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何故か王様になっちゃった件について。  作者: 白玉 ショコラ
第一章
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部屋と側近

「ミズキ様。ミズキ様は、後ろにある天幕をお上げになり、左にお進みください」

「あら、煌紳。有難う」


 煌紳が、光のままわたしを助けてくれた。わたしは今、入り口のドアの方を向いている。後ろを振り返ると、確かに薄いヴェールのような天幕があった。ハラリと捲って足を踏み出すと、少し段差になっていて、足を持ち上げなければならなかった。


「中央から左に向かって、三番目のお部屋のようですね」


 泰雫の声に従って、わたしは足を動かし始める。同時に、煌紳と泰雫も光から人の姿に戻った。赤いカーペットを踏み、二つ目のドアを探す。一つ目のドアはすぐに見つかった。


「あった。ここね。それで、わたしは、三つ目のドアの部屋」

「はい、そうです」


 わたしは、廊下の右に注目してドアを探す。なかなかない。左側にも作ったら良いのに、と思いつつ、そうだ、ここは心梨の部屋だ、と思う。心梨の部屋は大きく、とてつもなく広がった。


「見つけた!ここがわたしの部屋ね」

「『ルーペリーア』も預かっております」

「『ルーペリーア』?」


 ルーペリーアは、日本で言うカードキーのことらしい。平べったくて光沢がある。


クレジットカード感、半端ないんですけど。だって、シュッて差し込むところに入れたら、「確認しました」とか言うし。凄いビックリした。


「それではミズキ様、どうぞお入りください」

「失礼しまぁす、じゃないや、わたしの部屋か」


 ガチャリ、とドアを押して部屋に入ると、大理石のような床がどこまでも広がっていた。広くて大きく、贅沢で優雅で優美で、大理石の床を踏めばコツコツと心地良い音が鳴る。そして、一番目を引くのは、寒色系で整えられたこの部屋のセッティング。


 右側と左側に分かれており、右側にはテーブル、椅子、タンス、洋服棚、本棚五個。そして左側には、ソファ五個、低めのテーブル、それのみ。カーテンは透明で、揺れると青や紫、水色に光る。


「あら?側仕え用の部屋や、お手水用の部屋、それに、ベッドもお風呂もないのね」

「それはこちらにあるようですわよ!」


 サティの弾んだ声が飛んできた。わたしは、サティが見ているところに歩いて行く。見るとそこには、大きな紫色のドアがあった。


「紫色は夢楽爽のシンボルカラーですからね」

「そうなの?」

「えぇ、そうですよ。ほら、開けてみましょう」


 わたしがグイッとドアを押すと、今度は水色のカーペットが敷いてある、大きい丸い部屋に出た。


「寛げますね」

「それに、ミズキ様。見て下さいな、この無数の扉!ここに全てがあるのでは?ミズキ様のお召し替えをする場所、お風呂、ベッド、側仕えの部屋。お手水を済ませるお部屋も!ハァ、しかもこの大広間で寛げるのも、やはり良いですわね」

「クィツィレア様はセンスがよろしいようですね」


 わたしとサティがウキウキしていると、煌紳と泰雫がハァッと息を吐くのが分かった。







「まず、この大広間の入り口から見て、一番左が煌紳の部屋、二番目が泰雫の部屋、三番目がサティの部屋。右から一番目がお風呂、二番目がお手水を済ませる部屋、三番目がわたくしの召し替えの部屋です。わたくしのベッドの部屋もありますね。右から五番目です。これから、部屋の場所を覚えて使って下さい。疲れたときは、この大広間に来ると回復するようですよ。わたくしとサティが部屋を全部見て回って疲れて大広間に来た時に、空腹も疲れも全部消えましたから」


 わたしが長々と説明をすると、二人の男の顔がどんどん歪んでいった。男は説明に弱いらしい。どの世界でもそうなのだ、きっと。サティは嬉しそうにワクワク顔でわたしを見ているけれど。


「それでは、自分の部屋を見てきても構いませんよ。きっと広いですから」


 わたしが笑顔でそう言うと、ワクワクしていたサティが急にわたしに曇り顔で話しかけてきた。


「ミズキ様、側仕えをもう一人か二人、雇われた方が良いのではないですか?」


 サティによると、護衛騎士や文官の仕事は、聖清でも出来るが、側仕えの仕事は側仕えにしか出来ないそうで、このままだとサティの仕事量が多すぎるようだ。


「三人で面会以来の仕事を捌いても、ミズキ様のお世話はわたくしたち側仕えがするものです。このままだと、わたくしは構わないのですが、ミズキ様が領主様に側近多量依頼で睨まれるかもしれません。せっかくご自分で得られた信用をご自分の腕で切るのは、勿体ないかと思いまして」

「分かったわ。心梨様に相談してみましょう。わたくしはまだ、この世界の民のことを知らないのです」

「教師も雇わねばなりませんね。心梨様に頼りすぎるのはいけませんから、博識な煌紳に相談するのも良いかもしれませんよ」

「ならば、教師の件については煌紳に頼みます。サティ、貴女も部屋を見てきて良いですよ。わたくしは自分の部屋で寛ぎますから。心梨様に面会以来の手紙も書かなければなりませんし、机の引き出しの中に封筒と便箋がありましたから、それで書きますね」


 わたしが笑顔でそう言うと、サティは更に曇り顔になって、わたしを見つめる。


「ミズキ様は、恐怖心はないのですか?その、わたくしが聞いた噂だと、他世界からのお方は皆、来られた日はパニックで大変なことになると聞いていたので、驚いています。ご立派ですね」


 わたしは、目を丸くして、困ったように笑うサティに苦笑を返した。


「もちろん、わたくしだって緊張しておりますし、驚いてもいますよ。でも、深く考えると更に訳が分からなくなりそうなので、思考放棄しているだけです。わたくしがこの世界にとって何なのか、どのような役目を担っているのか、わたくしがここにいる今、向こうの世界はどうなっているのか。何も状況が掴めていません。

 わたくしは今、分からないなりにクィツィレア様とご相談をさせて頂いただけです。露河のことも、夢楽爽のことも、何も分かりません。だから、明日、色々と側近に聞くつもりです。もちろん、クィツィレア様にも。わたくしは少しずつ、周りを知るのです。わたくしの周りにはまだサティと煌紳と泰雫、そしてクィツィレア様とヴィートレート様しかいらっしゃいませんから。

 その周りには、霧があります。その霧を早くどんどん奥に押しやって、全てを知らないとなりません。わたくしの今の最重要任務は、それではありませんか、サティ?」


 話すことに夢中になってしまい、慌てて終わりにしてサティを見ると、彼女は美しい瞳を潤ませてわたしを見つめていた。いつの間にか胸の前で愛らしくキュッと組んでいた指をほどいて、わたしは苦笑する。サティは、クスッと笑って、わたしに笑みを見せた。


「お強い方です、レムーテリン様は」


 初めてサティが、わたしをレムーテリン様と呼んだ。それは、こちらの人間とみなしてくれたのか、あるいは、気遣うことなく生きていける人間だと思ったのか。どちらにしても、嬉しい限りだ。わたしも精一杯の笑みを返す。


「頑張らなくてはなりませんね!」


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