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何故か王様になっちゃった件について。  作者: 白玉 ショコラ
第二章
50/102

おっさん共とカツ

「んっ!」

「よいっ」

「はっ!」


 さやかが薙ぎ払った魔物の魂が消滅した瞬間、切っ先をよけるように迂回した凛子の突き刺しがもう一体を襲う。残った一体の体をわたしの無詠唱魔法が通貫する。


 一瞬にして浄化した三体の黒い魔物の死骸を見て、三人でハイタッチする。


凛子の攻撃は、指を前に出してそこから力が生まれるものだから、突き刺しと呼んでいる。まるで突っつくように倒していくのだ。さやかの剣となびく金髪、そしてうねるしなやかな体が魔物を走りながら追って切り裂く様子も神秘的と言えるほど魅力的。


まぁ、わたし以外の全員鮮やかである。何故か?わたしは、突っ立って両手を前に出して「はっ!」。終わり。


魔物の苦手な属性魔法なんて知らないから、適当に弱めの魔法のイメージをすればいつの間にか消えている感じ。あっけないといえばそうなる。でも、やっぱり命を奪っていると思うと胸がグッと苦しくなる。凛赤たちはこうならなかったのだろうか?意味不明なモノだ、アイツらは。


「いやー、ちょろいねー。そうだ水樹。残る魔物の数が一体になったし、ここレイカだし、行っちゃう?」


 凛子は魔物の位置や残る数も把握できている。それに、空間移動の魔法も使えるため、出発してからおよそ三時間で、世の中のほとんどの魔物を倒し終わった。なんだか、ナイテクストとレルロッサムとやっていた苦労が無駄に思えて少し悲しい。それに、強い魔物は0、皆無だった。


「行くってどこに」

「颯だったか?ソイツんとこ」

「あー……」

「良いんじゃない?麗しき姫騎士とオムニポテントナイト&ソールドレディが行くんだもん、颯さんも絶対拒否しないはずだよ」


 魔物が一体だけ残っているという状況は微妙過ぎてイライラするが、まぁ、会いに行ってもいいだろう。


「明日ならね」

「明日?何でだよ?」

「だって、今日はもう遅いし……えっと、五時くらいだから、そろそろ宿、取っといた方が良くない?」


 体感時間や夕暮れの時間ではなく、向こうの時間帯だと五時、という例えを使って言えるので、とても楽だ。二人とも納得したように宿を探し始めた。


「あ、あそこ、水樹ちゃん、凛子ちゃん。空いてるみたいだよ」

「そうだね。じゃ、そこにしよ」


 わたしは代表として硬貨を何枚か握って宿主の前に差し出す。


「一部屋三人、料理付きでよろしく。あと、風呂も」

「はいよっと」


 色があせた古びている服を着た女性がわたしたちを部屋まで連れてきてくれる。


「あれっ、もしかして最近有名な英雄さん達かい?」

「え?」

「ほら、麗しき姫騎士とオムニポテントナイト&ソールドレディ、だったかい?違うかねぇ」

「あー……ん、そうですよ」


 これはまた凄い扱いを受けることになるなと思いながらわたしが頷くと、女性は困ったように笑った。


「いやー、最近は凄い人がたくさん来るねぇ。昨日もまたあんたたちとは別の英雄さん達が来て、さっき行っちまったんだけど。会えば話も弾んだだろうにね。アタシたち平民に崇められてお互い大変だろうしね」

「そう、なんですか。英雄のうわさなんて聞いたことなかったな……。あ、そういえば」


 ここで颯の居場所を聞けないかと思って、女性に尋ねてみる。


「あぁ、ハヤトちゃん?それがねぇ……最近、いなくなっちまってねぇ。ハヤトちゃんに用でもあったのかい?」

「そうなんです。どこにいったか、知って……ないですよね」

「すまないけど、知らないねぇ。その代わり、お金に色付けるよ」

「へ?お金?あぁ、大丈夫ですよ。お釣りを増やしてもらうなんて卑怯な事、できません」

「そうかい?なら、食事の時間になったらまた来るからね」


 颯はレイカにいないらしい。このままいくと、大体鬼ごっこになってしまうはずだ。本でもゲームでもだいたいそう言うものなのだ。でもわたしは……。


「探してやろうじゃないの!颯ぉ!」

「ぅあっ⁉何だよぉ水樹!ビクるだろ!」

「あーごめんごめん。颯に怒ってた。何で行っちゃうかな」


 わたしは頭を掻きながらベッドに横たわった。今回の宿は扱いが「神様レベル」でないため、楽だ。気安くふるまえる。こういうのがいいんだよ。


「どうしよう。えっとさ。魔物は後回しで、颯の追っかけしたいんだけど」

「言い方がヤバい人みたいだよ、水樹ちゃん」

「追っかけるも何も行き先知らねぇだろ」


 二人からツッコミされるなんて珍しい。まぁ、とにかく世界中を巡ればいい。颯の情報を集めて回ればいい。とにかく最初は、宿の宿泊者に聞き込みだ。


「インタビューだ、二人とも。わたしはこの階、凛子は一階、さやかは三階をお願い」

「ハァ……颯のファンかよ」

「変なこと、しないでね?」


 二人のなかでわたしは、何だかヤバい奴になってきているみたいだ。別に、一般人のはず。ちょっと、姿を眩ませた颯に怒りを感じているだけで。


「すみません、颯って奴の事、知りません?」

「ハヤトのことか?ははっ、そりゃ知らなかったらおかしいだろ」


 隣の部屋に泊まっていた男四人組に聞いたら、当たり前のように返事が帰って来た。


「有名、なのか?」


 思わず口調が砕けたが、男どもは気にせず話してくれる。


「嬢ちゃん、知らねぇのかよ、逆に?ハヤトは異世界人で、今は世界各国を放浪中。確か今はヨウカリだったか?そこにいるはずだぜ」

「年齢は今、21。元々レイカの人間だ。魔物狩りが得意でな、愛想は悪いがいっつも微笑を浮かべていてだな、女性共には密かに人気があったらしいぜ」

「俺らも何度も会ったぜ。仲間は四人。男女比は3:1の割合だな。アイツはレイカの魔物もすぐ倒してくれてな、麗しき姫騎士とオムニポテントナイト&ソールドレディ様方がいらっしゃる前に終わっちまった」


 だからレイカの魔物が少なかったのか、とわたしは今納得した。だからレイカの城に呼ばれたときは割とゆっくりできたのだ。


「ハヤトはまぁいわばレイカの偉人って奴だぜ。活躍しかしてねぇ奴だからな。姫騎士様方と肩を並べるほどの英雄なんじゃねぇのか?いやーっ、それよりも俺ぁ姫騎士様に会いたいぜ!」

「絶対お麗しい見た目をされてるぜ!なな、嬢ちゃん、知らねぇ?姫騎士様の居場所!」

「え?あー、いやー、ねぇ。うん」

「うん⁉今、うんっつったか⁈肯定だな!どこにいらっしゃる!」

「俺ぁソールドレディ様も捨てがたいと思うぜ」

「あのねー、ごめん。姫騎士ってのはわたし」


 わたしがサラッと爆弾発言をすると、男どもは一瞬黙った後、ブッハッハと笑い始めた。


「嬢ちゃん、冗談へったくそだな!」

「信じてよ。じゃあねぇ、姫騎士だって納得させてあげる。何でも言って。やってみせるから」


 何だかちょっぴりイラっと来たので、わたしは挑発君に上から目線で言ってみる。もちろん、物理的にだ。わたしは立っているからしょうがない。


「そうだなー、じゃこのベッドとカーペットを同時に新品同様に直して見せろ!」

「おーいいなそれ。出来るか?」

「それだけでいいの?じゃ、詠唱あり?なし?」

「あのなー、強がりは駄目だぜ嬢ちゃん。無詠唱なんて出来ねぇんだよ、子どもにゃあな」

「もう子供じゃないし、無詠唱も出来るぞ」


 わたしは軽く目を伏せて思い浮かべる。ベッドとカーペットが、一瞬でパッと、みるみるうちにとかじゃなくて時間を無視したような感じで直るところを。特に、時間を無視ってところが大切。ちょーっとかなりイライラしてきたから、渾身の一撃というやつで。


「たっ!」

「……偉大なる麗しき姫騎士様、私共が僕となりまする!」

「やめろーっ!!ぎゃーっ服を引っ張るな破れても直せるだろとか言うな!MPを考えろMPを!えむぴーなんてねぇよって?こっちではあるの!ないけど!あーストップ!すとっぷって何だ?とまれだよとまれ!なっ、いだいいだいいだいよおっさん!太腿は肉がムチムチで気持ち良いだろうけどさ、とか言った瞬間に全員太腿に手を動かすのはどうかと思うぞ⁉なぁ⁉待て待て待ておっさん共よ、もう四人で乳繰り合ってろよーっ!」


 わたしは光の魔法で彼らの目の前を光でいっぱいにすると、隙を見て逃げ出した。もうわたしの正体が分かったらわたしの体にまとわりついて「着いて行く」とかやめてほしい。マジで。







 それからも颯の情報集めをして全員で話し合ったが、やはり一番大きい情報はあのおっさんたちだった。


「まとめると、颯は仲間を四人、男は3人に女は1人、連れてヨウカリにいる。年齢は颯が21、デウムとイズフェが22、ハスートが23でマトイーンが20。つまり颯は一つ年上。レイカの人間であり英雄扱いされていて、不愛想人間。でも、いつも微笑を浮かべている。男女関係なく話す……あ、話さない。そう、男女問わず話さない。でも、強い。崇められる存在で、わたしたちと同じくらい知名度があるらしい。男の仲間の名前はデウムとイズフェ、タスート。女の名前はマトイーン。男は四人とも結構イケメン。女も美人ってところかな」


 わたしが簡単にまとめると、二人とも拍手をしながらベッドに横たわった。どうやらこの階が一番泊まっていた人が少なかったらしくて、帰って来たのもわたしが一番最初で、疲労もわたしが一番少なかった。なのに、情報はわたしが一番ゲットした。ふはははー。


「明日はヨウカリに行ってみよう。凛子、ヨウカリの首都には飛べる?」

「飛べる。だから、飯を食わせろ」


 喘ぎながら手を伸ばす凛子を引っ張り起こして、わたしたちは食堂に向かった。







「うっひゃー何このカツ⁉ちょいちょい、上手すぎじゃねぇーかよぉ!」

「あーっ凛子、興奮しすぎ。周りに迷惑かけてるから声のボリューム下げなさい。さやか、取って来ていいよ」


 先にわたしと凛子が食事を取りに行っていたため、荷物番をしてくれていたさやかに取ってくるように言う。さやかは嬉しそうに駆け出して行って、凛子と同じカツを五個もとってきた。


「さやかも大食いだねぇ……」

「へへっ、だって美味しそうなんだもん」


 さやかの胃袋は日に日に大きくなっている。同時に、可愛さも日に日にアップだ。頬を膨らませながらリスのように食べているのを見ると癒されるが、その後隣に座る凛子のライオン食いを見ると、軽く失望する。そろそろ皿を食べそうな勢いだ。


「じゃあ、わたしも食べるかな……」


 まぁ、わたしのとってきたカツ二個は凛子とさやかに一個ずつ持って行かれたんだけど。







「あのさ、あたし、思うんだけど」

「何?」


 食事と入浴を終えて部屋に戻ってくると、凛子が唐突に話し始めた。


「水樹、女王から渡された魔剣で、アイツを倒したよな」

「そうだけど。あの魔剣、しっくり手に馴染んで使いやすかったから、大ダメージを与えられたんだと思ってたんだけど、何か違う?」


 違くない、と凛子は首を横に振る。ちょっと言ってることの意味がよく分からない。何に対して疑問を持っているのか。不可解なところなんてある?


「女王は魔剣使いだよな。だから、あんな凄い魔剣を操れた。あの魔剣は癖があって使いにくい代わりに、与えるダメージは多い剣だ。それを水樹はさらっと使いこなして見せた。それって――」

「あぁ、分かった」


 どうやらさやかは何かを察したようだ。わたしには理解できないが。悔しい。ものすごく悔しい。女王は癖のある魔剣を操れた。女王はその剣をわたしに渡した。わたしはその剣をさらっと使った……。


「あー!分かった。わたしも、魔剣使いじゃないかって?」

「そうなんだよ!」


 凛子の中で、わたしはもう既に魔剣使い認定されているようだ。でもわたしは魔法少女水樹なのだ。剣は何だか、敵を切った時の手応えが気持ち悪くて慣れない。


「魔剣は使わないからね?」

「じゃあ肩書は麗しき魔剣使いか?」

「姫騎士の方が字面的に綺麗だからそっちな」


 別に魔法でいいじゃん。楽だし。でも、わたしが魔剣使いねぇ……変な感じ。もうどうでもいいや。寝よう。


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