神と分身
何があったんだっけ?そうだ、アイツをついに倒したんだ。とどめはわたしがさした。剣を振るったら、凄い量の水が飛び出して……滝なんて代物のレベルじゃなかったな。洪水?みたいな。水に溺れなくて助かった……ん?待て、待て待て待て?ここって――
「ぶぉごわっ」
「水樹!ったく、自分が出した水で溺れてんじゃねぇよ!女王、力を貸せ」
「分かっていますわ」
わたしは、凛子と女王に抱えられて水の中から脱出した。地面が下に見えると思ったら、風魔法を使って浮いているらしい。
「げほっごほっ」
「むせたか。あーもう、お騒がせ者!全力でやって自爆とか、情けなさすぎだからな⁉どんなゲームでも本でも、そういうラストは歓迎されねぇの!癒してやるから。女王、心梨とあと一人、こっちは持てる。他は全部頼めるか?」
「もちろんです」
「スイジュ!」
凛子が叫ぶ。と、女王がわたしを凛子に託して舞い戻っていった。かと思うとすぐに皆を抱えて戻ってくる。いつの間にか凛子が癒してくれていたようで、咳も痛みもなかった。
「女王、よく持てますね」
「このくらいならまだ大丈夫です。クィツィレアとサティラリンを頼みます」
「おぅ」
ぐったりとしながらむせているサティが、凛子の右に、心梨が左に抱えられる。わたしは、凛子の左腕から脱出しながら「サティ」と呼びかけた。足元から風魔法を吹かせて飛ぶ。
「はいっ!あ、あれ、レムーテリン様?」
「ふふっ、さっきも思ったけど、レムーテリン様なんて呼ばれるのは二年ぶりだ。いつもリーミルフィだったからなぁ」
「そう、ですね。……あっ、ご無事でしたか⁉けほっ」
「ははっ、遅いよサティ。ついでみたいじゃないか。もちろん、無事だ。サティの方が辛そうじゃないか。凛子、軽く癒しをしても良いよな?」
「良いぜ。まだ疲れてないのか?あんだけの魔法をうって」
「申し訳ないけど、疲労のひの字もないよ。サティ、貸して」
ほい、と凛子が右腕からサティを離してくれる。
「お、女王がこの幻想空間から抜け出すみたいだ。あたしたちも行くぞ、水樹」
「了解」
幻想空間、ね。きっとアイツが場所を作り上げるとか言ってたから、それだろう。抜け出すってどうやって……女王、そこはもうちょっとファンタジーに行かない?力ずくで殴って破壊とか、現実味ありすぎるよ。
そう思いながらわたしは、右手でサティを持って左手をサティの体の上にかざす。
「有難うございます、レム――リーミルフィ様」
「どっちでもいいよ。レルロッサムとナイテクスト――王様にはいつも、そう呼んでもらってた」
「麗しき姫騎士にしますか?」
「恥ずかしいって」
クスリと笑いながらわたしはサティを離す。サティも、足元から風魔法を吹かせて浮くようだ。
「水樹、サティ。あそこが女王の作った穴だ。あそこから出るぞ。この空間は永遠にお前の作った水で溢れかえるんだぞ水樹。少しは罪悪感持てよな!」
そう言って凛子は心梨を抱えたまま空間を抜け出て行った。残っているのはわたしとサティだけだ。腰に常備してある鞘には、いつの間にかいつも使う短剣ではなく魔剣が刺さっていた。
「行こう、サティ」
「はい」
今わたしたちがいるのは、琳恵という国の女王の別荘だ。琳恵国の女王と夢楽爽の女王が知り合いらしい。女王が頼み込んで、貸してくれたようだ。
「えっと……まずは、久しぶり、水樹ちゃん」
心梨が、大きな丸テーブルの向かい側に座って、そう言った。右には凛子、左にはサティがいる。
「久しぶり、心梨。ずっと会いたかった」
「うん、わたしも。とりあえず、状況説明をしなくちゃだよね。質問は後から受け付けるから、まずはわたしの話を聞いてね」
心梨はゆっくりと話し出した。その内容をごく短く簡単にまとめると、このようなものである。
夢楽爽では、わたしが教えたピッツァやパフェ、マンガや羽根ペンなどが流行した。特産品となり、貿易も盛んになり、ついに二年間で三位上がったそうだ。リスタート・騎士特訓も順調で、騎士でなくとも女性や子供なども将来のためと剣を振るう大きなジムへと変化していったらしい。
心梨も、凛赤と一緒にジムをよく利用して、あの強さへたどり着いたのだそうだ。最も、凛赤は元々あの強さだったと思われる。チートだからね。一番弱いレベルで心梨とやり合っていたのではないだろうか。
一気に発展していく夢楽爽を、一位である興利央は睨んでいた。ずっと前から夢楽爽のことは気に食わなかったようで、更にそこから発展していく様を見ていた興利央の王は、麗しき姫騎士&オムニポテントナイトとソールドレディの話を耳にしたそうだ。この時の興利央の王は活躍や発展という言葉に非常に敏感で、わたしたちが活躍しているのを見ると無性に腹が立ったらしい。そして、わたしたちを城に招き入れ、食事に催眠薬を入れ、後に殺そうとしたようだ。
しかし、夢楽爽で凛赤がその話を聞いた。彼女は裏組織と手を組んでいて、興利央の王がわたしたちを憎んでいることを知るとすぐさまその案に乗り、すぐに裏切って自分がわたしたちを攫い、心梨共々殺そうとしたのだそうだ。この辺りから女王と凛子の推測だが、凛赤は、わたしと心梨を憎み、恨んでいた。
理由は、自分が一番ではなく、わたしたちが楽しそうに自分より上の位で日々を過ごしていたから。それならば興利央の人々の方がずっといい暮らしをしていると思う。そちらを狙えばいいのに凛赤は身近にいるわたしたちをターゲットに選んだ。身近にいる人を欺いて怒りに染まる様子を見るのが好き、という本心があったのではないかと女王は言った。
ロックオンされたことを知らないわたしたちは呑気に過ごしていた。わたしの場合は、睡眠薬で寝てしまった後にダウヴェたちに攫われ、凛赤の家の離れに連れて行かれ、心梨は自室でのんびり本を読んでいると、ミサクーリに攫われたらしい。
興利央の王は夢楽爽の王と女王を気に入っていないため、権力を盾にして夢楽爽を八位にしていたそうだが、夢楽爽の発展を知っている他の六国が夢楽爽の格上げを望んだため、(六国の皆様、かなり優しいと思う)五位という立場に落ち着いたようだ。
女王は実は元々世界を束ねる、興利央の王より偉い本物の王族の子で、十歳の誕生日に王族の証である魔剣を両親から渡されたそうだ。だが、例え王族でも魔剣を上手く操るのは大変だといわれている。女王はそれをすらっと覚えて当たり前のように使いこなした。「魔剣使い」という二つ名もついたそうで。
そして、夢楽爽の王に求婚され、女王自身もヴィートレートを好いていたため承諾し、身分を下げたそうだ。決断力が凄いと思う。その当時から女王は興利央の貴族から強さと美貌を妬ましく思われていたそうで、女王も王族とはいえ興利央の女性貴族に見張られているような中から逃げ出せて、しかもヴィートレートの側に行けるならこんなに良いことは無いとすぐに承諾したらしい。
ちなみに、興利央以外の女性貴族は、穏音様に敵うはずなどないと思い、敵対視など考えない状況だったそうだ。女王ってホント、凄い。
だが、そこから女王が自由で楽しい日々を送りだしたことで興利央の貴族はもっと彼女を妬むようになり、ヴィートレートも妬まれるようになってしまった。そんなときにわたしが来て……ここからは省く。だから女王はあんなに強かったのだ。ちなみに凛赤は首と体が切断され、水を真っ赤に染めながらぷかぷか浮いていたらしい。人殺し、してしまった。
そしてここからが、特に重要な部分となる。
先に結論から言えば……凛子はこの世界の長であり神。心梨はさやかの分身。という話である。




