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何故か王様になっちゃった件について。  作者: 白玉 ショコラ
第一章
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水樹の怒りと解決

「もう呆れました。何を言い争っているのです。わたくしは惑わされてもいませんし、盾にされてもいません」


 わたしは、眉を吊り上げて二人を静かに見つめる。本当は表情を隠すべきなのも知っている。お嬢様らしく諫めるべきだと言うことも知っている。けれどわたしは、二人に教えたい。正しい事を、綺麗に、しっかりと。


「わたくしを一番よく知っているのはサティラリンではありませんし、一番側で仕えてきたのはレーランティーナではありません。サティラリンの言葉の価値は無くなりませんし、レーランティーナは無知ではありません。何事もよく考えてから発言なさい!その一言で誰かが傷つき、苦しみ、呻き、もがく。それを考えて、貴女方は言葉を発したのですか?!」


 二人とも私を凝視している。今初めて知ったというように、目を見開いて。


「そうは思えません!事実から目を背けているのは二人とも。勝手なことを言っているのは二人とも。それをきちんと認めてから、思いをわたくしにぶつけるのです!お互いにぶつけあってどうします?!何の意味もないではないですか。良く見極め、考え、発言し、行動しなさい!」


 失望した。二人が幼稚園生のようだ。ただただ自分の思いを言って終わる。完全に相手の意見を否定して、それで関係が悪化して、終了。


「意味のない諍いでわたくしを泣かせないで下さいませ……」

「レ、レムーテリン様……」

「王のご息女の従姉妹様は、いつでも笑っているべきですわ」


 冷静に諭すレーランティーナと違い、サティはおどおどと先程の気迫を消し、わたしの側に寄ってくる。


「サティラリン、座りなさい。いつまでも幼子の会話を聞く趣味はないの。まずはレーランティーナ、話して。サティラリンはその後に話して下さる?」


 わたしがそう言うと、レーランティーナは嬉しそうに笑って、また口を開いた。


「レムーテリン様はお甘いのですね。あとでもっとお叱りになるのかしら。怖いわ」


 わたしは、レーランティーナの変化に気が付いた。瞬きをする回数が多くなり、動きにぎこちなさが出てきた。


演技、してる……?


「わたくし、サティラリンを許す気は――」

「レーランティーナ、悪女の演技はやめなさい」

「レムーテリン様」


 驚きと感嘆が入り交ざった顔で、レーランティーナがわたしを見つめる。動き始めた手が、その場で止まっている。


「わたくしは、聞いてから全てを決めます。サティラリンを解任して貴女を残すという選択をする可能性も十分あると言うことを分かって下さる?」

「なっ……レムーテリン様は、サティラリンを重宝なさっていて……」

「訳によっては違うかもしれませんからね。さぁ、演技をやめて、話して?」


 わたしはいつもより強気で話す。そうしないとまた、幼稚園生の会話になってしまう。


「事実ではなく、気持ちを、ね?」







「わたくしは、サティラリンが憎いのです。いつもレムーテリン様に重宝されて、可愛がってもらえて。それがお父様に借金返済していない者だと分かれば、妬みは増えますわ」


 先程とは違う、煮えたぎった瞳で、レーランティーナは床を睨む。


「わたくしとて、サティラリンを許したいのです。けれど、お母様のご意向で、許すことなどできないのです。そのような者同士が、同じ主に仕えているという環境が、わたくしには分からないのですわ。動揺しか生まれませんの」

「えぇ、そうね。御免なさいね、レーランティーナ。わたくしももっと、考えるべきでしたね」


 わたしに意見を肯定され、レーランティーナはびっくりしたようにわたしを見て、また同じように話す。


「不思議なのです、この環境が。いつもびくびくして、足元がない状態なのです。後ろ盾があっても、足元がなければ、落ちていきますわ。わたくし、どうしたら良いか……」

「有難う、レーランティーナ。わたくしを信用して、全てを言ってくれたんでしょう?嬉しかった。次はサティラリン、全部を吐き出して?」


 コクリと頷いて、サティはゆっくりと確認するように気持ちを零していく。


「わたくしは、前々からレーランティーナにどのように扱われるか、心配していました。ですが、レムーテリン様がわたくしを守って下さると仰って下さったので、少し不安が和らいだのです」


 ふわっと軽く笑って、そしてまた難しい顔に戻る。


「レーランティーナが来てからも、何も言われることがなかったので、わたくし、これからも良い側近生活を送れると思いました。けれどレーランティーナは、レムーテリン様がご帰還なさった直後にわたくしを睨んで、憎しみを明らかにしたのです」


 とても怖かった、と小さく漏らす彼女の顔は、表面はビクビクしているけれど、裏は強い、そのように見えた。


「わたくしはありのままを述べたまでです。レーランティーナにそれ以上言われても、わたくしは末娘ですから、詳しい事情は分かりません。申し訳ありませんけれど、わたくし、レーランティーナと仲良くしたいのです。お互いの家のことはひとまず忘れて、笑顔で過ごしたいと考えていましたから」


 忘れられるわけがないじゃない、と暗い声が聞こえた。レーランティーナが、苦しそうに笑っている。


「レーランティーナ。一度、幸せそうに笑って下さい。一緒に、レムーテリン様に仕えませんか?わたくしたちは末娘。お父様方に任せれば、いつかきっと、無事解決します。少なくとも、わたくしのお父様は、レーランティーナの実家を恨んではいませんわ。前に、素晴らしい家庭だと仰っていましたから」


 サティは、本当にすまなそうに、レーランティーナを見つめる。彼女は、暗い瞳でぼうっとサティを見た。二人の視線が、混ざり合う。それを確認したサティは、膝の上に並べてあるレーランティーナの固い拳を拾い上げて、そっと両手で包み込んだ。レーランティーナは、その手を振りほどきたくても離せないようだった。


「でも、お父様やお母様を裏切るものは沢山いたわ。貴女の両親もそんな者かもしれないじゃない。わたくしは、お父様とお母様に近づく人が信じられなくなりつつあるの。また、簡単に利益を貰って、簡単に裏切りそうで。でもお二人は、そんな者を罰しないわ。わたくしは毎回思うの。罰したらいいのに、と。だからサティ、貴女のこと、人としては尊敬しているわ。でも、でも……」


「わたくしにはその気持ちは分かりませんが、とにかく、辛かったのですよね?わたくしは、身分としてはレーランティーナ様よりずっと低いことは、皆承知していると思いますわ。身分からしても、両親は貴女様の両親を裏切ることはありません。それに……わたくしの両親は一度、貴方様の両親に救われたことがあるのですわ。そして、こちらも救い返した……両親はそう仰っていました。お互いに理解し合う中でいたいと、身分など関係なくお互いを信頼し合いたいと、両親はそう、良く呟いておりました」


「……貴女の親は、家族に嘘は吐けない者よ」


 ぱぁっとサティの顔が赤く染まり、瞳に輝きが戻ってきた。口角は上がり、キラキラと光る白い歯が見えるくらい笑っている。レーランティーナの笑みからも、苦しさが消えた。


えっ?えっ?何、解決?「貴女の親は家族に嘘を吐けない」これが解決の言葉?


 わたしは、頭の中で先程の会話を反芻してみる。


あっ、分かった。サティのお父さんとお母さんつまり親が家族であるサティに、素晴らしい関係だってサティに言ったんだ。なるほどぉ!


「良かった!無事解決!いえぇーい!」

「もう、レムーテリン様ったら。そうですわ、レムーテリン様は王のご息女の従姉妹なのですから、もう少し女の言葉を使った方がよろしいのではないですか?」

「……、そうですわね、レーランティーナ。以後気を付けますわ。貴女を見習ってもよろしくて?」

「えぇ、恐悦至極に存じますわ、レムーテリン様。ですが、作法や身振りは沙庭の方が綺麗でしてよ」

「それではそちらはサティに教わりますわ。よろしくて?」

「えぇ、もちろんですわ!」


ぎゃー、お嬢様みたい。あ、お嬢様か。あれ?この言葉、どっかで聞いた気が……?



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