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何故か王様になっちゃった件について。  作者: 白玉 ショコラ
第一章
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天乃雨へ

 朝、わたしはサティによって0時に起こされた。


「ぬぅん……眠いよぉん……」

「レムーテリン様、今日は天乃雨へのご帰還の日でしょう?起きて下さいませ」

「んぁ?五機関の?秀商?なになに?」

「はぁ……レムーテリン様っ!」

「ひゃいっ!……はぁっ、サティ?もぉ、ビックリしたよぉ。寝起き早々、大きい声出さないでよぉ」


 サティの大声でわたしは完全に寝ざめ、珠蘭を呼ぶためベルを鳴らす。即座に珠蘭が入ってきて、二人でわたしを着替えさせ始める。服は、わたしがこちらに来た時の向こうの服だ。


「やはり、天乃雨の服は見慣れなくて難しいですね」

「それならばわたくし、一人で着替えます。靴下と靴を取って下さればもう結構ですよ」


 わたしは腕と頭をスルスル通し、制服のチャックをパチンと閉める。上着には変わらない生徒手帳があり、少し涙ぐんでしまった。


あーあ、何でこのちょっとの期間しかこっちにいないのに、泣いちゃうんだろうね。自分が馬鹿みたいでちょっぴり嫌だよ。


 わたしは心の中で自分に文句を言いながら上着のボタンを閉める。


「よし。完了しました。靴下は……学校既定の黒靴下かぁ。靴もあの黒革靴だ。懐かしいけどなんか嫌だねぇ」

「レムーテリン様、お言葉が」

「はっ、しまった。やってしまいました。御免なさい。以後気を付けますから、今回は見逃して下さいね?」


 分かっています、と二人は楽しそうに笑う。ちょっとの期間で、二人も仲良くなったようだ。借金の問題も、仕事には影響していないみたいで、少し安心だ。


「それでは。王様の元へ向かいましょう。天乃雨への帰還の最終確認を行います」







 相変わらずチャラチャラしていてどこか厳めしい顔をした王様が、どでんと早朝から眠たそうな表情を隠そうともせずに座っていた。穏音様はいつも通り柔和な笑顔をしている。


王様凄いよ。三つの顔を同時に出来るなんて。ある意味尊敬だよ。


「其方、天乃雨への帰還だが……勝手にしてよいぞ」

「はいっ⁉ちょっ、おっ、王様、その、勝手というのは……」

「ヴィートレート様!勝手と言うのは何なのです!レムーテリンが困ることはなさらないで下さいませ!レムーテリン、煌紳、泰雫。申し訳ありません。わたくしがスイジュまで共に行きましょう。レムーテリンの帰還を見届けます」

「そんなっ……有難う存じます」


 わたしたちは穏音様に深くお辞儀をして、笑みを浮かべた。逆にヴィートレートは、うんざりした顔で言った。


「では穏音に任せる。私は就寝としよう」

「おやすみなさいませ、ヴィートレート様。さぁ、わたくしたちは出発致しましょう」


 意外とキリパリしている穏音に任せて、わたしたちは着いて行く。煌紳と泰雫は光になって、ふやふやと浮いて来る。


「ここの扉を開けて下さる、レムーテリン?」

「畏まりました」


 すぐに扉を開けると、そこには暗く静かな夢楽爽の夜の闇がただただ漆黒に染まりながら在った。涼しい風が頬を撫で、城の中に舞い込む。耳元で音がしたと思えば、それは風の音なのだ。わたしは夢楽爽の夜を初めて見た。こんなに幻想的だとは思ってもみなかった。城の周りは草原が広がっているため見通しも良く、こんなに綺麗な夜は見たことがなかった。スパンコールを落としたように夜空に散りばめられた星は、点滅するように瞬いてわたしを天乃雨へ送り出してくれる。森の木たちの影は長く黒く、白く光る月は世界を少しだけ明るく照らす。


「レムーテリン。魔法陣まで行きましょう。スイジュ庭園に着いたら、しばしのお別れですから」

「そうですね。参りましょうか、穏音様」


 わたしたちはそっと草の上に足を踏み下ろす。サザッと音がして、草が歪む。昨日見た夢とは大違いで、ふわふわの生クリームなど感じられなくて、野生を感じる板チョコレートの溝を歩いている感じがした。


「着きました、穏音様」

「乗りましょう。レムーテリンが、『スイジュ庭園』と言って下さいね」

「畏まりました」


 わたしは、全員が魔法陣の上に乗ったのを確認して、出来るだけ大きめの声で言った。


「スイジュ庭園へ」







 浮遊感がした後に、わたしたちはふわりと、スイジュ庭園の魔法陣の上に降り立った。後ろ斜め左上を見上げれば、この夜に似合わないカラフルな葉が揺れていた。


「これに乗って、帰るのですね」

「えぇ、そうね。……少し、悲しいわね」


 穏音は少し顔を曇らせて笑った。こういう時には表情は隠さなくて良いのか、とわたしは寂しさを紛らわすために学習したのだと自分に言い聞かせた。


「煌紳、泰雫。わたくしを乗せてくれるのは、どちら?」

「今回は、泰雫がお送り致します」


 煌紳の柔らかで落ち着いた声にこちらも冷静さを取り戻すことが出来た。このままでは涙腺を全開にするところだった。


「泰雫、準備は出来ていて?」

「もちろんでございます」


 わたしは、泰雫という名の光に手を当てた。ふわっと体が浮き、気が付いたらスイジュの真上から穏音を見下ろしていた。


「穏音様……行って参ります」

「えぇ、気を付けて。……四日後、ここでまた、お待ちしていますわ」


 穏音の穏やかな笑顔に見送られて、わたしたちはスイジュに向かって急降下していった。



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