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何故か王様になっちゃった件について。  作者: 白玉 ショコラ
第二章
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愚かな身に苦しみを

 颯が振るう剣の切っ先は、魔人たちに深い傷を与えていく。毎回、相手の顔が苦痛に歪む。非常にいい気味だ。


 心の底から煮えたぎる怒りたちが、わたしの体を駆け巡り、心臓にたどり着く。瞬間、体が自動的に動いて行く。流れ出る鮮血が風で後ろに流れるほどのスピードで、わたしはイーリンワーナの背後に回って、左上から右下に剣を振り下ろした。


「くぁっ!誰が、やったの‼」


 向こうに応えてやる義理も義務もない。わたしはただただ、本能に任せて剣を振るうだけ。そうすれば、いつか相手の内臓共にたどり着く。


「お前ね……分かったわ。潰してあげる!」


 一人で台詞を叫ぶイーリンワーナをよそに、わたしの剣は血で汚れながらも切れ味を保ったまま、彼女の体を切り裂いて行く。さすがは魔剣、というところだろうか。


 血糊でべたりとした部分を投げやりに草で拭うと、すぐに体を動かす。と、脇腹に激痛が走った。


「っづぁっ!」

「仲間の手助けくらい、するぜ。俺を忘れんな」


 デヴァウム……お前は颯がやっているものだと思っていたが、隙を見てわたしの脇腹に狙いを定めたってことか?


 イーリンワーナの魔法をかわして、フッとわき腹を見る。流血具合は……まあまあ。無詠唱で癒しをかけると、みるみるうちに傷は塞がる。女王ほどではないが、わたしだって一応姫騎士だ。癒しの魔法も十分に使えるし、一般人とは比にならないくらいの威力がある。この程度の傷なら、余裕で治すことが出来る。


「ふざけ、やがってぇ……」


 不意に、怒りと憎しみにまみれた言葉がわたしの耳に届く。隙を見てよそ見をすればそこには、返り血と自分自身の血で真っ赤に……いや、赤黒く染まった颯の姿があった。


「デヴァウムぅ……」

「英雄も、所詮はこの程度か。仲間を失った悲しみってのも、少ないものだぜ」


 颯を嘲笑うように発せられたデヴァウムの声に、わたしは颯より早く反応する。とにかく、あそこを。デヴァウムの、顔を、頭を、胸を、内臓を、心臓を、命を。刈り取らねば。誰よりも先に、早く、摘み取らねば!


「しっ!」


 わたしの腕が描いた弧線を追うように、剣が彼の腹を凪いでいく。手応え、あり。バッチリあり。上手くいけばこれは、内臓まで届いているレベルだ。


「颯を……颯を罵る者は、許さない。世界中の誰もが許したって、わたしは許さない」

「水樹、後ろ!」


 とっさに、右手の剣で攻撃を防ぐ。間近に迫るイーリンワーナの顔は、血で染まっていた。欠けた前歯と剥き出しの血肉が嘔吐を誘う。


「俺がデヴァウムをやる!水樹、イーリンワーナを頼む」


 颯の言葉を無言で返し、わたしはイーリンワーナの剣をふっとばす。今のわたしにとって、無言=肯定だ。


 こんなにも全身が怒りで沸騰しているのに、今は、今だけは何故か、落ち着いていられる。どこまでも冷静に、相手の急所や隙をついて、攻めることが出来ている。


 相手に、下からロープを出してもすぐに斬られるだけだ。意味はない。拘束は不可だ。でも、方法が皆無、というわけではない。接近戦も遠距離も、どちらにも対応できる。


 剣だけを使っていては、そりゃあ負けるだろう。それが、さっきのわたしの敗因だ。こっちは、火も水も風も光も闇も、全て使えるんだ。


得意なのはもちろん水系統。きっと、名前が水樹だからだろう。凛子は、名字が夏端だから火。さやかは、夜に舞う花びら、という認識で、風と闇が得意だが、威力は半々。さやかの風+闇が、わたしの水、凛子の火に匹敵するレベルだ。どうせなら颯の得意が光だったらいいんだけど、どうなるか。


「チッ、回復魔法よ!シャッテル!」

「させるか」


 小さいわたしの呟きはイーリンワーナに届かなかった。これは幸運。シャッテルらしき亡霊から漂ってきた薄緑色の回復をわたしはぶった斬るようにして中断&無効化。


「小娘ぇ!」

「わたし、もう二十歳だけど何か」

「何か、じゃないわよ!わたしは今回復すべきだって言うのに、何を中断してくれてるの……!貴女はもっとダンスパーティーを楽しみたくはないの?」

「そうだな、もっと苦しめてから殺す、という方に投票したくはある。でも、ここですぐに殺すのが賢明な判断ならば、指一本から始まり、一つずつお前を破壊していってやろう」


 憤怒の形相で向かってくるイーリンワーナをスッとかわし、辛うじて残されている右腕を惚れ惚れするほど綺麗に斬る。筋肉のつなぎ目や関節に合わせて、なめらかに斬られた魔人の右腕は、気持ち悪い音を立てて草原に落ちた。


「いやあぁぁぁ――‼」

「ふぅん、魔人でも腕の再生なんかはしないのか。思ってみれば、獣人化もしなかったし、魔人って言うのはただ単に以上に強い人のことを言うのか?そういえば、魔人になったって、どういうことだ?魔人をやめることもできるのか?……後で考えるとして、今はコイツだ」

「みっ、わたしの右腕がぁっ、こんな小娘に斬られた⁉そんな、わけが、ないわ!」

「自分の右腕を見てから言えよ。どうせなら右半身でも良かったな」


 悶えるイーリンワーナをよそに、わたしは周りの状況確認をする。


 まず、わたし。胸の流血、瀕死状態から少し遠ざかってはいるが医者がいたら昏倒するレベルの中で戦っている。ドクターストップなんてかける暇もなかっただろうし。


 颯。返り血で赤黒い。自分の血は、左膝のみ。一応、癒しをかけておく。


 他の仲間は異常なし。おっさん共も亡霊と善戦中。他の仲間はわたしたちの邪魔にならないように亡霊共とやり合っている。


 イーリンワーナ。失ったのは、右腕と左手首。掴めるものは何もなし。攻撃手段は魔法のみ。無詠唱ならばともかく、詠唱在りならこちらに勝機なんて余るほどある、絶好のチャンスだ。


 デヴァウム。失ったのは、右腕のみ。腸には届いていなかったようで、癒されている。だが、不完全な癒しだ。流血は止まっていない。わたしの胸のようなものだ。


「厄介なのは亡霊。そうだ、亡霊が苦手な魔法を出そうと思って……女王!」


 大声で叫ぶと、風のような速さで女王が駆け寄ってくる。いや、このスピード、比喩ではないかもしれない。


「何ですか、レムーテリン」

「あの亡霊共に強めの光魔法を放て。使える奴にも頼む。全力を出しても構わないから、消滅させることに力を入れて」

「なるほど、レムーテリンの言いたいことは分かりました。すぐにやってみましょう」

「頼む」


 幽霊だって基本、光が苦手と言うのは全国共通の常識であり認識と言えるだろう。これは、どこの世界でも変わらないはずだ。例えば、愛娘に対する父の暑苦しさも、親馬鹿加減も、言い回しは違えど同じものだ。現に後者の方をわたしは、ナイテクストと女王、クィツィレアという三人の関係で見たことがあるのだから。いや、そうではない。愛娘もファザコンも、全てはコイツらを殺してからだ。別に愛娘も欲しくないしファザコンにもなりたくないが。


「まずは何の魔法にしましょうか?小娘の苦手な魔法が良いわ。何かしら?」

「腕が消えても魔法で挑もうとするなんて、タフすぎるでしょ。ちなみに、苦手な魔法なし。都区内魔法全て。以上」

「何をふざけたことを言っているのかしら⁉わたしに敵う魔法の使い手はいないのよ、小娘!わたしの右に出るものはいないわ!わたしは勝つ、勝つわ!小娘、お前なんかに負けるはずがないのよ!そうよ、そう。最初から分かり切っていたことだわ!」

「死亡フラグでいっぱいの台詞ありがとう。ということで、先制攻撃はこちらから」


 味方がさりげなく死亡フラグを言っていないか、新しい不安を抱えながら、わたしは水魔法を唱える。と、しかけたが、すぐに取り消し。


「どうせなら、合体魔法!余興は派手にいっておこうか!」

「なっ⁉」


 怯える魔人の前でわたしは、特大の嫌らしい笑みを浮かべる。どうせなら、全部の合体魔法なんてどうだろうか。楽しそうだね、やってみよう。


「とぉぁっ!」


 目の前にへたりこみかけたイーリンワーナを、上から下から横からななめから、四方八方から沢山の色の魔法で覆い尽くす。もちろん、手加減くらいしている。これで死なれたらこちらが困る。颯の方も見ながら、殺さねばならないのだ。


「――――――‼」


 苦しみすぎて声が出ていないイーリンワーナはさておき、再び湧き上がってきた胸の痛みに耐えながら、わたしは颯の方を見る。


「ほ、意外とアイツもやるな。手助けに行くか?いや、でも……」


 イーリンワーナが立ち上がるまでの僅かな時間で、わたしは頭をフル回転させる。その間にも、颯とデヴァウムの会話を盗み聞く。


「思えばテメェ、デウムにちょっと字を足したら名前になるんじゃねぇか。殺意が湧いて沸いて止まらねぇよ」

「ヴァ、を入れたら俺の名前だな。この言葉にどんだけ強さがあるんだろうな。ヴァが入るか入らないかでこんなに強さが違う。俺とアレの強さなんて、比べたら俺が可哀そうだぜ?」

「可哀そうなのはデウムだろ!テメェなんていう狂った男に似た名前でよ!」


 颯は、魔法を含ませた剣を振るう。デヴァウムの肩から血が噴き出すが、彼は薄ら笑いを浮かべてゆらりと背を低くして颯に突っ込む。と、颯の口元が歯が見えるほどに歪んだ。


「終了、終焉、断絶、終熄、終結、終決、終止、終活、終幕、終局、最後、最期、決着、結尾、幕切、末尾、最終……テメェの人生、終わりだぁ!」


 颯が、掛け声と同時に、全力で剣を振るった。魔法でギラギラ輝く剣が、デヴァウムに届きかけたとき、わたしも力の全てを注いで、喘ぐイーリンワーナに魔法をぶつける。放つ前に、チラリと颯と目を合わせる。お互いに、愉しそうに嗤い合う。距離は十分に近い。これなら、一緒にとどめをさす、目的は果たされる。ついに……殺す!両手を前に出して、彼女にかざして、叫ぶ。


 仲間を殺した魔人たちを、苦しませて痛みに悶絶させて無残に無様に殺す。憎まれたっていい。殺せるなら、それで。それでいい!



『『この地に生ける 全ての生命よ 今我に力を貸し 今我に希望を与えよ 想うは全て 感じるは世界 命の輝きと共に 聖なる光よ 悪しき力を罰し 愚かな身に苦しみを 汚れた力で 目覚めるは黒き憤怒 この世の全てに憎悪を抱かせ 激しき鮮血を流させよ』』

「「トップクアラティ・ゴッドヴィーナススマッシュレイジヘイトリッドフレッシュブラッド‼」」



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