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何故か王様になっちゃった件について。  作者: 白玉 ショコラ
第一章
20/102

初・日の出

 今日は金曜日だ。つまり、わたしが天乃雨にいられる最後の平日。24時間過ごせる最後の日なのだ。


「凛子、今日の夜、メールお願いね」

「おぅ、了解。任せとけ」


 凛子は、悪い笑顔で登校中に再確認してくれた。


うわー、黒い笑みー。


 一時限目は、わたしの好きな英語だ。わたしは英語が比較的得意で、テストではいつも満点に近い点数を取る。リスニングやトークテストも、ほぼ満点。英語の時間は少しだけ優越感を味わえる。


 二時限目は、体育。A組と合同でサッカーをした。わたしは小学校4,5,6とサッカーをやっていたので、少し自信がある。ただ、相手チームに凛子がいるので、勝機はあまりない気がした。


ホントに猪突猛進なんだよ、あの子……。


 三時限目は国語。少し難しい単元だ。でも、だからこそ、俄然やる気が湧いて来る。これを凛子とさやかに言うと、「何でだよ……」とか、「不思議、尊敬……」とか言われてしまう。


 四時限目は数学。お腹の空いたタイミングでの数学は、少しきつい。頭に記号やらXやらが入ってこないのだ。ただただ、数字の羅列を見ている時間である。


 それが終わればランチタイムだ。今日は学食に、三人で行く。わたしはカツとピラフを頼んだ。


「なぁ、水樹。何でメイン料理、二個も頼んだんだよ」

「懐が痛むけど?」

「うん。明日は勝たなくちゃいけないから、王様に。絶対羽根ペンを広げて見せるんだから!ピラフはわたしの好み」


 勝負事があるんだな、という納得の顔と、王様?という不可解な顔を同時にしながら、二人は食べ始める。ちょっぴりやっちゃった。凛子はビッグバンカレー、さやかはクリームオムレットを食べながら、話している。わたしは、カツをほおばって、窓の外を見た。


心梨ちゃんと凛赤ちゃんが、「うひょーっ!」ってなれば良いな。


 五時限目は社会の地理。苦手教科。何を言っているのだか、途中から分からなくなる。数学と同じ、文字の羅列だ。眺めて終わる。頑張らなくちゃいけないんだけど。


 六時限目は理科。実験をしに理科室に行く最中で、盛大に転んだ。最後の日の思い出としては、サッカーで2-2で引き分けたのと同じくらいのレベルだったので、まぁ許せる。


 七時限目は部活だ。図書部で、本を読みまくる。唯一の幸せの時だ。今日読んだ小説は、泣けた。ぼろぼろ泣けた。おかげで部員にひかれた。







 家に帰ってわたしは、自室から地面に繋がる梯子を見つめた。昨日の夕方に、そっと設置しておいたものだ。


「ただいま、お母さん」

「おかえり、水樹。宿題はどのくらい出たの?」

「沢山。今からやらなきゃね」


 お母さんには申し訳なさばかり募るけれど、わたしが今からやるのは明日の準備だ。


「そうね、後でお茶、持って行くわね」

「有難うお母さん、でも大丈夫」


 あらそう?と言って、お母さんはアイロンに手を伸ばした。わたしはすぐに二階に上がり、トートバッグを取り出す。絶対に持って行かなくてはならないものは、羽ペンについてのメモだ。その他は特に必要ないが、貴族の流行りを考えるために、良さげな本を持って行く。


「トートバッグじゃなくて、プチポシェットで良いかな?」


 わたしは一度トートバッグをしまい、プチポシェットを取り出す。このポシェットはおばさんぽくない高級そうな紫をしていて、夢楽爽のカラーだとサティも言っていたので、持って行っても問題ないだろう。


「メモ帳は水色だけど、良いよね」


 水色はどこのカラーなのかな、と思った。わたしは、プチポシェットに本とメモ帳をしまうと、英語のテキストを開いた。


「わたしが帰ってくるときにはとっくのとうに終わってるかもしれないけど、一応、テスト範囲の英文、暗記しておくか!はは、とっくのとうとか死後でしょ。きょうび聞かないよ」







 夜、わたしはお母さん特製のビーフシチューを食べた後、すぐに二階に行った。これはいつものことなので、両親とも不審に思っていない。今日もまた読書に行くのだ、と思っているのだろう。


お父さん、お母さん、ホントに御免ね。心から謝る。


 家族を騙すということは、この姫の従姉妹というわたしのデリケートな心に傷を与えるのだ。


「それにしても、今日のビーフシチュー美味しかったな……ん、夢楽爽でも広めてみる?いや、ビーフシチューっぽいものはある気がするな。洋食文化だもんね、チキンシチューとかあるのかな?」


 くだらない独り言を言いながらわたしは、そっとポシェットを肩にかける。そして、カラリと窓を開け、下に設置してあった梯子の様子を確認する。不安定ではなさそうだ。


 わたしは部屋の電気を消して、梯子にカンと足を置いた。両足を梯子に付けて安定させるとわたしは、外側から窓の鍵を閉めた。そして、急いで降りて、梯子を片付けないまま家から出た。家の垣根を乗り越えればそこは、見慣れた住宅街だ。


 比較的大きい道路に出て、あの路地に向かう。あの日から何回か通ったけれど、ここの路地を見たことは無い。今日はしっかりあった。路地に足を進め、苔が出てきたらもう迷うことは無い。そのまま進むと、前は気味が悪いと恐れていたスイジュが見えた。


「今ではなんか、安定剤に変わっちゃったかな……ふふっ」


 夢楽爽の人間になりつつあるわたしにとって、何故だか今は、スイジュは側にいるもの、という認識ができるようになった。


 いや、本当はどこかで拒絶しているのかもしれないけれど、あれは夢楽爽に行くべき者と認定されたときの一時的な発作だったのかもしれない。体はスイジュを拒絶するけれど、露河の人間になるにあたって、絶対にスイジュに慣れなければならない。


 全神経はまだ天乃雨のものなので、露河を拒むしかなかったのだ、きっと。


 わたしはそっと、スイジュの幹に触る。すると、ベストタイミングで、煌紳と泰雫がスイジュの真上から降りて来た。


「遅くなり申し訳ありませんでした、ミズキ様」

「ううん、良いよ、二人とも……じゃなくて、構いませんわ、煌紳、泰雫」


 言葉遣いが乱れたわたしを見て、二人はクスリと笑うように光を揺らして、そっと穏やかな声を放った。


「さぁ、参りましょう、ミズキ様」

「えぇ、そうね。煌紳、お願いね」

「畏まりました。露河のスイジュの下で、穏音様がお待ちです」


 わたしが煌紳に触れると、二つの光はふわふわと浮遊し、前と同じようにスイジュの真上にやって来た。前は動揺していてスピードと重力に任せてスイジュに突っ込んで行ったけれど、今回は落ち着いて下界を眺められる。


「バイバイ、皆。待たね」


 わたしは、小さな声でしばしの別れを告げると、スイジュに落ちて行った。







 ぐうっと意識が上昇し、猛烈な吐き気に襲われる。どうやら露河から天乃雨に行くときはないが、逆の場合は込み上げてくるらしい。


もぉ、穏音様の前でやっちゃいたくないんだけど……!バカバカ!


 わたしは一瞬目をつぶって吐き気を抑え、すぐに貴族の笑みを顔に貼り付ける。足元でふさっと音

がして、わたしは最初に来た時と同じ学校の制服を着て、穏音の前に跪いた。


「レムーテリン、三日をおいて、再びこの場に参りました。穏音様、懐かしいその笑みを、拝見させていただきたく存じます」

「えぇ、構いませんわ、レムーテリン」


 これは、貴族の間で流行りの「拝見祝詞」だ。わたしはそう呼んでいる。つまり、顔をあげても良い?っていうことだ。


 けれど、穏音の笑みは、冗談抜きで本当に癒される。クィツィレアは天使なので、穏音は女神だろうか。


「お久しぶりですね、レムーテリン。また会えたことを嬉しく思います」

「わたくしも、です……。これからもよろしくお願い致します。露河も今は、夜なのですね」

「そろそろ夜が明けますわ。日の出はあちらです。レムーテリン、体が弱くないのでしたら、毛布を掛けて日の出を見るのも良いかもしれなくてよ?」


 わたしは「貴重なお言葉、有難う存じます。ですが、わたくしは今毛布を持っておりません。このまま日の出を拝見させていただきます」と言った。


制服でこの寒さをしのぐのかぁ、結構キツいなぁ……。


 わたしが凍えながらスイジュ庭園の芝生に腰を下ろすと、穏音は自分の側仕えに「毛布を四枚」と声をかける。


「穏音様はお身体が……大丈夫なのですか?」


 わたしは素直に心配になってきた。毛布を四枚までかけてわたしのために日の出を見る必要なんてない。お貴族様だから、日の出を見たことがないのかもしれないけれど。


「えぇ、わたくしは二枚で構いません。レムーテリン、残りの二枚は貴女が使いなさい」

「ぅえっ⁉そっ、そんな、悪いです、申し訳ありません、わたくしのことは気にかけないで下さいませ!」


 わたしは、衝撃の言葉に目を向いて、懸命に遠慮する。


もう貴族っぽい断り文句なんて知らないもんね!


「レムーテリンも寒いでしょう?トゥスアノ、迷わずに四枚、持って来て下さる?」

「畏まりました」


 トゥスアノは主の命令に従い、毛布を二枚ずつわたしたちに渡してくる。


「本当に有難う存じます、穏音様。感謝の念に堪えません」


 わたしは頭を下げながら毛布を受け取って、泰雫に体に巻いてもらう。


 毛布を貰ってから約二分後、遥か向こうの地平線が、ぱわりと光った。


「もしかして、日の出?」

「えぇ、そうですよ。レムーテリンは日の出を見るのが初めてでしょう?わたくしも二回目なのです。とても美しいのですわよ」


 やっぱりあんまり見たことないんだ、と思いながら、わたしは地平線を凝視する。すると、地平線がカッと光って、左右に光が流れ始める。


「まぁっ……」


 流れ終わったところから元の色に戻る。すると、一周したらしい光がまた、反対側から流れて来て、二つの光がまた一つの光になった。そして、もう一度先程より少しだけ眩さが増した光をカッと放って、消えた。


 すると、光が集まったところから、ぶわーっと数々と小さな光が出て来て、空の真上に集まった。穏音は穏やかな笑みを浮かべながら光を追っている。わたしは一心不乱に目で光を追いかけて、一番上を見た。

 光がギューッと集まってきて、白く光っていく。すると、パヤッと輝いたと思ったら、上には何もなかった。


「あら?」

「あちらですわよ」


 穏音の顔は、光が出てきた位置に戻っている。そこには、ぽうっと光る太陽があった。


「わぁっ、綺麗ですね、穏音様」

「えぇ、そうね、レムーテリン。そろそろ風邪をひきますわ、戻った方が良いかもしれません。トゥスアノ、毛布を」

「畏まりました」


 トゥスアノは素早く毛布を回収すると、後ろの側近に渡していく。わたしたちは魔法陣に向かって歩き出した。


「皆起きてきたかもしれませんわね。側近に帰宅を喜ばれてきなさい、レムーテリン。さぁ、行きましょうか。夢楽爽へ」


 穏音の声と共に、魔法陣が動いて、浮遊感と共に、わたしたちは夢楽爽の草原に移動していた。


「では、帰りましょう」


日本の日の出も、綺麗ですよね。

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