二人の熾烈な言い争い
わっ!ブクマが六件だ!コメントくれないかなー、なんて。
わたしは今、三人で大広間にいる。そう、大広間に並べられた椅子に座っているのだ。それも、三角形に。わたしは、一番リビングから遠い席に、わたしから見て右にサティ、左にレーランティーナがいる。
「さぁ、始めます、二人とも。レーランティーナ、サティ。共に全てを詳らかにしなさい」
「お言葉ですけれどレムーテリン様。ここは本場。わたくしの本名はサティラリンですわ、正式名称でお呼び下さいませ」
「あら失礼、サティラリン。それでは始めます」
わたしは、露河の人には分からなくても、ちょっぴり裁判っぽくするために、カーンと音のなる、あれ……ほら、裁判長が叩くやつ。あれを用意してもらった。わたしは思いっきり音を出す。
「まずは、わたくしの思っていることを言いますね。……サティラリンがレーランティーナの実家に、借金返済問題を抱えているのですよね?それについての諍いでしょう?」
「な……何故ご存じなのです、レムーテリン様。まさか、沙庭が!」
「えぇ、そうですよ、レーランティーナ。落ち着きなさい。サティラリンは何も悪くありません。わたくしが聞き出したのです。わたくしはその際に、サティラリンを守ると決意したのです。ですから、全てを知る権利があると思っています」
わたしは、冷静に興奮気味のレーランティーナを諫めると、また話し出す。
「レーランティーナ、いつサティラリンが、借金返済問題を抱える家同士の娘だと気が付いたのですか?」
「それは、わたくしたちが出会った時からですわ。……本音を言えば、主のレムーテリン様がご帰還した際に、沙庭を糾弾しようと思って、待ち構えていましたの」
「そう。でしたら、いつ、どのように、どんな状況で、どんな糾弾をしたのですか?これはサティラリンも加えて二人で答えて下さい」
わたしの目を静かな怒りを燃やしながらじっと見つめてくるレーランティーナは、ゆるりと首を振って肩にかかる髪の毛を払い除けた。
「わたくしが先に、お答え致しますわ。ですがまずは、わたくしの気持ちを伝えさせて下さいませ」
優雅に、聖女の笑みを浮かべながら、レーランティーナがわたしに説明してくれる。サティは、目じりに涙を溜めながら、指の先が黄色くなるくらいきつく手を握りしめていた。だが、瞳の中はまるで強く自分の意思を持っているような真っすぐな光を持っていて、サティは綺麗な人だと思った。
「わたくしはお父様をお救いしたいのです。正直言ってしまえば、沙庭の実家は我ら一族にとって敵。一番に排除しなければならない対象ですわ」
ここでレーランティーナは一息ついて、今度は寂しげにニコリと微笑みながらわたしを見つめてくる。
「ですけれどレムーテリン様は、沙庭に随分と肩入れなさるようで、ここで下手に沙庭にかかれば、レムーテリン様に解雇される可能性が高いのは、一目瞭然ですわよね」
すると今度は、憂う儚げな少女の表情に変わった。
「お父様は困っていらっしゃいます。お優しい方ですから、沙庭の両親を苦しめたくないとお考えです。そのような心も知らず、自分で勝手に苦しむ沙庭は、わざと周囲に気を遣ってほしいように見受けられますわ。しっかりお父様の御心も知っていただきたく存じます」
頬に片手を添えて、ハァと柔らかなため息をついたレーランティーナは、今度は状況を説明致しますわと姿勢を正した。そして、つるっと口角をあげて、上目遣いでわたしを見る。艶々の唇が、ぷわりと舞うように動いたと思えば、重なり合って声を奏でた。
「まず、わたくしたちはレムーテリン様のお見送りを致しました。その後、沙庭をここ、大広間に呼び出したのです。そして最初に、『貴女のお父様とお母様が、わたくしのお父様とお母様に借金をなさっているのは、ご存じ?』と聞いたのです」
「ですからわたくしは、『存じております、大変申し訳ありません。近々返す予定でございます』と返したのです」
サティが苦しげにわたしの前に出て来て話す。するとレーランティーナは、いかにもサティが邪魔ものだというように顔を歪め、また一瞬で元の表情に戻す。
「沙庭、黙っていらして。今はわたくしのお話ですわ。レムーテリン様はお優しい方ですから、後に貴女の話す時間を作って下さるのでしょう?その時にお話し下さいませ」
軽く諭すと、レーランティーナはすぐに話を始める。
「わたくしはそう言う沙庭に対して、こう返しましたわ。『そう貴女達が仰って、どれくらい経ちます?もう信用などできる訳がありませんわ。と言いたいところですけれど、わたくしのお父様は慈悲深い方で、まだ貴女達をお許しになると仰るの。感謝なさい。ですけれど、お母様はお怒りよ。お父様がお母様を押さえながら貴女方をお待ちなの。わたくしも尽力しているわ。なのに貴女方ときたらこちらの努力も知らずに現状を憂いて回っているというではないの。おまけに呑気にレムーテリン様の側近にもなって。どんな状況か、本当にご存じなのかしら?不思議だわ』と。ふふ、少し長い分になってしまったわ。わたくし、会話を全て覚えていますの」
優越感を感じさせる笑顔で、レーランティーナは言い切った。サティはゆるゆると苦しげに涙を揺らしながら、瞼を閉じた。
「サティラリン、貴女はどう返したの?」
「わたくしは、『大変申し訳ありません、レーランティーナ様。そのようなことがあったなど、存じませんでした。表面だけでなく、裏も知らなければならないのですね。勉強になります。これは両親の言葉ですが、あと一月ほどで返す、ということですので、もうしばらくお待ち下さいませ』とお返し致しました」
「でも!」
突然、レーランティーナが立ち上がった。椅子は思いっきり後ろに下がって、ガタンと壁にぶつかった。わたしたちはびくりと体を震わせて、レーランティーナを見る。すると、レーランティーナの綺麗な瞳は怒りに燃え、全身をぷるぷると震わせて拳を固く握りしめていた。上品な笑みはぱっさりと消え去り、眉毛は吊り上がってまさに鬼の形相だ。
「わたくしは知っていますわ。そんなことを言って、絶対に一月も必要ないのです!わたくしたちの家の予算をなくしたいのでしょう⁉わたくしの実家からお金を借りた方は、全員こんなことをお思いなのですわ!貴女の両親もどうせ、そのような考えで、お父様方からお金を盗んだのですわ!そして、なかなか返すことをせず、お父様方の利益を減らそうと尽力する!結局こうでしょう⁉世の中にはお父様反対派しかいないのよ!」
「レーランティーナ、一度座りなさい。そして――」
「そんなことできますか⁉わたくしたちを陰で叩く下位の者に、優しく接することなど、できるわけがありませんわ!舐められて、たまったものではありません!このようなときこそ、相手を絶望と反省の海に突き落とすことが大切なのですよ!レムーテリン様は甘いのです!世間はそのように甘くはありませんわ!」
「なっ……レーランティーナ様、おだまりなさい!」
次にはサティが勢いよく立ち上がった。多少背が低いとはいえ、鬼の形相になって声が低くなりながら叫ばれれば、縮み上がってしまう。だがレーランティーナは、目できっかりと睨みつけて、微動だにしない。
「事実上わたくしたちは、レムーテリン様の側仕えとして対等の身分!下位の者とは言えさせません!それにわたくしのお父様は本当にお金に困っていらっしゃいました。そして、貴女の仰る通り慈悲深い貴女のお父様に相談致しました。あの方は快く了承なさいました。これが事実ですわ。お父様とあの方は、お互いに信用し合っています。貴女にそのような勝手なことを言われては、こちらこそたまったものではありません!」
「何を言うの沙庭!勝手なことを言って、レムーテリン様を惑わせるなんて何事⁉」
「レムーテリン様を盾に扱わないで欲しく存じます!レムーテリン様を一番よく知っているのはわたくしです!」
「一番側で仕えてきたのはわたくしだという事実から目を背け、嘘をこの公の場で吐く貴女には失望致しました。貴女の言葉に、価値がなくなっていきますわ!」
「意味が分かりませんわ。無知なのはわたくしではなく貴女様だと、お見受けされます!そして、まったくもって嘘ではないという事実から目を背けているのは、貴女様でしょう⁉」
わたしの中のイライラが、ふつふつと沸騰し、ついに心からこぼれ出た。
「いい加減になさい!」




