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何故か王様になっちゃった件について。  作者: 白玉 ショコラ
第二章
53/102

リポップ

 学校で声替えが流行った時期もあったから、結構出せる声のバリエーションは豊富な方だと思うが、颯調子乗ってんじゃねぇぞと何かをしてやりたい。でも、これは対価だ。相手を知るための対価だ。そう、ギャルゲ趣味と言うことも知れたではないか。よし、やったるぞ!


「あ゛~、う゛う゛ん。お、『お兄ちゃん水樹に教えてくれないのか?泣いちゃうぞ?』」

「お前、ところどころ変わってんだよ。まぁ地味にいい感じだけどよ」

「うっさいな」


 だって恥ずかしすぎるじゃんか。やったるぞ!っていうのは、手加減するぞ!という意味なのである。颯に本気の替え声は聞かれたくない。でもこのままじゃきっと教えてくれないだろう。仕方ない……。


「はぁ……『お兄ちゃんっ!水樹に教えてくれないの?うぅ、水樹悲しいなぁ。水樹泣いちゃうよ?』」

「……っくぅ、これぞ俺が探し求めていた声!台詞!お前演劇サークルとかどうだ羽葉澤!同じ大学だったか?帰ったら一緒にギャルゲ劇だ!」

「変態オタク!さっさと教えやがれーっ!」

「あ、あと。あと二個、残ってる!」

「チッ、面倒な……」


 その後無事(?)わたしは魅力的な声で魅力的な台詞を魅力的に言って、颯を悶絶させた。気持ち悪い奴だな。まさか学校一のモテ男がギャルゲオタクの女趣味だったとは。


「どこから話すかな」

「態度に裏表あるよなー」

「いいから黙って話を聞け」


 ったく、とわたしは呟いて、颯の言葉を待つ。


「まぁ、レイカって楽しそうだなって思ったからだよ」

「はぁ⁉」

「いや、一位とかじゃねぇし、変に目だってなくて上位の国だし。上位争いに巻き込まれずにいられるし。人は優しいし物価も安いし治安は良いし平和だし魔物も少ないし気候は変わらないし経済も農業も発展してるし。いいことずくめなんだよ、レイカは」


 わぁお、夢の国レイカ。国の名前も結構可愛いと思う。日本の女子に結構いた。レイカちゃん。こりゃ、わたしも行きたいわな。選べるならここで暮らしたいわ。うん。


「颯。わたし、王族の事とかあんまり知らなくて。色々教えられることは教えて欲しい」

「そうだな。まぁ、あまり秘匿するようなこともねぇしな。父上は王、母上は女王、弟は第二王子だ。ちなみに俺は第一王子」

「地味にイラつく」

「いちいち突っかかってくんな」


 何だか面白いんだよなぁ。ちょくちょくツッコミ入れたい感じがするというか。入れられても楽しいというか。意外と遊べるイケメン先輩。このまま行ったら平凡なラブコメだ。あーっ絶対に考えるな、水樹。


「で、夢楽爽の女王とは親戚」

「親戚⁉女王と⁉」

「そうだけど?穏音様は王族出身って、聞いてねぇのか?」

「それは知ってるけど、言われてみればって感じで、ビビってる。どんな関係に当たるわけ?」


 颯はしばらく考え込んだあと、苦い顔をした。


「俺、お前の血縁だわ」

「はぁっ⁉」


 まったく予想していない答えだ。いや、それはもはや答えではなくなっている。わたしと颯が血縁⁉


「嫌ーっ!」

「嫌とかじゃなくて驚けよ。地味に傷つくんだっつーの」

「ちょ、ちょっ、と待って。どういう意味?どういうこと⁉……颯が女王の血縁なら、女王の娘の心梨の従姉妹のわたしと、繋がってる……ぎゃあぁぁっ!」

「わ、喚くな水樹!静かにしろ!」


 ラブコメじゃない!ラブコメじゃないよこれ!わ、ちょっと嬉しいかもしれない。でもラブラブ以前に血縁だったよ⁉


「いや、かなり遠い位置にいるけどな?」


 ラブコメかもしれないよ⁉よくあるほら、再婚相手の兄とか弟とかに恋しちゃうあれだよ。のぅおぉぉ……。


「穏音様は、母上の従姉妹だ。あ?ちょっと待て?お前は……従妹の従姉妹か?それなら、血の繋がりはねぇってカウントするな」

「うしっ」

「ま、元の世界の話で、こっちではどうかは知らねぇけど」

「……こんにちは他人!」

「先輩だぞ」


 怖いことを考えずにフレンドリーに話しかけたら突っ込まれた。ヤベ、楽しい。駄目駄目駄目、考えたら終わりだって水樹。血の繋がりはないから結婚とかできる?ぎゃーっ、考えるな!


 まず、学校一のモテ男だった「榎賀颯先輩」とそういう関係になるわけがないんだ。今は颯だけど。っじゃなくて!


「将来は王様?」

「そうだな」

「なによ、婚約者とかいるの?親が決めた美人の貴族様、みたいな?」

「いねぇよ」

「いないの!何か雰囲気ないな。最初も思ったけど、この世界って身分制度がきつくないよね?ちょっと緩めと言うか」

「さすが、創造主が夏端なだけあるよな。俺も思った」


 颯は水の魔法で天然水を2カップほど出すと、1カップわたしに差し出した。


「?」

「話してばっかだろ。今までこんなに話してなかったのにいきなり一日で沢山話したら喉を傷める。潤せよ」

「いや、毎日このくらい余裕で話してるよ?」


 わたしがそういうと、彼はまたもや驚いて、仲良すぎねぇか?と言ってくる。普通じゃない?むしろ、これしか……いや、これよりも話さない颯たちのグループは特殊だと思う。もっと話そうよ。つまらないでしょ。


「ま、ありがたく受け取るけど。いただきます」


 コクリと飲むと、ひやっとした水が喉を通っていく。スッキリして、体に籠っていた熱気が霧散したような気がした。


「もしかして、王女王制とかも知らねぇのか?」

「オウジョオウセイ?追う女王製?」

「馬鹿じゃねぇのか?何で追う女王が何かを作るんだよ。何言ってんのか意味分かんねぇの。王、女王、制」


 そう言って颯は丁寧に教えてくれた。王族の王は女王になってほしい者にプロポーズして、結婚したら王族専用の大きな草原で最大限の魔力攻撃をぶっ放すそうだ。王族専用の草原と言うのはもちろんアイツが使ったような幻想空間らしい。だから、いくら魔法をうっても大丈夫なんだそうだ。便利だな、幻想空間。わたしはトラウマばかりで嫌いだけど。


「で、魔法の威力が強かった方が、世界の一番の権力者。だから、女王制の時期もあるし、同じ権力の時もある。必ずしも王制とは限らねぇ」

「そうなんだ……」


 そんなこと初めて知った。


「今は?」

「王制だな。俺の婚約者はどうだか知らねぇが、負ける気はしねぇな」

「好きになる人に敵対心持って、どうするの」


 あ、今気が付いた。わたし、颯と話してると口調が前みたいに柔らかくなってる。あーっラブコメ一直線の台詞!やめよやめよ。


「じゃ、次わたしね」


 わたしは、今までのわたしのことを事細かく話した。


「へぇ……すげぇのな。俺、天乃雨に戻ったことねぇよ」

「そうなの?じゃ、今度一緒に戻る?」

「ん……いや、いい。俺、ここ好きだから。でも、白宇野の卒業式には行きたかった」

「そだね。わたしも行きたかったな」


 颯とわたしは黙り込んでしまった。お互いに、天乃雨の思い出に気持ちを飛ばしているだけだ。別に、暗い話題になったわけではない。


「俺、思ったんだけど。本はこの世界にあるんだよな?だったら、本好きの白宇野に、お前の自伝を書いて渡せばよくね?」

「突然帰ったら質問攻めにされないかな」

「そこはあたしがどうにか調節してやるよ!」


 突如として凛子が会話に入って来た。そうだ、凛子は世界の創造主。凛子に出来ないことは無い。ほぼ。例えば魔物を全部消すとかそういうことはできないが、世界と世界の干渉なら何やらは出来るらしい。


「あたしたちと先輩が帰った時に違和感なくできるように、偽の記憶を入れておくから。あと、世界を魂だけ移動させることはできるから、卒業式の日に合わせてそれをすれば、本も渡せるし挨拶も出来るんじゃね?」

「わたし、卒業式の日知ってるよ?二週間後」

「ねぇ、本の発行、二週間で出来ないよ?」

「何言ってんだよ、水樹」


 颯がわたしの名前を呼んだ時、さやかの顔が真っ赤に染まって、わたしをバッとみて、わざとらしくウィンクする。さやか……わたしは嫌だぞ、こんなギャルゲオタク。


「空間に文字を想像して、それを空白の本に貼り付けて行けば出来るだろ」

「じゃ、颯がやってね。わたしは文を書くから」

「ったく、仕方ねぇ野郎だよな、お前」







 それからも色々な話をした。例えば、颯は何故ここに居たのか。アスートが凛子の悲しい空間移動魔法を一日に何回も使えるらしく、ヨウカリの首都に行って休もうとしたところ熱烈なファンに追いかけられ全力疾走で逃げ出して、そのあたりをぶらぶらしていたところだったらしい。ちなみにその前は、レイカにいたそうで。


「もしかして、えっと……町中の、木造で三階建ての宿に泊まってなかった?えっと、宿主にお金を渡すと『はいよっと』って言って、おばさんが案内してくれる宿」

「そうだけど、説明下手だな」

「失礼な。じゃ、おばさんが言ってた英雄ってのはあんたたちのことだったわけね。でも、何でおばさんに颯だってバレなかったの?顔見知りでしょ?」

「俺は幻覚魔法が使えるんだ」

「あ、わたしもだ。特別扱いできなくてすまんね」


 だからイラつかせるのをやめろ、と颯は呟いて水を飲む。アスートが、「終わったかい?」と尋ねてくるからわたしは、水を飲みながら頷いた。目の前で飲まれちゃ、喉が渇くものだ。


「それじゃあこれから、どうしようか」

「あ、それなら、ちょっとお願いを聞いてほしいかも」


 アスートに顔を向けて、わたしは二人と目配せをする。


「この世界に生息する魔物はあと一体しか存在しない。だから、その討伐を手伝ってほしいんだ。もしかしたら最弱のかもしれないけど、頼める?それと、リポップなんてしないから、これで本当に最後なんだ」

「りぽっぷ?そっちの用語かな?うーん、冒険者には残酷かもしれないけど、人々を脅かす最後の魔物、僕たちで倒そう。ハヤト、デウム、イズフェ、マトイーン。いい?」


 アスートがこのグループのリーダーなのだろうか。いや、さっきは颯が「リーダーは羽葉澤か?」と呼んだから、リーダー同士の話し合いと言うことで颯がリーダー?まぁいいや。


「俺は構わん」

「おぅ」

「いいよー」

「ハァ……また面倒な依頼ね」


 三人は普通に返事をしてくれたが、マトイーンはわたしと目が合うと苦笑いをした。まぁ、疲れるものだから仕方ないのだろう。特別仲が良いグループというわけでもないようだし。颯たちが一緒のグループになったのは、レイカで知り合ったから、ただそれだけらしい。皆がそこそこ強いのが分かったから、じゃあ皆でレイカの魔物を倒して回ろう、ということになったようで。


「凛子、最後の魔物ってどこに居るんだっけ?」

「あ、確認してなかったな……⁉ヤベッ、近い!すぐ近くにいる!」


 ザッと皆の顔色が悪くなる。嘘でしょ、とマトイーンが青い顔でポロリと呟いた。


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