料理パワー
わたしは、自分の部屋に戻って、うふふーんと鼻歌を歌いながら本を読み始めた。
「良かったですわね、レムーテリン様」
「貴女様のおかげで羽根ペンが流通致しますわ」
「そうね、サティ、レーランティーナ。わたくしも嬉しいわ」
そっと本の紙を撫でる。革張りの表紙に手を滑らせると、軽く指が止まった。見てみると手の汗で少しだけ色が濃くなっている。
「こんな革張りの本も素敵よね。わたくしの世界ではなかなか手に入らなかったのよ」
「そうなのですか?あぁ、その本は、以前レムーテリン様がわたくしに貸して下さった本ですね。絵のデザインや構図、色遣いが非常に綺麗ですよね」
「まぁ、珠蘭もそう思っていて?」
「えぇ。この絵で埋め尽くされた本があれば、わたくしはすぐに買ってしまうと思いますわ」
……ん?絵で埋め尽くされた本?それって、もしか。
「マンガで代用できない?ってか、それまんまマンガじゃない⁉」
「レムーテリン様⁉どうなさいました?」
「あっ、その、新しい特産品を、一つ、思いついて。マンガと、あとそうだ、新しい料理なんかもいかがかしら?」
「マ、『マンガ』?」
わたしは、側に置いてある紙にサラサラと説明と絵を描いていく。
「マンガは、レーランティーナが欲しがっている絵と会話だけでストーリーが進む本よ。いかがでしょう?絶対に本好きには売れると思いませんこと?」
「そうですね、少なくともわたくしは欲しいですわ」
「わたくしもです。絵だけなら、文字を目で追わなくても済みますから」
サティは本が少しばかり苦手のようだった。いいじゃない、わたしが大の本好きにしてみせるよ!ん、マンガ好きになっちゃわない?あ、漫画が好き!から本も読みたい!に意識を変えればいいのね、うんうん、難しそう!
「ならばマンガを出しましょう。この世に本があるんですから、製本工房?とかそのあたりにマンガを説明すればできるわよね。あっ、もちろん、王様やクィツィレア様、凛赤様にもお伝えするわ。あと、新しい料理は何がいいかしら……そうね、パフェとピッツァ!」
「『パフェ』と『ピッツァ』?」
料理パワーすごっ!
料理の話になると、男性側近が一気に集まってきた。前々から耳を傾けていたのだろう。そんなわたしは心で抱える動揺を隠して笑顔でゆっくりと微笑む。
「えぇ、そうですわ。パフェは甘いもので、ピッツァはまぁ、基本的にはしょっぱいですけれど辛いのも甘いのもありますね。酸っぱいのももちろんあります」
「わたくしは『パフェ』が食べたいですわ」
「わたくしも」
「私は『ピッツァ』が」
「私は両方食べたいです」
「皆で両方食べませんか?」
「いいですね!」
いやちょっと側近くんたち、ボクを置き去りにしないでくれないかい?皆で食べよう!いいね!食べ物がないよ!おぉぅ!……という様子が脳裏に浮かぶよ?
「待ってくださいませ、皆。まずはパフェとピッツァが出来ていないわ。両方とも専属工房なんかを立ち上げたいと思っているの。まずは、マンガもパフェもピッツァも、王様にお話してみるわ。王様のお仕事を手伝う日が近いから」
そう言って……
その日が来た。
「待っていた、レムーテリン。早くこちらへ来い」
「失礼致します」
ハァ、精神が試されるよ、こりゃ。自分勝手と言うかなんというか、「あっはっは」な王様に、果たして羽葉澤水樹は付いて行けるのでしょうか!




