お召し替え中の会話
おっ!ブクマ増えてます、五件です!有難うございますー。
わたしの部屋は、電気が付いていた。皆、起きているようだ。なのに、物音が全くしない。笑照や陽満が騒いでいそうなのだが、一切音がしないのである。
「静かね」
わたしが振り向いて二人に言うと、何故か二人は苦い顔をした。
「泰雫、開けて下さる?」
「はっ」
少し暗い声を出して、泰雫がドアを開けてくれる。わたしは、そっと玄関に入っていった。
「ただいま戻りました、皆」
「レムーテリン様⁉お、おかえりなさいませ!」
心底ホッとしたような声と顔をした笑照が、タタタタッとやって来て、跪いた。
「ねぇ、笑照、煌紳、泰雫。一体何があったの?詳しく教えてくれる?」
「それは……」
三人は顔を曇らせて、リビングの方を見た。
「実際にご覧になれば、理解できるかと」
煌紳のきまずさを押し潰したような声により、わたしは恐る恐るリビングに入ることになった。
「ただいま帰りましたわ」
「まあぁレムーテリン様おかえりなさいませただいまレムーテリン様のお部屋の準備をして参りますね失礼致します」
「……⁉」
わたしが入ると、目が笑っていない珠蘭がバッと出て来てバッと立ち去った。台風のように、棒読みで。
「あら、サティは?」
「あぁ……沙庭ならば、自分の部屋にいます」
「サティが……?」
彼女の周りが氷になっている珠蘭と、部屋にいるサティ、皆の悔しそうな、居心地の悪そうな表情……。
「もしかして……っ、サティ!」
「水樹様、お控え下さい!珠蘭が部屋を整えるまでお待ち下さい。お洋服も身なりも着替えて整えて、それからサティにお会いになれば良いのですから」
泰雫が大広間に行こうとするわたしを必死に引き留める。
「でも泰雫、わたくし……」
「レムーテリン様お部屋の準備が整いましたこちらにおいで下さいませ」
あ、来た、うちの棒読み(レーラン)文製産機。大丈夫……かな?
「分かりました、珠蘭。それではわたくし、主として貴女に命じます。棒読みをやめて、わたくしに全てを詳らかにしてくれる?」
「……っ、失礼致しました、レムーテリン様。つい、気が立ってしまいましたわ。では、お召し替えを致しましょう。殿方ではなく、陽満、おいでなさい」
「はいっ……」
いつものようにニパッと笑うことなく、陽満は途中まで陽気さを残した。やはり、サティは呼ばないようだ。
「レムーテリン様、わたくしを解雇なさいますか?」
「珠蘭」
「一つだけ、お願いしてもよろしいでしょうか」
わたしが着替えをしながら頷くと、珠蘭は手際良く仕事をしていく。そして、ポツリと言葉を零した。
「一度わたくしを、レーランティーナと呼んで下さいませんか?」
「どうしたのかしら、レーランティーナ?」
わたしが希望通りにそっと名前を呼ぶと、レーランティーナは嬉しく寂しい、両方を浮かべた笑みをして、わたしを一瞬見た。
「今までわたくし、レムーテリン様にレーランティーナと呼ばれたことがなかったのですよ?気付いていらっしゃいましたか?」
「あっ……そうね。御免なさい」
「いえ、謝られることではありません。ふふっ、心が温まりました。お話し合いのときは遠慮はなさらないで下さいませ、レムーテリン様」
レーランティーナは、優雅に微笑みながら着付けを終えた。彼女自身、自分が解雇されるのだと思っているのだろう。
「レーランティーナ、大広間にいて下さい」
「畏まりました」
レーランティーナは優美にお辞儀をした後、ゆっくりとドアを開けて、外に行った。残っているのは、わたしと陽満だけである。
「レ、レムーテリン様、わたくし……」
「陽満、こちらへおいでなさい」
「ぅえっ⁉あっ、はい」
陽満は動揺しながら、ベッドに座るわたしの隣に立った。
「あら、ベッドの上に座ってくれて結構ですのよ?」
「そっ、そうですか?それなら、失礼致します」
基本、主の寝具の上に腰を下ろすのは、失礼の極みと言っても過言ではない事である。だが、今回は主のわたしが許す。
これで誰も文句は言えまい!うっふーん。
「さぁっ、行きますよ!陽満!覚悟なさい!」
「なぁっ!レ、レムーテリン様ぁっ⁉」
頬の下で、陽満のくぐもった声が聞こえる。
「ヴァラーペリアン、わたくし、貴女の温もりと明るさで心を温かくしたいのです。いつものようにニハッ!といっちゃってください。わたくしが許しますから」
「ちょっ、まっ、はぁ……ぅえ?あ、あのぉ、レムーテリン様ぁ……?」
わたしが陽満に飛びかかって抱き着いている状況を他人が見れば、一瞬でドアを閉めるだろう。
でもでも、温もり、カモンなんだもん!もう皆怖いよー!陽満、ニハッ!といってよ!ニハッ!と!
「陽満!」
「はっ、はいっ!ニハァァァァーッ!」




