」
言った本人である自分でも驚くようなとろける甘い声。こんな声が出せるなんて思っても見なかった。口元に浮かぶ笑みは、颯を受け入れる準備をしていた。
「……っ、水樹、俺、全部吐き出すから。その前に、一個言っとく」
「?」
「罵ったら、ごめん」
「え?いいよ、別に。そんなの気にするわけないって。吐き出してくれたらそれで嬉しいから」
涙まみれになりながらも強い意志を持つ彼の瞳が、一瞬で歪む。わたしの胸の中に、サラサラの髪の毛が飛び込んできた。そっと撫でる。背中を擦る。肩を叩く。これで少しでも、彼が楽になるなら。何だってするつもりだ。
「ぅうぉぇっく……んぁっ、水樹に、俺の何が分かる⁉俺が今までしてきたことの何が分かる⁉俺の苦労なんて知らねぇくせに俺を助けたいとか癒したいなんて無理だろ!俺は、俺が嫌いだよ!この身を呪い続けてやるよ!」
「ごめんね颯。わたし、颯の事、何にも知らなくて。だから、今から颯の事、知りたい。そしたらきっと颯を、癒せないかな?助けられないかな?今じゃ……今のままじゃ、お互いに何にも、分からないよ……」
「ふぐっ……どうやったら俺は救われる?報われるんだよ!このまま不幸になって終わりたくねぇよ!天乃雨に帰れば七愚の魔物は出ねぇのか?なら、帰るよ。帰りてぇよ!でも、帰れねぇじゃねぇか。デウムも、無くしてしまった。水樹にまだ何の恩も返してねぇ。俺は、これからどうすれば……?」
慌てずに、焦らないように彼を慰める言葉を探していたわたしは、ふっと思考を停止させる。考えて応援したってそれは、わたしの言葉じゃない。わたしが今、リアルに思ったことを伝えればいい。颯の心に響く言葉なんて、わざと選ぶ必要ない。
「わたしとしては、一緒に学園に入学してほしいよ。颯って言う支えがいないとわたし、歩いて行けないかもしれないからさ。あと、天乃雨に帰って責任転嫁とかは嫌だよ?七愚の魔物、一緒に倒そうよ。友達の勇者と、皆と協力して。もう誰も、絶対に、死人は出さない。でしょ?」
濡れた瞳で、颯はわたしを見上げてくる。体中の穴という穴から液体が出ているようで、わたしの衣服が濡れていく。だが今は、そんなことも気にならなかった。
「あぁ、そうだ。もう誰も、死なせたりしねぇ。そうだ……俺が、俺が皆を守れば、皆死なないでいいじゃねぇか」
「颯は、防御に徹して、わたしたちで全力攻撃、みたいな?」
「どうせならあと何人かガードが欲しいな」
「勇者の人でもいると思うよ?ガードが得意な人。それにわたし、魔法は使えるんだよね」
「なら、ガードが張れるってわけか」
「そうそう、何重バリアになっちゃうんだろうね。絶対に誰も、死なないね」
わたしが彼に笑いかけると、颯もクシャッと顔を歪める。
「颯、君が自分を呪う必要なんてないんだよ。理不尽に抗うの。自分はそんな物背負った覚えはない。だから全力で倒してやるって、思ってみる。ね?颯は何にも悪くないじゃん。颯がした悪い事なんてないよね?あ、多少の無茶だけだよね?だから、自信持ってよ。わたしと一緒に、異世界でも楽しもうよ」
「……ん、了解。分かったよ、俺、頑張って見せる。運命とやらに、理不尽とやらに、喧嘩を売ってやろうじゃねぇか。俺はテメェらに全部幸運を取られた!だから……取り返す。絶対に、勝利を掴んでやるよ!」
立ち上がって右の拳を天井につきあげる彼の姿が凛々しくて、わたしも立ち上がって左の拳をあげて、彼の拳にこつんとぶつける。
「だね!わたしたちはもう死なない、死なせない。誰もが、颯までも颯を嫌ってもわたしは颯が好きだし、信じてるから。運命共同体、ここに結成!」
わたしのパーティーと颯のパーティーの運命共同体じゃない。わたしと颯の、二人だけの運命共同体だ。諦めるなんて馬鹿な事、しない。諦めるなんて難しい事、出来ない。だから、勝てばいいんでしょ?生きればいいんでしょ?それも簡単じゃない。だから、無理難題をぶち壊せばいいんだよ!
「颯。これから、よろしく!」
「っ……おぅ、こっちも頼むぜ!」
ニヒッと笑った彼に合わせて、わたしもニヤリと口元を歪めて見せる。
今日は、告白と同時にその相手を救い、またその相手と運命共同体になることを誓った、記念すべき日である。
今日は、青い空が清々しい。泣いた跡が渇いて行くような、快晴。その空の下でわたしたちは、光に向かって拳を突き上げて言う。
「君を、信じてる!」




