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何故か王様になっちゃった件について。  作者: 白玉 ショコラ
第二章
52/102

ちょっとした辱め

 目をパチクリさせている榎賀先輩の瞳をじっと見つめる。


「覚えてる?」

「えっと……やっぱ、羽葉澤と夏端と夜桜?」

「おわ⁉ま、待て、知り合い⁉」


 どうやら凛子は気付いていないみたいだ。後ろを振り返ると、さやかはびっくりしたようにこちらを見ている。


「高校の一つ先輩、榎賀颯先輩。覚えてない?」

「あー、覚えてる!朝に図書室来てましたよね!」

「え、そうなの?」


 これには逆にわたしがビックリした。わたしたち以外に来ている人なんていないと思っていたから。本に没頭していて気が付かなかったのだろうか。


「あぁ、二人ともいたな。あと一人、女子が。確か……白宇野だったか?」

「玖美玲⁉玖美玲もいたんだ⁉」

「白宇野のななめ前にいつもいた」


 わー……知らない。すまん先輩。


「でも、先輩がここに居るなんて知らなかった」


 俺もだ、と先輩はいつものように難しい顔をしながら頭を掻いた。


「立っているのが疲れたな。タスート、簡素な家作っていいか?」

「分かった。ハヤトがリーダーだから好きにして。ミズキちゃん、リンコちゃん、サヤカちゃん。コイツの魔法はちょっとおかしいけど、気にしないで」


 おかしいって何だと抗議する先輩をよそに、ハスートは苦笑いしながら言葉を続ける。


「それにしてもハヤトと君たちが知り合いだったなんて、驚いたよ。やっぱり天乃雨から来たんだよね?」

「そうだよ。同じ高校の先輩だった。あー、学び舎?の一学年上の人」

「学び舎なら露河にもあるよ」


 そうなんだ、と言っていると颯が手を動かし始めたため、そちらを見る。両手を土にかざしてからゆっくりと上にあげていく。手をかざす行為は既にトラウマになりつつあるため、頬の肉がピキッと引きつった。


 颯の手は滑らかに動いて行き、手で軽く建物のような形を描く。そして、両手を握ってバッと開けると、眩い光が目の前を照らし、瞼を開けるとそこには土で出来た家が建っていた。


「ね?分からないだろ?」

「そうだね、原理はだいたい分かるよ。土系統の魔法で、柔らかくした地面を動かしながら形を作って行って、最後に固めればこうなるし。それより、異空間から存在しないもの――例えばこの場合だったら大理石とかレンガとか――を取り出して作り上げるほうがよっぽど労力を使うと思うけどな」


 うわぁ、凄いね……と感心されても逆に困ってしまう。作った結果ではなく過程を想像してから作れば、良い物が作れる。代わりに、使う労力は結果だけイメージしたときより増えるけど。MPがないから分かりやすくていいと思う。第一わたしはゲームに詳しくないから、この世界の設定は結構お気に入りだったりする。


「入れ。脆くはしてないから、大丈夫なはずだ」

「先輩、全然疲れてないんですね……」

「夜桜もやろうと思えばできるんじゃねぇのか?分からんがな」

「ちょっとぉハヤト、女の子に対して冷たいんじゃないの?」

「イズはうるさい」


 颯とさやかとイズフェが話している間、わたしは駆け寄ってきた、確か……マ、マ、マトイーン!彼女と会話していた。


「こんにちは、わたしマトイーン。魔法使いよ」

「どうも、水樹。わたしも、魔法使い?なのかな」


 何だか昭和臭がするぞ?クンクン。外見はとても可愛い。薄ピンクの髪をセミロングにふわっとさせていて、瞳の色は薄紫。色もとてもあっているし、可愛い系の女の子で、黒いピンクのリボンが付いた魔女帽子をかぶせたい感じだ。


「うちのパーティー、癖が強いでしょ?」

「いや、こっちもなかなかのもの……だったから。今はちょっと弱くはなりつつあるけど」

「だったって、もしかして」

「ん。大体察してくれてる通りだと思うから……あんまり、語りたくない」

「分かってるわ。わたしたちも一人……そうなの」


 左に立つわたしより少し背が低いマトイーンを見ると、寂しそうに笑いながらわたしの左手を取った。


「ミズキちゃんは、二人?」

「うん」

「なら、あのダメージが二倍……ホントに、お疲れ様」

「そっちこそ。あれがあってからわたし、荒んじゃって。前はもうちょっと口調も目つきも柔らかかったんだけど、やさぐれたっていうの?」

「そっか。もう、この話はやめようよ。出会ってすぐこんな話する趣味、わたしにはないわよ?」


 マトイーンが可愛らしく笑って見せる。そして、ポロリと本音を零した。


「正直、このパーティーは英雄なんて言われてるけど、疲れちゃったわ。女はわたしだけだし。ミズキちゃん達は良いわね。女子ばっかりで毎日女子会じゃない。楽しそうだわ」

「そう?凛子、あのショートヘアがうるさいし、まぁさやかは全然いいんだけどさ」

「それって仲いい証拠よ。ふふ、わたしずっとミズキちゃんと話してたいわ。あの人たちと話すことなんてないんだもの。こんなに話したのなんて久しぶりよ。まぁ、デウムが話すことなんて私よりないんだけどね」

「デウム……あぁ、あの人」


 簡素な家に入ってマトイーンの右隣に座ると、ななめ左前にごつい男が見えた。肌は焼けてチョコレート色、髪は紫。そんでもって、筋肉ムキムキ。一歩間違えれば筋肉〇ンだ。


「あー……羽葉澤がリーダーか?」

「そうだけど」


 颯が胡坐を掻いてわたしに話しかけてきたため、わたしは膝立ちになって向かいになったハヤトと視線を合わせる。途端に、一気に静かになった。


「お前な、久々に出会って先輩に敬語はなしかよ」

「すみません。でも、ここ異世界だし同じ身分だし、年齢も近いし学校じゃないし。何より同じ英雄同士ということで、敬語なんていらないと思いますけど」


 敬語になっても言ってる内容は変わらねぇな。もう敬語なんていらねぇよ。とめちゃくちゃ不機嫌そうに、だるそうに鬱陶しそうに面倒そうに厄介そうに呟く通常運転の颯は、ガシガシと頭を掻いてからわたしを見た。


「とりあえずお互いのことについて話し合うべきだと思うんだ、俺は」

「じゃ、先に颯から」

「ん」


 あの堅物の榎賀颯先輩と対等に、自分たちの事を細やかに話す時が来るなんて思っても見なかった。しかも、異世界で。何にも興味ねぇぜ、みたいな、男としかつるまないあの榎賀颯先輩と。


わたしなんて距離が遠すぎてフルネーム+先輩呼びだったというのに。今じゃ名前呼びだよ。こりゃ帰ったら颯ファンクラブ会員にメタクソにされるな。颯は堅物だから女は近寄るなオーラが凄かったけれど、微かに浮かべる微笑や不機嫌そうな態度が女子に受けていたらしく、ファンクラブも出来ていたらしい。どこのラブコメだってんだ、まったく。


「俺は高三の冬の始まりとか真ん中とかその位の時期に、ここに連れてこられた。もちろん、スイジュに出会ったんだ。あの路地に何故か興味が湧いて、歩いて行ったらスイジュがあった」


同じだ……。わたしは冬の終わり頃だったけど。


「身分鑑定と領地判定をしたら、王族の者だった。確か王子の兄だったか?」

「えっ⁉次期王じゃん!なら、何でレイカにいたわけ?あっ、それとさやか。心梨に伝えて。天乃雨からでも王族になる可能性あり。知人が王族だったって」

「了解」


 わたしは変なところで入手したスイジュ情報を心梨に伝えるよう、分身であるさやかに伝えると、颯の方に向き直った。


「まぁいわばお忍びって奴だ。それも、王公認のな」

「王公認お忍びって……それもはやお忍びじゃない気が」

「レイカの人間にバレてねぇからいいんだよ、うっせぇな」


 こういうところは前と変わっていない。背も着々と伸びつつあるようで、前に廊下でぶつかってしまって見上げたときより見上げる角度が大きかった。わたしも伸びてるはずなんだけど。なんか悔しいな。


「で、俺がレイカに行ってみてぇって言ったからレイカに行った。旅する異邦人ハヤトとしてな」

「何かっこつけてんの?んでもって何でレイカに行きたかったわけ?」

「さっきからうっせーなこの後輩!地味にイラつくスタイル⁉羽葉澤ってこんなキャラだったわけ⁉」

「かたっくるしいなーもう。こっちが颯って呼んでんだから羽葉澤はないでしょ。水樹とか呼ぶでしょ普通」

「恋人かってんだ」

「そういう概念この世界にはないんじゃないの?基本名前しかないわけだし」

「お前が同級生じゃなくて助かったよ水樹!お前と毎日会ってたらうっさくて気ぃ狂いそうだ!」


 ……不覚にも一瞬ドキリとしてしまった自分を今ならば殴り殺せるだろう。言っておくがわたしは颯があまり好きではなーいっ!不愛想にする必要がない所でする理由が分からなーいっ!わたし?わたしは別に不愛想じゃなーいっ!


 でも男子に名前で呼ばれたのは小学二年以来!何だかぞわぞわしたのは否定できん。あー悔しい。さっきから悔しがってばかりだ。ならば颯を超えてやればいい!新たな目標!


「水樹ちゃん、水樹ちゃん!心梨ちゃんが、もうスイジュの調査は打ち切っていいよだって。ありがとって言ってる」

「何で?」

「んーとね、うんうん、分かった。えーっと、色々心梨ちゃんも調査して、それ以上探索するのは心梨ちゃん達の力的に無理なんだって」

「ならあたしがやればいいんじゃね?つーかあたし創造主だからスイジュのことは全部知ってるぜ?」


 おぉ凛子。良いこと言う時もたまにはあるじゃん。という言葉を飲み込んで、わたしは話し合う凛子とさやかから視線を外して、再び颯と向き合う。


「で?教えてくれる颯?」


 わたしがそう言うと颯は顔をしかめた後嫌な笑みを浮かべる。ニヤリと笑うと真っ白の歯が光るが爽やかではない。決して。


「そうだな……。ロリっ子っぽく、エロゲっぽく言ってみろ。台詞を」

「何々、颯ってそういう趣味あったの⁉みなさーんここに幼女趣味の男ふむっ――!」

「俺は幼女趣味じゃねぇ。ただのギャルゲ好きだ」

「……今から天乃雨に帰って今すぐにファンクラブ会員の皆様にそれを報告してきなさい榎賀颯。イメージ大崩壊のいいネタになる」

「ふざけんな」


 爆弾発言を言いかけたわたしの口に突然颯の手が当たる。ほんのりと暖かくて、ちょっぴり手汗があって。やはり話したこともないわたしとこんなに軽いやり取りをするのは緊張するものなのだろう。それも女寄るなボーイには。わたしはまったくしないけれども。


「えーっと?何て言えば言いわけ?」

「え、マジで言ってくれんのかよ?」


 何驚いてんのよ自分で言っといてと頭を軽く小突くと、颯は目を丸くしながら頭を擦った。


「どうしたの」

「いや、防御力もこのパーティーの中では一番多い俺を小突いて痛みを与えるなんてすげぇな、と……って!」

「馬鹿じゃないのナルシスト」

「言ってほしい台詞と真逆なんだよ!いや、逆にこういう後輩っていう設定のギャルゲもあったな」

「おい。台詞を言え。言ってやっから」


 レイカに行った理由を聞くための辱め、か。くだらない。でもこっちが聞きたいんだからやってやろうじゃないか。颯とは結構話していてポンポン話が弾んで楽だ。


「そうだな……『お兄ちゃん、水樹に教えてくれないの?泣いちゃうよ?』『お姉さんに教えたくないの?仕方ないわねぇ、無理矢理にでも教えさせちゃうわよぉ?』『ご主人様、わたくしにお教えくださいませ。知りたく存じますわ』」

「ふざけんな……!」

「どれか選べとは言わねぇ」

「?」

「全部言え」

「こいつぅーっ!」


 新たな発見。学校一のイケメンモテ男は、ギャルゲオタクで幼女趣味、ロリっ子大好きの大変態でした。


皆様にお聞きしたいのですが、第一部と第二部、どちらがお好きですか?

コメ欄に書いて下さると嬉しいです。

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