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何故か王様になっちゃった件について。  作者: 白玉 ショコラ
第二章
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禍々しさ

「ホントに、すぐそこだ!下手に避難しても危ねぇし、かといって身動きしねぇってのもあれだな……」

「ちょっと創造主!どうにか出来ないの⁉」

「だから、魔物関係には疎いから出来ねぇんだ!」

「落ち着け」


 わたしたちの会話の中に颯の冷静な声が入って来た。途端にスッと力が抜ける。


「俺たちは世界の第二英雄だ。簡単に負けられねぇし負けねぇよ。皆、魔物がすぐに来ても動けるだろ?」


 全員がゆっくりと頷いた。やっぱり……颯がリーダーだ。こういうときに、全員をまとめて統率させるのは、なかなかできない。


「動こう」

「ちょっ、颯⁉」

「マトイーン、そんなに慌てふためくようなことじゃねぇ。さっきも水樹が言ったろ?最弱の魔物かもしれねぇって」

「えっと……あたし、魔物の強さとかだいたい分かるんだけどさ。こりゃ……あたしたちが今まで出会ったどんな魔物よりも強ぇ。水樹、さやか……正直、凛赤よりも、遥かに強い」

「んっ、そんな、どうすれば……」


 颯とわたしは、同時に顎に手を当てて考え込み始めた。


 突然の緊迫した状況に付いて行けないのか、さやかとマトイーンが身を寄せ合って震えている。二人とも、それなりに戦闘経験あるはずなのに……今までの魔物より遥かに強いって知ったら、こうなるのも分かるかも。でもわたし……負けたくない。


 だって、ナイテクストレルロッサムを失って、この世に悪をもたらすものは全部消え去ってやりたいって、心の底から思った。だからその魔物、どんな奴でも倒して見せる。


「な、何か、急に不安な空気になっちゃったね。でも、大丈夫だよ。みんな強いもん!負けられないね!」


 さやかが笑顔で拳を握りながら話しかける。そんなさやかに後押しされるように、さやかと抱き合っていたマトイーンの顔色も良くなってきた。


「そ、そうよね。大丈夫だわ、きっと。負けられない。誰が相手だって受けて立つわ!」


 昭和臭って絶対これだよ。昔の戦隊ヒーローものでこの台詞一個はあるよ。うん。


「マトイーン、怯えすぎ。俺たちはこの上なく強いって言ってるじゃねぇか。簡単に負ける訳がねぇんだ」

「でっ、でも……怖いものは怖いわよ、ナルシスト。いつだって危険とは背中合わせ、隣り合わせなんだもの。わたしだって不安になることくらいあるわ」


 マトイーンがむくれている。昭和っぽくても彼女は可愛い。颯をキッと睨む紫色の瞳がきらりと輝いた。どっかのアニメで見たことあるな、こういう外見の……ビクビクしてて可愛い子。誰だっけ……。


「水樹、お前、りんせきとか何とかいう奴を倒した時の必殺技、危なくなったら放てるな?」

「あ、あれね、一発やるとぶっ倒れるんだわ」

「は⁉」


すまないねぇ役立たずで!


「ヴィーナスかスマッシュを消せば、二発くらいは……」

「二発かよ⁉」

「二発だよ。悪い?」

「悪い」

「おまっ――」


 思わず殴ろうとしてやめた。今殴ったら戦いに支障が出る。殴るのは勝負の後だ。骨を折ったらすまん、颯。小突きであれだけ痛いならちょっと怖いな。やめとくか?


「じゃあ、今だって言うときにぶっ放せ、全力でな。それまでは普通に魔法攻撃だ」

「随分と大雑把な作戦だね。わたしだったらまず、わたしと颯で強力なガード魔法で守って、次に剣やらなんやらで攻撃、そして追い撃ちで魔法攻撃と突き刺し。それを繰り返す、そんな感じに行くな。個人に決めても順番がないと」

「やるときゃやるなお前」

「つっかかってこなかったのは褒めるけどあたしゃやらないときもやるよ!」


 わ、自分が前の自分に戻っていく。なんか……嬉しい。今は、口調も固いし目つきも鋭いしなんか、裏切られ系小説の主人公みたいだったから、ふわんとした感覚が……蘇る。


「じゃ、頼りにしてるから、水樹。俺についてこれるのは水樹だけだしな」

「ふふっ、何言ってんの?お互い頑張ろ、颯」

「なっ……」


 前みたいにフレンドリーに言えたかな?天乃雨に戻った時みたいだな。こんなときに言う言葉じゃないけど、幸せ。


 わたしは、颯の期待に応えるべく、鞘から出ている魔剣の柄に手を馴染ませる。スッと手の中に入ってくる剣を掴んで引き抜くと、ニヤッと笑って土の家を蹴った。ボウォォォ、という音を立てながら、家が壊れていく。皆の顔が、キッと引き締まる。


「じゃ……来い!最後の魔物!」







「ははっ、はははっ、ははっ」

「⁉」


 後ろから、魔物のものだと思われる気味の悪い笑い声が響いて来た。バッと振り返ると、後ろにいたのはさやかだった。


「さやか……?」

「違う!でも、話す魔物なんて、知らない……」

「話せるほど強い魔物ってことか⁉」


 凛子が驚いたように叫ぶ。嫌な予感が脳を駆け巡り、背中に冷や汗が流れる。


「まさか……お前」

「はははっ、くはっ、はははっ……笑わせてくれる」


 まただ。再び、裏切りが現れる。さやかが振り向くとそこには、長く伸びたバサバサと広がる薄ピンクの髪を風に揺らして、わたしを、わたしだけを、紫色の瞳でギッと見つめる女の姿があった。そして隣には……見覚えがあるようでないような、背中がゾワリとする嫌な笑みを浮かべた男が。


「わたしはネーリンワーナの姉のイーリンワーナ――マトイーンという偽名を持つ者よ。妹を殺したお前は……許せない。許さない!」

「イとネが違うだけだね……」

「さやか、ずれてる」


 わたしがそっとツッコミを入れる。でも、声は震えていた。心の傷がやっと癒え始めてきたと思ったら、また抉られる。


「俺はデヴァウム、ダウヴェの兄だ。弟とその主と仲間を殺したお前を憎んでいる。故……殺す!絶対に、むごたらしく殺してやる!」


 ダウヴェの兄?憎む理由は……わたしがあそこでダウヴェを殺したから?もう……疲れた。それはこっちの台詞だ!それに……どっからどうやって来た⁉


「弟妹を殺したって……その弟妹が悪だったって発想には至らないのか!」

「ネーリンワーナが悪?ふざけないで!あの子は可愛くて少しおませで、いつだって優しい純粋な子だわ!」

「ダウヴェはどこまでも主を尊敬して尊重する、凛々しい奴だ。ダウヴェをそのように見るお前が理解できねぇ!」


 マトイーンいや、イーリンワーナの爪は長く伸び、腕は骨張り、ピンクの髪はいつの間にか外側にはねている。瞳は、紫と黒、赤が混ざった、いわゆる……魔人化、とでも言うのだろうか。


 デヴァウムの瞳は紫色で、髪色、目つき、そういう物はダウヴェに似ているが、口調と声は全く違う。だが……わたしを理解不能のモノのように蔑む扱い方は、似ている。そして、彼の髪も逆立ち、目の色もイーリンワーナと同じようになり、長い爪と骨張った腕をしている。


 凛赤とマトイーンの髪の色は似ていない。その代わり名前が酷似している。名前が似ているだけだと思うかもしれない。ダウヴェとデヴァウムだってそうだ。でも、わたしは分かる。瞳の奥にある強い憎しみと恨み、妬み。そして、誰かを裏切ることの愉しみ。これは、凛赤の瞳にもあった、禍々しい光と同じだ。凛赤とマトイーン、デヴァウムはどこまでも似ている。


「アイツは、わたしの仲間を殺した。無惨に殺した!魔物を生み出して世界を脅かした。世界を不安にしていたぶって恐怖のそこに突き落として裏切るのを史上最高の喜びとしている奴だ。アイツはもう、人間じゃない!」

「水樹!落ち着け!」

「落ち着ける⁉わたしは、コイツらを殺す。だって、どんな魔物だって殺すって決めたんだ!」


 颯が唇を噛む。わたしは、もう止まらない。前、アイツに裏切られたときはフッと力が抜けてしまったが、今は違う。憎悪で心がいっぱいだ。


「わたしは魔物じゃないわ、それにネーリンワーナのようにおかしくもならない!」

「俺も弟の主とは知り合いだったんでな!簡単には負けねぇんだよ!」


 二人が絶叫する。わたしは、ニヤリと口元を歪めた。コイツらを殺す光景を想像すると、寒気が立つほどワクワクする。


「わたしはネーリンワーナのためだけに生きてきた。なのに、お前によって命を奪われた。わたしの生きる支えを奪ったお前を、殺すわ!」

「俺はダウヴェに、主に害を与える者は殺してくれと頼まれていたんだ。だから、お前を殺す!」


 ふざけるな……お前らに殺されたわたしたちの仲間の命の方が、そいつらみたいな軽い命よりずっと大切だろ⁉という言葉と血反吐を何とか飲み込んで、わたしは二人を睨む。


理不尽だな……仕方ない、殺し合いだ。お互いの命を奪い取る戦いが始まる。


――乱戦の、幕開けだ。

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