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何故か王様になっちゃった件について。  作者: 白玉 ショコラ
第二章
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殺意

「ふざけないで欲しいなぁ、リーミルフィ!」

「お前らだよ。何でお前ら兄弟姉妹は生きているだけで周りに害を与えるんだ!」


 一気に飛びかかった全員の剣とイーリンワーナたちの盾と剣がぶつかり合う。魔人の手や足に傷は出来るが、みるみるうちに塞がってしまう。深い傷がなかなか与えられない。なのにこっちは、全身自分の血で赤黒く染めて、本当なら死んでいてもおかしくないはずの命を怒りで無理矢理延命させて酷使させてんだぞ⁉そんでもって、いきなり始まった戦いに応じてやってんだぞ⁉思考回路を停止させて何も考えずに、でも手っ取り早くお前らを殺すことばかり考えてんだ!こっちはお前らよりずっと苦労して、懸命に剣を降るって魔法をぶっ放してんだ!少しは考えろ!


「皆!一回、必殺技を全員で放つ。そしてその後、まだまだ放てる奴は、一気に沢山行け。わたしには気を遣うな!」


 大声で叫ぶ。さすがのイーリンワーナたちも、苦い顔をしてわたしを睨む。別に作戦が知られたって構わない、至って単純なことだ。結局、殺せればいい。威力が一番大事だ。わたしは、どんな魔法だって、本気でぶつけてやる。


「リーミルフィ。わたしたちを殺せると思ったら大間違いよ」

「姉妹揃って同じような台詞を……どこまでも折れないタフな奴らだよ」


 わたしがボソッと呟くと、殴りかかりながらイーリンワーナが叫ぶ。ひょいっと紙一重で避けて、剣で飛んでくる剣を受け止める。


「生命力は人一倍あるつもりよ」

「わたしの二分の一にも満たないと思うがな」

「さっき殺されかけた人物に何を言っているんだ?俺らは死なない、絶対にお前を殺すぜ」


 今のわたしなら、誰にでも負けない。全身が燃えるように熱い。エネルギーで満ち溢れて、そろそろ爆発しそうなほど冷静な怒りが充満している。


「はっ」

「遅いわよ、怠惰」

「私の名はそのような愚かな名ではなく、美麗な名です!」


 泰雫がイーリンワーナの左隣から襲い掛かるが、魔人の剣に阻まれてしまった。好きを見て転がり込んで、どこかを切れないか……。


「貴方、主の親戚の姉に剣を振るってこれから先生きられると思っているのかしら?」

「貴女の身分は上級貴族であり王のご息女の従姉妹ではなく、魔人です!」


 左斜め後ろから、煌紳が剣を持つ魔人の右腕を狙って剣を振りかぶった。


「なぁっ⁉」


 短めの絶叫が轟き、ボトリと音を立ててイーリンワーナの親指と人差し指が地面に落ちる。中指に入った傷も深めだ。ニヤリと笑って煌紳を見ると、彼も頼もしい黒い笑みを浮かべ返してくれた。草原の草が真っ赤に染まって行く。


「貴様ぁ……殺すわ」

「何回目の台詞か分かってるか?そう言ってまだお前らはわたしを殺せていない」

「殺しかけただろ!」

「でもわたしは死んでない。殺せてない」

「ぐっ……!」


 唇をかみしめて情けなく血を零すデヴァウムを睨む。わたしを殺しかけた姉、わたしの仲間を殺した妹。仲間をいたぶった弟、弟に従ってわたしを殺そうとする兄。四人に対する強い憎悪が体を赤黒く染めた。


 ここで殺さなきゃ、わたしはいつまでたってもこのままだ。鋭い目つきに尖った口調、素直に受け止められずにどこか曲がって解釈し、人を突き放していく……わたしをそうさせる元凶を、殺すチャンスが来た。なら、精一杯生かせばいい。


「レムーテリン」

「あぁ。女王の全てをぶつけろ」

「えぇ」


 小声で女王がわたしに呼びかける。これは、技を放つ前触れ、ということだ。わたしが密かに指を鳴らすと、皆が一瞬で身を引く。そこを狙って、女王の魔法が、魔人と亡霊に降り注ぐ。


 爆発音が響き光で目の前が溢れる一瞬、勇ましい女王の姿が少しだけ見えた。



「やああああぁぁあぁっ!」

「「くはあぁっ、ぐふぅうぅっ――」」



 眩しさに耐えられずに閉じていた瞼を開けると、そこには左手首を失ったイーリンワーナと右腕を切り落とされたデヴァウムがしゃがみ込んでいた。亡霊は体を持たないから、傷もない……厄介だ。魔人の目の前には、女王がすっくと立っている。


「イーリンワーナ。貴女は、誇るべきわたくしの姪でした」

「叔母様!何でわたしを切り捨てるの?わたしは叔母様が大好きだわ、なのに、おばさまはわたしが嫌いなの……?」


 そうか……女王は、自分の姪の左手首を切り落としたんだ。凛赤もわたしも魔人も、女王の姪……同じ立場にいるんだ。吐き気がしてくる。血反吐を慌てて飲み込んだ。右肩から滝のように吹き出す血をものともせずこちらに向かってくるデヴァウムを軽くいなしながら、わたしは声だけを聴きとる。目の前に迫るのは、殺意に満ちたデヴァウムの剣の切っ先だ。


女王の心の傷……今はどうなってるんだろう。辛いだろうな……わたしの何倍?


 わたしは辛いんじゃない、苦しいんじゃない。憎い、殺したい……殺意ばかりだ。


 隣に来てデヴァウムの相手を一緒にしてくれた始めた颯が、隙を見てそっとわたしの頭を撫でる。ハッとして隣を見た。颯は、口を閉じたまま少しだけ笑って、立ち上がった。女王が、イーリンワーナに一歩近づく。


「煤けたことを言うのはおやめなさい、イーリンワーナ。わたくしの姪がこのような者だったとは……」

「魔人にならなければ叔母様の愛を取り戻せるならわたし、すぐにでも人になるわ!」

「そのようなことを言っているのではありません。わたくしは、自分の姪を恥じます。貴女の人格には失望致しました」

「叔母様!」


 すがりつくように女王の足に手を伸ばしたイーリンワーナに触れられることがないよう、女王は少しだけ足を後ろに引く。


「何故、そのように残酷な者になったのですか?魔人の力を望んだのは何故ですか?世界で一番強い者になろうと思ったのは、何故?人をいたぶって貶め、裏切り見下す……。それを史上最高の愉しみとしている貴女に慈悲の手を差し伸べることはできません」

「叔母様……わたしはネーリンワーナの力になりたかったわ。ネーリンワーナのためなら何でもしたくて、あの子のために世界で一番強くなれば、あの子も世界を楽しめると思ったの。だからわたしは、魔人になったのよ。ねぇ、こんな姿だけど、叔母様は愛してくれると思っていたわ」

「姿も魔人も関係ないと言っているでしょう!貴女はわたくしの血縁ではありません。貴女のようなケダモノはわたくしたちの血縁にしたくはありません。縁を切りましょう」

「酷いわ叔母様!あまりにも残酷よ!」

「貴女のしたことと比較したら、どうでしょうね?比べることもできないはずです。これでわたくしは……遠慮なく断罪できますね」


 おぉ、凄い。女王が見事にばっさり切り捨てた。こういう裏切りは綺麗だと思う。少しばかりいや……とても気持ちがいい。ざまぁ♪


「なら……全部死ね!わたしが殺してやるわ!叔母様……ファンナツィン!お前の首も一瞬で刎ねてあげる!」

「そんなふざけたこと言ってる場合じゃねぇんだよ」

「貴女に、簡単に首をかすめ取られるなんてこと、一国の女王としてできるはずがありません」


 女王を見つめて睨むイーリンワーナの背後にダッと走り寄った颯が、凪ぐように剣を振るう。わたしは、首を狙った剣をギリギリのところで止めた。


「それで殺せると思わない方がいいわ!」

「チッ、外したか。でもなぁ……こっちにはまだいるんだよ!」


 颯が叫ぶ。と同時に、風のような速度で三人の影が動いた。


「忘れられたら困るんだよってんだぁ!」

「わたしたちだっているんだからねっ!」

「絶対に許しませんわ!覚悟なさいな!」


 颯が素早く避けて、戻ってきた。凛子とさやかとサティの技が今、同時に放たれる。


「やああぁっ!」

「とおおぉっ!」

「たああぁっ!」


 女王の時の三倍くらいの音が辺りに響く。ここが草原で良かった。首都だったら大変なことになっていただろう。


「ぐっ……わたしは死なないわ!負けられない!妹の仇をとって見せるわ!」


 小説だったらこんな台詞を言う奴が主人公なんだろうけど……申し訳ないが悪役が勝利するからな!いや、全く申し訳なくなんてない。第三者から見れば、完全に悪役はお前だ!イーリンワーナ!


「煌紳、泰雫!」


 わたしは、右隣にいる二人を見る。


「今、我々聖清の力」

「お見せしましょう」


 そうだ、二人は聖清だ。今まで目立って「聖清だなー」と思ったことがなかったから普通の側近化していたが……聖清特有の何かがありそうな予感だ。


「では、行くぞ、泰雫」

「こちらは構わぬ、煌紳」


 煌紳が左手に剣を持ち、泰雫が右手に剣を持つ。そして、それぞれ剣を持つ手側に立って、寸分狂わず全く同じように走り出す。


「「聖清・乱舞!」」


 何かの言葉を言ったかと思うと、二人が目に見えないほどの速さで剣を操り始めた。比喩ではない。一般人が見たら小さな竜巻にしか見えないだろう。


「ぎゃあぁぁ――」


 喚くイーリンワーナの声が遠く聞こえるな。おっと……デヴァウムの剣で指をスッと切ってしまった。地味に痛いな。ま、でも死にやしない。


 と、ここでわたしは、デヴァウムから距離をとって、亡霊たちを見てみる。やはり……何もしていないように見えて、実は裏準備をしている。何のって?そりゃあもちろん、大型魔法の、だ。


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