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何故か王様になっちゃった件について。  作者: 白玉 ショコラ
第二章
37/102

麗しき姫騎士

第二部開幕です。

 それから、二年くらいが経った。確か、あのときは17歳だったから、19歳になるのか。後一年でもう20歳になるのかもしれない。もう時間感覚なんてないから、どれくらいの月日がたったのか分からない。わたしたちは今、コウリオウィートの洞窟に潜む魔物を倒しているところだ。


「終わったよ!」

「終了したぞ!」

「こちらもだ!」


 わたしはもう、王には敬語を使っていない。二か月間の間で、わたしは見事、麗しき姫騎士になった。どこに行っても称賛を浴びる。素性はばらしていないから、想像に任せて足早に立ち去る。お宿の料理は毎回豪華なものが出てくる。差別はやめてよと思うけれど、姫騎士として上品に食べる。ちなみに、夢楽爽の王は、女王が代役で務めている。王様は、わたしと色々な国を放浪して情報を自ら集めている、という設定にしてある。ギリギリ、嘘ではない。この王様が現役復帰するのはいつになるか、誰にもわからない。


 麗しき姫騎士の身分になったわたしは、もう王様に敬語を使う必要が無くなった。だから今では、メンバーとして活動している。仲間は、わたしを含めて三人だ。そう、もう一人はレルロッサム。わたしが見た中で、王様の次に武術が得意みたいだ。一つ一つの技が綺麗で整って、ミリ単位で動いている。ふわりとなびく長い髪が素敵な大人の女性だ。レルロッサムは、カチューシャとシュシュを外している。わたしがこの旅の話をしたら、「お供に着いて行きたく存じます!」と手を挙げて立候補してくれたため、ジムで力を見てみると、ものすごかった。ジムはかなり強度な石でできているようだ。あれで壊れないなんて、わたしは正直ちょっと後ずさりした。何で先生なんだろう、もったいない、では済まないレベルで凄い。


 レルロッサムも、敬語を使わない。わたしも王も、使わない。自然な仲間だ。とても楽しいし、わたしは改めて、ゲームみたいな設定の世界に迷い込んだ主人公の、アニメ化した本に出合って良かったと思った。あの本はわたしの中で一位を争うほどの好きな本だ。


「今回も早いな、麗しき姫騎士?」

「その呼び方はやめてよね、ナイテクスト」

「でも、自分はあっていると思うぞ、リーミルフィ」


 レルロッサム以外のわたしたち二人は今、偽名を使っている。わたしはリーミルフィ、王様はナイテクストだ。王様は自分で「ナイテクストにするぞ!」とか何とか言っていたが、わたしは二人に決めてもらった。なんだかんだ言って王様も複名を授ける時のセンスは良いし、レルロッサムも先生をやってるから綺麗な響きとかいい意味の言葉になっているかとか、そういうところも考えてくれるし、女性だから、わたしが好きそうな偽名を選んでくれた。実際、気に入っている。正直、レムーテリンよりリーミルフィの方が好きだ。


周りにバレたら大変なことになるからね。


側近たちもクィツィレアも凛赤も、皆置いてきてしまった。最近は夢楽爽に行っていないから、様子が気になるところだ。


 でも、ピッツァもマンガも教えてから旅立って来ているから、大変なことにはなっていないはず。順調に順位もあげているそうだ。もちろん、スイジュの情報も集めている。スイジュと水樹、感じが一緒だから何だか運命を感じてしまうけれど、特筆するような情報がない。心梨には申し訳ないと思っている。


「今日はもう暮れた。そろそろ宿をとるか」

「そうだね、ほらナイテクスト、早く行ってよ」


 わたしはナイテクストをせかしながら歩いて行く。たまに出てくる魔物は、ナイテクストとレルロッサムが薙ぎ払ってくれて、わたしが仕留めるのは横から襲撃してきた魔物だけだ。最近は、詠唱なしでも瞬時に攻撃できるようになっていて、とても便利だ。


 わたしは魔法、ナイテクストは色々な武器、レルロッサムは主に剣で戦っている。たまに弓を出したりしているけれど。わたしは逆に魔法しか出来ないからね。その代わり威力は半端ないらしいけど。


 最近は強めの魔物がいるところで戦っているから、少し時間がかかるようになってきた。前は、レルロッサムが剣で触れば終わっちゃうくらいだったから。この世界にはLvが存在しないらしいけれど、強い魔物と弱い魔物は区別できる。名前?知らない知らない。二人とも詠唱なしで唱えられるし、わたしたちはもの凄く強い冒険者だ。


世間で呼ばれている名前は、「麗しき姫騎士とオムニポテントナイト&ソールドレディ」だ。麗しき姫騎士がわたし、オムニポテントナイトがナイテクスト、ソールドレディがもちろんレルロッサムだ。

別にわたし姫じゃないんだけどなー。姫は心梨ちゃんなんだけどなー。


「オムニポテントナイト、今日はどこの宿にする気?」

「ソールドレディが決めろ」

「なら麗しき姫騎士様!」

「嫌だよ、オムレツポテト騎士が決めて」

「すぐにそれを言うのをやめろ!」


 オムニポテントはオムレツポテトに似ているから、わたしはナイテクストを遊んで笑っている。ムッとしながら結局は笑うナイテクストも、クスクスと愉快そうに顔を横にして口で手を隠して楽しむレルロッサムも、わたしは大好きだ。仲間だからね。


「ならあそこだ」

「美味しいご飯だと良いね、レルロッサム?」

「リーミルフィは宿の晩餐にしか興味がないのか?」


 レルロッサムは男みたいな言葉を使うため、字面だとナイテクストとあまり見分けがつかないが、一応上品な言葉を使っている。


「そうだね、わたし、グルメになって来たから」


 キャハハ、と笑うと、つられて笑う。ナイテクストは呆れて肩をすくめながら、宿に歩いて行く。と、わたしの肩がグイッと掴まれた。


あー、ハイハイ。どうせ「有り金と金になるものを全部出せ!」でしょ?もうそういうの良いんだよね。


 カツアゲは多い。始まった途端、不穏な空気に包まれるが、わたしたちはもう慣れてしまった。カツアゲする奴らも、こんなに有名なわたしたちに食って掛かって金目のものを出させるのは一か八かでやっているはずだ。一発で囚われることも可能性の一つとして見ているのは間違いないはずだ。


 ふるっと振り向くと、いかにもな奴らが五人ほど集まって、やってくる。いちいち面倒だな。


「有り金と金目のモンを全部出しやがれ!」


 想像と酷似した答えが返ってくる。わたしはため息を着きながらカツアゲに向かって歩いて行く。


「何だ!」

「お金は大切だからね、出せないよ。そんなみっともないことをしている君たちは本当に可哀そうな人間だよね、蔑まれるよ」

「ふざけるなァっ!」


 カツアゲのリーダーが殴りかかってくる。野次馬が息を飲んだのが分かった。見てるなら助けてほしいよね。ま、来たら危ないから来なくていいんだけど。


 わたしは、リーダーの拳を片手で受け止めて、軽くホイッと投げる。それだけでリーダーはかなり遠くまで吹っ飛んだ。筋肉も腕力も足腰も鍛え上げているから、あれくらいならグミを投げるくらいだよ。弱いなぁ、面倒だし、厄介事しか運ばないよね。疫病神かって感じ!時間を取られて終わっちゃう。もう、邪魔だよねぇ。


「いちいち突っかかってくるの、やめてくれないかな?わたしたちにも事情ってものがあるんだよね。もうちょっと真っ当な職に就いた方がお金も食べ物も手に入ると思うよ?じゃあね」


 わたしがひらりと手を振って歩き出すと、カツアゲのリーダーではない、子分に腕を掴まれた。


「何?」


 冷ややかな目で見てやると、相手はびくりとしたが、すぐにいつものニヤニヤ笑いに戻って頭の上に拳骨を落としてくる。


「っ!」


 叫び声をあげたのは、わたしではない、子分だ。わたしは、人差し指を頭の上にあげて、拳を受け止めた。今度は投げずに、振り払う。カツアゲたちの前に仁王立ちして、ニヤリと笑みを浮かべて、立ち上がったリーダーを指差す。


「次わたしたちに手を出したら、死ぬよ!」


 詠唱しなくても魔法が出せるから、いつだって殺そうと思えば殺せる。でも、人殺しは嫌だから、そんなことはしないつもりだ。大体の場合こう言えば、終わってくれる。


 だが、今回のカツアゲは厄介だった。


「ほォ、やるじゃねぇか、麗しき姫騎士さんよォ!さっきは投げられたが、今度こそは岩になってやらァ!」


残念だけど、こないだ岩を三つ持って魔物をやっつけてみよう!ってやったら勝てたよ。岩はとりあえず十個くらい持てちゃうからなぁ。あの岩三つは軽かった。


「はぁ……申し訳ないけど、ナイテクスト、レルロッサム、軽く捕らえよう。人気のない所までとりあえず逃げる感じで迷い込んで、そこで縛り上げれば大丈夫だと思うんだよね」

「分かってるっての」

「やるか」


 コクリと頷いて、わたしたちは踵を返し人気のない路地へ向かって一直線に駆け出した。


「逃げるのか?あぁん⁉」


 凄むような声が幼稚に聞こえる。逃げていない、これは貴方たちを反省させる為のものだからね!



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