ミュージカル
「俺は水樹のバリアの内側にもう一個ガードを張る!アスート、夜桜とダブル攻撃を仕掛けろ。イズフェとデウムは遠距離攻撃、タイミングをちゃんと見ろ。夏端は俺と合わせて突き刺し。俺も夏端と合わせて攻撃する。俺なら、剣に槍、弓を出して、全部にエネルギーを込めた後にぶっ放せば大丈夫だと思う。皆、必殺技を出すこと。その後、俺らと魔人二人の舞台を始める。だろ、水樹?」
わたしの代わりに、颯が作戦を立ててくれる。それも、わたしが思い描いていた通りに。わたしは、薄く笑みを浮かべて、少しだけ頷く。わたしは死なない、死なないんだ。自分に言い聞かせろ。きっと、まだ生きれる。力ならある。足掻けわたし!
「残念ね!助っ人くらいわたしたちにもいるわよ!」
「来い!自分の実力を憎き相手に見せつけろ!」
デヴァウムが叫ぶと、地面から半透明の黒い物体が浮かび上がってきた。……幽霊⁉ダウヴェとシャッテル、ハイクトーエにミサクーリ、そして……凛赤。颯は相変わらずの微笑を口元に浮かべて、ギラリと光る目で魔人を見る。
「水樹。お前を信じる。だから……最後、アイツらの人生に終焉を告げるのは、お前だ」
颯の両手に三つの武器が現れる。やる気満々、十分だ。わたしは、トップクアラティ・エブリワンオールアップをかけ、軽く頷く。魔法なら、死にかけていたって使えるんだ。アスートとさやかが、風のような速さで走り出した。勇ましく強かな良い笑顔。いけ!
わたしは、震える右手で魔剣を取り出す。さすがは魔剣、使い手が死にかけても銀色の光を放ったままどこも欠けずに綺麗なままだ。少しだけ付いている血糊は草に擦り付けて落とす。戦闘準備だ。
まだ、戦う。馬鹿だって、絶対に思うだろう。でも、わたしは颯を裏切りたくない。わたしを信じてくれた颯の言う通り、わたしはアイツらの真っ黒な人生に終焉をもたらしたい。と、前の方から爆発音が聞こえた。
「行け!」
地面だけを見て心を落ち着かせる。ふ……やはりいざとなると緊張するものだな。何回目の人殺しだ?……もう考えるのはよそう。それに相手は人じゃない、魔人だ。デウムとイズフェの遠距離攻撃の後、颯と凛子が俯くわたしの肩を軽くポンと叩いて、飛び出していった。わたしはただひたすら攻撃を終えた仲間が集まってくるのを待つ。さぁ……やっと、史上最高のミュージカルが始まる。
凛子の突き刺しの後、颯の剣と槍と弓が飛び、イーリンワーナたちに襲い掛かる。彼女の出すバリアも、彼らの必殺技によってどんどんと割られていく。だが……イーリンワーナたちは余裕の笑みで土埃の中から現れた。
「どんな作戦かは知らないけど、わたしたちを倒すのは無理よ、リーミルフィ」
「お前らを血にまみれた肉の残骸にするまでわたしは倒れない……くふっ。お前らの残像も残さないくらい、消してやるよ!」
お互いが挑戦的に笑う。血泡を服で拭う。頭が重い。でも、まだましだ。実力も怒りもある。動く原動力、ありありだ!
「可愛く踊ってくれると嬉しいぜ」
「ならばお望み通り荒れ狂った舞を披露してやる……っ」
「ダンスパーティーの始まり?」
「わたしの網にかかったお前の足掻きの始まりだ」
持っている魔剣がカラフルに輝き出す。心の中で熱い何かが蠢く。怒りとは何か違う……ただ単に、力。これが、エネルギー?
するっと剣を前に出して、狙いを定める。あ……きつい、苦しい。でも、死にたくない。生きたい生きたい生きたい。そのためには?もちろん、相手を殺さねば。わたしは、怒りを力に変えて立ち上がる。
相手は空中浮遊の魔術を使っている。手も足もコイツらには必要ない。なら……。
「残念、狙いは良かったと思うわ」
「チッ」
首を狙ってみたのだが、駄目だったか。目指すは華麗な首チョンパ。血飛沫がそこら中に飛ぶ。乾いた唇をそっと舐め、すぐに動き始めた。大丈夫、ふらつく足元なんて気にするな。今のわたしは、今までの向こうの行動に対する何とも言えない怒りやらなんやらのみで動いている。でも、胸を割いている傷が苦しい……生きたい死にたくない殺す、体力も痛みも無視すればいいんだ。
ちっ、相手の動きが厄介だ。右に、左に、前に行ったと思ったら下がって右から左へ、前へ。そして、剣も体に合わせて滑らかに動かす。
「凛子!皆を呼べ!」
「ラジャーっ!」
イーリンワーナが剣を出してきた。わたしが振りかぶった剣と相手の剣がガキィンと鋭い音を立ててぶつかり合う。動く動く、体が動くのなんの。もの凄い速さで動いてくれるじゃないか体クン。お前も捨てたもんじゃなかったね。なら、もっと、どす黒い感情を……噴出!
仲間を殺したのは?アイツら。わたしを殺しかけたのは?アイツら。知り合いを殺したのは?アイツら。魔物を作ったのは?アイツら。人々の命を危険にさらしたのは?アイツら。誰かが嘆き悲しみ苦しみ、そして自分を憎しみの目で睨んでくるのを喜び愉しんでいるのは?アイツら。誰かを困らせているのは?アイツら。どこまでも、いつまでも、今どこかでコイツらのせいで泣く奴だっているんだ。そもそも、こんな状況や思いを作って人の心をもてあそんで笑っているのは?……全部、全部が全部、アイツらだ!死にかけのわたしを怒りに染めて動かしているのだってアイツら。全ての元凶は、アイツらなんだァぁッ!
スピードアップ!メンタルアップ!攻撃力、防御力共にアップ!
「舐めるんじゃないわよ」
剣が一気に押される。わたしだって、これくらいじゃ負けない。再び襲い掛かる剣を魔剣で受け止めてどうにか耐える。負けないけど、きつい。少しだけ吐血。瀕死の状態からよくここまでやってるよ。自分の身体に脱帽する。
「っと、面倒なことやってらぁ」
「⁉」
どこか聞き覚えのある野太い声が右から響く。だが、そちらに視線は動かせない。
「誰だ!」
「久しぶりだな、姫騎士の嬢ちゃん」
「お前、まさか、あの乳繰り合ってるおっさん共か!」
「凄いあだ名だな!」
力ずくで相手の剣を押し返すと、一瞬の隙を見て襲い掛かる。また、止められる。血反吐が出る。埒が明かない……しょうがないな。
「おっさん!手助け要求!こっちには姫騎士とレイカの英雄がいるぞ!」
「分かってら!」
ザッという音と共に、四人のおっさんが四方八方からデヴァウムを囲う。亡霊の方は……他のメンバーでどうにか対処、か?わたしはすぐにおっさんたちに視線を戻す。
「わたしの名前は、羽葉澤水樹ことレムーテリンことリーミルフィ。死にかけの二十歳」
「俺らはサン、シン、スン、センだ。全員健康、五十四!」
四つ子かってんだ。それに全員禿げ気味だし。じゃない、今気にするべきは魔人だ。突如として現れたわたしの味方にイーリンワーナたちは面倒そうに舌打ちをして、剣を凪ぐようにして払おうとする。
「させない。こいつらは殺させない!」
「迷惑よっ!」
まぁ、こいつらにもガードとオールアップをかけておいたから、大丈夫だとは思うけど。
「水樹!全員いるぞ!」
おっ、来た来た。夢楽爽の知り合いが続々と。すぐさまガードとオールアップをかけて、戦うように命じる。
「リスタート・騎士特訓ジムでの訓練の成果、主であるわたくしに見せて下さい!」
「畏まりました!」
凄い凄い。料理人の二人も達者に剣を操ってイーリンワーナたちを翻弄している。おっさん共もなかなかの腕だ。ならばわたしは少し後ろに下がって、魔剣にエネルギーを込めていく。と、右隣に女王が寄ってきた。鎧に着替えている。勇ましいじゃないか、男共は惚れるぞ。現にサンシンスンセンがニヤニヤしてる。でも、残念。ヴィートレートと相思相愛だから、亡き夫を思って泣く人だ。奪えないぞおっさん。
「女王?」
「レムーテリン、苦しくなったら戦闘を直ちにやめなさい」
「何心配してんのさ、女王。わたしの原動力は今、怒りだから、なかなか止まれないぞ」
女王は揺れていた瞳をまっすぐにした。ディのせいで体中が真っ赤になっているわたしは、息を整えながら女王の言葉を聞く。怒りのおかげで聞こえも快調だ。
「彼女についてわたくしも調べました。前、貴女がわたくしの夫とレルロッサムと旅をしていた時、出会った人物も、彼女たちが殺しています」
「誰?」
「ルクレアです」
「……殺意を湧かせてくれて助かる、女王」
女王が言った人物の事をわたしはよく知っている。そして、彼女が死んでしまったことも。そして、彼女がとても可愛らしいことも。
「それと、各国に頼んで魔剣を何本か借りてきました」
「この中に魔剣使いは、わたしと女王を含めて何人くらいいる予想なんだ?」
「推測ですが、八人ほど」
「借りてきたのは何本?」
「もちろん、七本です。今現在この世界にある魔剣の中でも優秀なものを揃えて来ました」
女王から見ると、魔剣使いの素質があるのは、わたしと女王、凛子とさやか、それに颯と煌紳と泰雫、サティ。なんだ……大好きな人ばっかじゃん。
女王が、その六人を呼んで、魔剣を手渡す。その間、わたしとおっさん四人で、イーリンワーナたちと戦っていた。
「サン、こっち!センはもっと後ろ!スン、近すぎ!シン、魔法!」
魔剣が手渡った颯の指示に従って、おっさんの癖して身軽そうにひょいひょいとイーリンワーナたちの攻撃をよけて戦っている。凄く強い、頼りになる太腿好きだ。
「レムーテリン!全員が魔剣使いでした!魔剣が手に馴染むようです!貴女も一度下がって下さい!」
「了解、女王」
指示通りにすぐ後ろに飛びのいて、皆のところに戻る。イーリンワーナは、破れた服やらちりぢりの髪やらを触って忌々しそうにこちらを睨んでいて、亡霊共はこちらに群がり始める。おっさん共は回復薬と水を飲んで、一瞬の休憩だ。
「皆、意外と使って見ると大丈夫だから」
わたしだって、これが二回目だ。これしかアドバイスも言えないし、一番分かりやすい、と思う。皆が
素直にうなずいてくれるのが嬉しかった。突然魔剣使いに選ばれて戸惑っているはずだと思うけれど、真剣に剣を構えてわたしを見る。
「でも皆、剣も達者だから大丈夫だよね」
「はい!」
「やったるぜ!」
「頑張るね!」
「俺もやるか」
何故颯だけ気だる気なんだ?疑問に思いつつ、わたしは前にいる不機嫌そうなイーリンワーナを見る。彼女の腕や足も、ところどころ傷ついて血が出ている。少しはダメージを与えられているんだ。こちら側は、わたしのガードと癒しがあるから、傷はほぼ無し、というか無い。デヴァウムは、忌々しそうに剣の手入れをしながらイーリンワーナに何か話しかけている。……どうやって殺すべきか。それに、この状況が突然すぎて付いて行けてないし、大変だけど……。ま、とにかく。
「行くよ!」
まだ続きます。
作者の繊細な胃に穴が開きそうです。
すぷらった!




