エレメンタルビューティー&ピースヒール
大理石のように透明な澄んだ色をしている床はピカピカと磨かれて、天井は高く、縦にも横にも長い。最高のジムだ。器具はないが、魔術やら剣やらを使って何かをやるのだろう。わたし?貴族らしく生きますわよおほほほほ。
「なかなかすごいではないか」
「キラキラ光っていますわ!」
「丁寧に磨かれていますわね」
「魔術も問題なくできそうですわ」
王様たちも納得のようだ。側近たちを見回してみると、満足そうに頷いている方三名、何故戦いを好むのか分からないという顔をしている方一名。わたしも混ぜれば二名。
「レムーテリン!」
「ふぁいっ!何でございましょうかっ!」
ボーッとしていたため、王様に呼ばれて間抜けな返事をしてしまった。全員が苦笑している。王様はニヤリと笑ってわたしを指さした。
「其方と力比べがしたい。何でも良い、創作魔法を私に放て!」
「はぁっ⁉ソーサクマホー⁉無理無理無理です、魔法なんて作れません!」
無茶しやがってこの王ちゃまが!なんでわたしが魔法を作って貴方にぶつけなければならないんですか!怪我しても知りませんよ⁉っていうかまずわたしの魔法を受けても「当たったか?」って言われる未来しか浮かびませんけど⁉
「頼む。お願いだ――」
「分かりました!分かりましたから、ね⁉」
やめてよ!急に土下座とかさ、こっちが居た堪れないんだって!空気読めないなぁ!だから最下位なんじゃないの⁉もう。って、了承しちゃったよわたし⁉いや、創作魔法とかホント、知らないからね⁉わたし!
「では水関係の魔法で頼むぞ!」
「は、はぁ?分かりましたけど」
じゃあもうやるっきゃない。昔戦闘ゲームをプレイしている主人公視点の本で読んだ祝詞でも唱えておけば、ぶっぱなせるんじゃない?魔法!もう知らない、知らないから!異世界人だからすごいのが来ると思ったとか、一切受け付けないからね!
わたしは王様の正面に立って距離を置き、目の前にバッと両手を出して、その本の綺麗なアニメの動きを思い出して再現していく。アニメ化したんだ、その本。すごいでしょ⁉いや、違うよ。そして、詠唱だ。
『この地に生ける 全ての生命よ 今我に力を貸し 今我に希望を与えよ 想うは水 感じるは流れ 命の輝きと共に 緩やかな弧線を描け』
「エレメンタルビューティー!」
エメレンタルビューティーとは何なのか、わたしにもよく分からない。ゲームの製作者に聞いてください。自然の美しさ?普通土とか風じゃない?水なんだなー、これが。でも、成功するわけないじゃんね。王様も見当違いな真似をするよ、自分のお嫁さんにお願いすればいいのに。ね?
わたしは、しっかり裏切られてしまった。
わたしの両手に丸い水が現れ、ぐるぐると回りだす。ぼこぼこと水の音が聞こえて、どんどん大きくなる。わたしは驚きすぎて、たった一秒前後のことが一分くらいに感じられた。だって、こんなに遅い攻撃考えられない。ブワッと表れてブワッと攻撃するのだ、普通は。
普通はね!わたし、普通じゃないみたいなんだよ、どうやら!だって、本の言葉を言ったら水が出てきちゃったよ!
両手から、トルネード状になった水が噴き出して、王に向かって飛んでいく。王が危ない!
「王様!」
「案ずるな」
王が、妙に落ち着いた声で言った。わたしの一分は一秒だ。だが、冷静な王の声はしっかりと耳に届いた。今まで聞いたことのないような、真面目な声だ。全てが、秒単位で動いている。いや、今時間は存在しない。水が、殺意を放ちながら王に飛ぶ。王の周りだけ、時間が動いていた。
「プロミネンスシールド」
王の目の前に、赤い炎のような盾が現れた。紅炎だ。プロミネンス。紅炎盾なのだ、あれは。炎の盾なのに、水が勝ることなく、攻撃は終わった。
「王様……?」
ふっと水が消えた瞬間、王がへたり込んだ。盾もシュッと消滅する。
「王様!大丈夫ですか⁉申し訳ございませんでした、わたくしの創作魔法のせいで!」
「いや、問題はない。其方は、申し分なく強い。フッ、王より強いのか、其方は?私は防御力に自信があるためあの攻撃は防げたが、あれ以上レベルが高くなると――大変かもしれぬ。寿命は確実に縮んだぞ、レムーテリン」
いやーっ!王様の寿命、縮めちゃったよ!わたし。どうしよ!
王様は眉根を寄せてニヤッと笑った。
そろそろ死にそうな笑い方なんですけど⁉
そっと王様に手を当てて、また本で見たような祝詞を唱えてみる。
主人公が迷い込んだゲームの攻撃で王様が弱ってるなら、ゲームの回復で、王様も治るはず!
『この地に生ける 全ての生命よ 今我に力を貸し 今我に希望を与えよ 想うは緑 感じるは癒し 命の輝きと共に 穏やかな祈りを捧げ』
「ピースヒール!」
平和な癒し、これできっと、王様も大丈夫!まず死んでないから大丈夫!わたしの予想は大当たりで、王様は完全復活。右腕をあげながらわたしを見下ろしてくる。
「助かったぞ、レムーテリン!やるな、其方。わたしと互角だぞ」
「わたくしにはこれより高度な魔法も高度な癒しもありますわ」
あのエレメンタルビューティーは最初に出てくる魔法だから、「雑魚中の雑魚」なのだ。ピースヒールの上も、まだまだある。そう簡単に負けはしない。
いやー、でもなー、ここから「其方、冒険者になれ!」とか言われそうで怖いんだよなー。嫌だよ?生き物を殺すのは無理無理。
「そうなのか……まだ上の技を持っているのか」
ふと見ると、王が真面目な顔で考え込んでいる。
「どうなさいました?」
「実はな――」




