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何故か王様になっちゃった件について。  作者: 白玉 ショコラ
第二章
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救いたい

「入学はどうすればいいの?」

「三週間後ですわ。それまではここで、魔力維持は皆で出来ますわよね?主力はレムーテリンとハヤト、わたくしでしょうか」

「それまでは颯、本作ろっか。……颯?」


 わたしが後ろにいる颯を見ようと首を回すと、彼は何も言わずにただ下を向いていた。頭をつつくと、ハッとしたようにわたしの顔を見て少しばかり気味の悪い作り笑顔を浮かべる。いや、顔に貼り付けると言った方が良いだろうか。


「水樹。本、本だよな。あぁ、そうだ。あとちょっとで卒業式だから、早く作らねぇと。水樹の部屋、行くか」

「え、ちょ、わたしの部屋?いや、エロ本とかやましいもの、全然ないんだけどさ。わたしも一応淑女ではないにしろ女性でさ。って、もういいよ。行きましょ」


 颯は完全にわたしの声を無視してわたしの部屋に向かって行く。やっぱりショックを受けているんだと思う。苦しいはずだ、絶対。だって、七愚の魔物が出て忌み嫌われ疎まれるのは自分で、世界の災厄を自分が担っているなんて、考えただけで恐ろしいし、世界の運命を全部自分が握っていることの不安はどうやっても拭えない。


「水樹、さっそく何か細いものにエネルギーを込めて字を書いてみろ。それを俺が別の細長いものでこの白紙の本に移していく」

「いつ手に入れたの?」

「異空間調達だ」


 いつの間にかわたしの部屋で胡坐を掻いて細長い木の棒を手渡してくる颯に内心で「わーすごいすごい」と言いながら、ドアを閉める。木の棒で、前に書いていた原稿を移していく。何だか先生の気分だ。原稿用紙片手に黒板に文字を描写……。棒で「何」と書いてみる。みょいんと音がして、ぷくぷく浮きあがるような文字が空間に浮かび上がった。


「おーっ書けた!書けたよ颯、こんな感じで大丈夫?」


 バッと後ろを振り返ると、颯はまたさっきと同じ体勢で下を向いていた。わたしの見ている角度は違うけれど、彼が同じ表情をしていることくらい分かる。やっぱり……傷ついてる、よね。わたし、どうすればいいんだろ。


 原稿用紙と木の棒を側において、わたしが床に座り込む。もちろんそこは颯の前だ。突然体制を変えたわたしに流石の颯も気が付いたのか、ハッとした表情でわたしを見る。またあの作り笑いをしようとしたからわたしはバッと颯に飛びつく。わたしがしたいこと、するべきこと、できること……これから、するね?颯。


「ぅおっ⁉ちょっ、み、水樹?」


 乙女の恥じらいなんて今は考えない。二十歳すぎで成人男性に抱き着くなんてはしたない真似、本当はするべきではないことくらい、わたしだって分かっている。でも、わたしにはこれしか彼を癒す方法が浮かばなかった。


「颯……颯の気持ち、分かるなんて。そんな下劣な言葉は言わないよ。でもね、颯が苦しんでることは分かる。わたしがデウムの死を笑ってしまったことも、本当にごめんって思ってる。それを踏まえて、わたし、颯の事、元気付けたいんだ」

「水樹、俺大丈夫だから。ほら、本、書こうぜ……?」

「そうやって強がらないで。颯が強がると、皆悲しくなるよ」


 さらに強く抱きしめる。とにかく今は颯を救いたい。そんな資格も自身もないし、もちろん力だって皆無だ。でも、彼の苦しみを少しでも取り除くことが出来ればわたしは、幸せだ。


「自分が天災の原因になって、人々に忌み嫌われる。……考えただけで恐ろしいし、怖いよね。わたしがその立場になったらきっと、泣いちゃうよ。でも最近わたし、分かったことがあるんだ」

「……?」

「わたしはね、きっと。悪を背負ってるんだと思うの。わたしがいるところには、嫌な事しかない。人は死ぬし、苦しむ、憎悪が溢れてるし、不幸にだってなる。実際そうでしょ?」

「水樹」


 固めの髪を撫でる。しっかりした髪質なのに、サラサラで指が良く通る。意外とボサボサだけれど、よく手入れをしている方だと思う。颯の体温が近いのに、緊張なんて全然ない。


「わたしの周りに、悪を運ぶわたしの周りに、皆がいてくれるのが、本当に嬉しいし、ありがたい。ありがと、颯。だから、そのお礼をしたい」

「お礼……?」

「そ。わたしの隣で、わたしを元気づけて、勇気づけて、応援してくれて、支えてくれて、助けてくれて、ずっと見守ってくれて。感謝してもしきれない。たったこの数日で、こんなになっちゃうんだよ?これからずっと一緒にいたら、感謝なんて生きてるうちに返せなくなっちゃう。だからとりあえず、今までの分とこれからの分ちょっぴり、返すね」


 一度彼の体から離れる。何を言おうか、悩む。どうすれば彼を救える?どうすれば彼を助けられる?どうすれば彼に恩返しできる?


「颯。颯はわたしを救ってくれた。あのとき颯がいなかったらわたしは死んでた。共感してくれる人がいた。颯につっこむの、凄く楽しかった。颯の笑顔が見たいって思えた。颯のために、何かできることがあれば、したい。これが、わたしの望みだよ。颯」

「――」

「この望みが、簡単に叶えられないってことくらい、分かってる。わたしのこんな陳家な言葉で、颯が楽になるなんて、思わないよ。一日で仲間に裏切られて失って、心臓も体力も精神も心もズタボロにされて、その後あんなことが発覚して。辛いよね。苦しいよね。わたしに、何ができるかな?颯のためにわたし、何をしてあげられるかな?わたしの望みを叶えさせてほしいの」

「……っ、水樹。俺、辛いよ苦しいよ。どうすればいいんだよ?俺が悪かったのかよ?全部俺のせいかよ⁉俺は何もしてねぇよ。勝手にこっちに来て、偉い身分について!俺は何も悪くねぇよ!なのに、なのに何で……俺が世界の災厄を背負わなきゃいけねぇ?俺がいるだけでこの世界が不幸にならなきゃいけねぇ?分からねぇよ……」


 こんなに辛くて涙を流す彼を救いたい。だからわたしは……わたしは。


「うん、うん。そうだよね。だからわたし、颯が苦しんでるところ、癒すね。これからずっと、癒してく。だから……好きだよ、颯」


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