屁理屈
魔法陣がある部屋は、薄紫色に輝いていた。王、女王、心梨、わたし、凛赤の順に魔法陣の中に入る。椅子の並び順だから、誰も文句は言わない。
「では、参る。リスタート・騎士特訓ジムへ!」
名前長っ⁉
いつもの浮遊感の後、めまいがやって来て、ふっと終わる。左右を見れば、クィツィレアも凛赤もうんざりしたような顔で前を見つめていた。何回か経験したことがあるようだが、やはり魔法陣に乗るのは嫌なのだろう。
この吐き気とか頭痛とか目まいとかがなかったら「ファンタジー!」で済ませられるんだけどな。
「後ろを見ろ。ジムがあるぞ」
王様が、やけにはしゃいだ声で話した。くるりと後ろを振り向くと、そこには想像より少し丸くて大きいジムがあった。
「わぁっ、ジムです!」
「これが、ジムと言うものなのですか」
「まぁ……」
「こういうものでしたのね」
女王もクィツィレアも凛赤も驚いているが、わたしとしては見知ったジムに親しみを感じる。これで、側近たちも十分に体力を発散できるはずだ。腕も鈍ってたんだろうなぁ。
「わたくしの側近は沢山いますから、一日に二人ならジムに行っても構いません。順番を決めて、一日交替で行ってらっしゃい。サティもレーランティーナも陽満も戦えますし、リッフェルヴィも貫春も大丈夫です。それで、あと一人男性が残れば、絶対に大丈夫ですわ」
わたしがやる気満々に言うと、他の四人も自分の側近たちに指示を出し始める。わたしは、得意げに笑いながらそろりそろりとジムに近づいて行く。
「なっ、レムーテリン!私が最初に行くのだ!」
突然、歩き出したわたしに王様が慌てた声を出した。身分順に行かないとまずいのか、と思ってわたしが振り向いた瞬間、王様がにやりと笑って走り出した。
「私が最初に行きたいのだーっ!」
「王様!何してるんですか!」
もう、こうなったら仕方ない。王の側近たちより足は遅いかもしれないけど、小中高とクラスの男子への一括は得意だった。王様もやんちゃな男子と同レベル認定だからね!
王の側近より慌てずに、わたしは悠然と歩きだす。後ろの三人はあっけにとられた顔でわたしを見ている。わたしの側近も、王とわたしを見比べておろおろしている。行くよ!
「ヴィートレート様!直ちに止まり、後ろを振り向く!」
ぴたりと王が足を止め、カクカクとわたしたちの方を振り返る。わたしはにっこりと極上のスマイルを返し、すぐに王のところへ歩き出す。
「あら、どうなさったのです?王様?わたくしは、王様をお呼びしただけで、止まって後ろを振り向け、など言ってはおりませんわよ?」
「言っただろう⁉今まさに!だから私は振り向いたのだ!私に命令するとは何事だ、レムーテリン。私は王、ここで一番権力が強いのだぞ⁉」
「何を仰っていらっしゃいます?わたくしは、命令はしておりません。直ちに止まり、後ろを振り向け、とは言っておりませんわ?」
そう、言葉を操れば、こんなことだってできる。わたしはきゅっと王の服の袖を掴んで、上を見上げてヴィートレートを凝視する。
「ですが、直ちに止まり、後ろを振り向く、とは言いましたわ。これは動作を表す言葉であり、王にしろと申したわけではございません」
この王様は屁理屈を言わないと止まらないからね。言っても止まらない時もあるけど。その時の方が多いけど。
「だが――」
「さぁ、参りましょう。皆で中を見るのが楽しみですわ!」
王の言葉を遮るように、わたしはきっぱり言い放つ。
うふふんと本当に楽しそうな声を出して笑えば、王はムッとしながらも目を逸らし、女王は扇で口を隠しながら微笑み、クィツィレアと凛赤は面白そうに笑った。ちなみに、側近全員は、呆れたように肩をすくめていたらしい。




