ナイフとオブラート
「まずはこれ、メモ帳。あとはデュケントの羽、インクはわたくしのものを持って行きましょう。あとは紙ね。これもわたくしのものを使用しましょうか。そして最後、カッターはある?」
面会の朝、わたしは自分の部屋でレーランティーナと持ち物の確認をしていた。
「カッター……?とは何でしょうか」
「カッターはありませんか。カッターナイフですが……」
「カッターナイフ?それなら、ナイフで代用できませんか?」
「ナイフ……」
真琉亜さんは、鋏は駄目って言ったけど、ナイフは駄目って言ってないから、良いよね、と思いながら、「ナイフを持って行きましょう」と言った。
「失礼ですけれど、ナイフは刃物ですから、向こうでお借り致しましょう。ナイフを持って行ったら絶対に誰かが怪我をします。側近ならまだしも、レムーテリン様が本番前にお怪我をなさったら大変です」
「あら、本番ではなくてよ?予行練習とでも仰って」
レーランティーナは、呆れたようにハァとため息を着く。
だって、わたし二本の羽ペン作んないといけないんだもん。二人に見せる羽根ペンと、王様と王女様に見せるやつ。今日はまだ、準備と肩慣らしの羽根ペンだもんねー!
「羽は良いものと悪いもの、何本か持って行きましょう。お二人にも体験していただきたいのです」
「羽根ペンが流通することになっても、お二人は作られませんよ?」
「でも良いのです!従姉妹とお友達ですもの、やってもらうのです!」
また、ため息を着いた。
レーランティーナは会話一回ごとに着き一回ため息着くのー。
「あのお二人がナイフをお使いになるのですか?」
「わたくしは使いますよ?依怙贔屓ですか、珠蘭?」
「依怙贔屓、珠蘭……!」
依怙贔屓というちょっぴり意地悪な言葉と、珠蘭という懐かしの苦い呼び名(何故苦いのだろう)に、レーランティーナは驚く。
「そうですね、レムーテリン様がお使いになるのなら、お二人がお使いになるのも理解できますわ。大変失礼致しました、レムーテリン様」
「ふふっ、いいえ、構わないわよ、レーランティーナ。貴女の意見にはいつも感謝しているもの。貴女がいなかったらわたくし、どうなっていたか分からないの。わたくしね、貴女を切り捨てなくて本当に良かったって思ってるわ。サティももちろん、いなくなったら駄目。皆、いなくなっては駄目。全員合わせて、わたくしの側近なの」
わたしが得意満面で言うと、レーランティーナは嬉しそうにクスリと笑って、「有難う存じます」と、愛らしく呟いた。レーランティーナも言葉も、愛らしかった。
「さぁ、レムーテリン様?面会に遅れたくなければ、急いで準備しなければなりませんわよ?」
「まぁっ、レーランティーナに怒られちゃった。でも、これで持って行くものは終わりではなくて?わたくしが今心配なのは、王様のお仕事のお手伝いよ。わたくし、どうすれば良いのかしら」
「そうですわね、レムーテリン様の全力を出せば、王はとてもお喜びになりますよ、きっと……」
きっと、と零したレーランティーナの顔が、呆れて沈んだように暗かったので、わたしはそっと尋ねて見る。
「何か、訳あり王様なの?」
「訳ありと言うか……その、最下位の国の王として君臨なさっているという自覚はおありだと思うのですが……その、すぐ、お休みになるのです」
オブラートという包装紙に包まれたプレゼントに結ばれたリボンがほどけつつあるような言葉に、わたしはプハッと噴き出した。
「どっ、どうなさったのです、レムーテリン様!」
「だって……っ、おかしいではありませんかっ……!」
わたしが笑いをかみ殺して唇をムグムグさせていると、レーランティーナもそんなわたしに「もぅ」と苦笑いした。




