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何故か王様になっちゃった件について。  作者: 白玉 ショコラ
第一章
13/102

3つのお願い事

 朝、シャーッとカーテンを開ける音で、わたしは目覚めた。ベッドの周りでは、サティが忙しそうに動き回っている。お嬢様は側仕えが起こすまで起きては駄目。わたしはその規則を守って、布団の中でギュッと目をつぶって寝ているふりをする。


「おはようございます、レムーテリン様。お目覚めの時間でございます」


 サティが、わたしの耳元でそっと囁いてくれる。わたしはゆっくりと起き上がり、サティに微笑みかける。


「おはようございます、サティ。お召し替えを頼みます」

「はい」


 サティはゆっくりとした動きに合わせて、タンスから緑から黄色へと変わるグラデーションの洋服を選び出し、皺を直していく。その間にわたしは、側仕えを呼び出すベルを一回、チリンと鳴らす。するとすぐにドアが開いて、珠蘭が入ってきた。


「おはようございます、レムーテリン様」

「おはようございます、珠蘭。椅子と靴下を取って」

「畏まりました」


 珠蘭は側に置いてある椅子をベッドの右脇に用意し、サティが先程開けたタンスの一つ下のタンスを開けて、服に似合う黄色の靴下を渡してくれた。そしてすぐに薄い黄緑色の靴を、椅子の前に置いてくれる。


 わたしが椅子に座って靴下を履き終え、スッと立つと、椅子は珠蘭により元の位置に戻され、サティと珠蘭がお召し替えをしてくれる。腕を順番通りに動かせば、いつの間にか洋服がわたしにフィットしていて、二人がわたしの服を見ながら髪飾りを選んでくれている。


「レムーテリン様、どちらの髪飾りが良いですか?」

「そうね、今日の衣装ならこちらが良いと思わなくて?」

「畏まりました」


 わたしは、薄い緑や金、黄土色が入り交ざった髪飾りを選んだ。


「今日のわたくしは春色ですね」

「春色?ふふっ、むしろ冬色ですわ、レムーテリン様」

「えっ?冬色?そうなのですか?」


 戸惑う私に、珠蘭は優しく教えてくれる。春色は、水色や青、紫などの色、夏色は、赤やピンク、オレンジだそうだ。秋色は、白や茶色、銀などの色で、冬色は黄色や緑、金色などの色らしい。


「理解できるような気がしたりするのは、夏色と秋色ね」


 わたしが髪飾りを付けてもらいながら言うと、サティは「今夢楽爽は冬ですから、今日のレムーテリン様はシーズンカラーレディですわね」と言った。


「シーズンカラーレディ?」

「はい。その季節の色のものをまとう女性を、シーズンカラーレディと言うのです。平民には、そのような言葉はないのでしょうけれど」

「確かに、最近一気に寒くなってきたものね。防寒、防寒」

「ふふっ、でもレムーテリン様は、本に日光が当たらないと嬉しがっていたではありませんか」

「その点は素晴らしいと思いますよ、わたくし」


 わたしがサティと珠蘭に挟まれて部屋を出ると、大広間には笑照と陽満がいて、ニコニコと話していた。


「おはようございます、笑照、陽満」

「おはようございます、レムーテリン様。気付かずに申し訳ございません」

「構いませんよ、笑照」

「おはようございます、レムーテリン様!今日のレムーテリン様はシーズンカラーレディですね!ニハッ!」

「そうなの、皆に言われるのよ」


 わたしが苦笑交じりに話してから、五人でリビングに出ると、煌紳も泰雫も起きていて、ソファで本を読んだり、話したりしていた。


「おはようございます、煌紳、泰雫」

「おはようございます、ミズキ様」


 二人が同時にわたしを見て、跪いた。わたしはすぐに「跪かなくてよろしいのよ」と言って、右のスペースで本を読み始めた。朝食が出来るまではこうしているのがわたしの日課だ。しかも、今日はクィツィレアと凛赤との面会日だから、気合を入れて読んで食べなければいけない。


「ハァ、レムーテリン様の面会が終わったら、何をすればよいのでしょうか、泰雫」

「そうですね……笑照は騎士特訓が出来なくなって体力が有り余っているようですね?」


 出したことのない疲れた声を出す笑照と、低くて疲れを読み取れない泰雫の声が聞こえてきた。


「はい、その通りです、泰雫。ハァ、力を発散させたいな……」

「実は私もそう思っていたりしますよ」

「そうなのですか!泰雫も騎士特訓を受けていたのですね?気が付きませんでした」


 泰雫と笑照の会話が聞こえる。二人とも、体力を持て余しているようだ。こんな風に部屋でじっとしているのがムズムズするらしい。


「ジム、作ったら駄目かな?」

「レムーテリン様、どうかされましたか?」

「ん?いえ、何もないですよ」


 側に控えていた珠蘭に独り言を聞かれ、わたしは横に置いてある紙をペンを取って、サラサラと思いつくことを書いてみる。


「そうだなぁ、ジムくらいしか思い浮かばないんだけど……一回、騎士特訓っていうのを見てみたいなぁ。自由参加の特訓みたいだし、見学くらい良いよね。そうだ、それでもよく分からなかったら、わたしもやっちゃうっていうのはどう?ほら、クィツィレア様みたいに生粋のお貴族様のお嬢様で、王のご息女が騎士特訓を受けるのはあれだけど、わたしくらいの身分なら、どうにかならないかな?」


 わたしは、紙に『ジムの建設、騎士特訓見学、騎士特訓参加』と書き込む。ぬぅ~と唸っていると、サティがハァッと楽しそうな溜息を吐きながら、わたしに話しかけてきた。


「レムーテリン様、側近の思いなど考えなくて良いのです。あの二人は、あとでわたくしがビシッと言っておきますから」

「い、嫌だわ、もう、サティ。わたくし、自分の思いをこの紙に書いていただけですのよ!ほっ、ほら、天乃雨のジムに行きたいなぁとか、天乃雨に騎士特訓があったら見学や参加もするかなぁとか、色々考えて……あれ?おかしいな。涙腺崩壊ポイント、不明なんですげど……」


 わたしが頑張ってサティに説明をしていたら、頬を突然温かいものが滑り落ちて行った。


「レ、レムーテリン様⁉大丈夫ですか⁉珠蘭、消毒魔法を使えますか⁉」

「えぇ、もちろん。フランフィア!」


 珠蘭が両手をわたしの目元にかざし、謎の言葉を叫んだ。すると、少し腫れて痛かった目の下がふわりと緑の光に包まれ、腫れや痛みが引いた。


「有難う、珠蘭。ごべんなざい、わたぐじも泣くポイントが分がらないのよ。天乃雨のごとを考えていたがらがじら」

「ハァ、面会の時ではなくて助かりました。戻りたいときがあったら仰って下さい。いつでも王様にお伺いを立てますから」

「頼むわ、珠蘭。わたぐじ、お腹が空いてぎまじた。朝食をいだだきばじょう」

「そっ、そうですね、レムーテリン様、珠蘭、リビングへ向かいましょう」


 わたしは盛大に鼻をかんだ後、笑顔でリビングに戻った。


「まぁ、貫春、真華、素敵な朝食ね。いただきます」


 わたしが葡萄パンもどきをパクリと一口ちぎって食べると、側近たちも食べ始める。


「ねぇ、貫春。このパンの名前は、何と言うのかしら?」

「こちらは、ユッチェントブレッドです。お気に召されましたか?」

「とても美味しいから、つい聞いてみたの。なら、こちらのスープは?」

「レッデミーアスープです。真華が、赤い野菜を果汁と実に分けて使っていました。下級貴族までには出回らない食材のようで、私は存じません、申し訳ありません」


 どうやら、葡萄もどきはユッチェント、トマトもどきをレッデミーアというらしい。


「それなら、こちらの食材は?」

「それは、ヴォレアノーンとキェチェンラの炒め物です。そちらの炒め物は、赤い食材と干したユッチェントを使用しております」

「そうなのね。わたくしには聞き覚えのないものばかりです。有難う、貫春」

「いえ、私も説明が出来て楽しかったですから」


 ニコリと笑った貫春の口から、キラキラ光る眩い歯が覗く。ハァ、イケメン。わたしは引き続きユッチェントブレッドを食べ進める。皆、ヴォレアノーンとキェチェンラの炒め物やトマトもどきと干しユッチェントの炒め物にフォークをのばす。


「皆、炒め物が好きなのですね」

「おや、レムーテリン様はお嫌いですか?」

「いいえ、そういうわけではありませんけれど……むしろわたくし、野菜は好む方ですから」

「そうなのですね。レムーテリン様もいりますか?お皿に盛りましょう」

「あっ、えぇ、頼みますね」


 わたしは、側近が持ってくれた二種類の炒め物を口に運ぶ。ヴォレアノーンもキェチェンラも葉野菜だ。生で食べればみずみずしく、シャクリとした気持ちの良い食感が楽しめるらしい。最も、わたしは生野菜を危険だと言って食べさせてもらえないから、食べた事なんてないけどね。


 わたしは一旦フォークを置いて、またパンにかぶりついた。サクッと小気味良い音を立て、パンの表面のきつね色がはらりと落ちる。口の中にパンの香ばしい香りとユッチェントの独特の甘みが広がって、噛めば噛むほど美味しさが染み出てくる。


「ハァ、幸せ……」

「なるほど、レムーテリン様はユッチェントブレッドがお好きなのですね。明後日の朝食にお出ししましょう。明日は違うパンですからね」

「有難う、真華。バランスの良い食事をとらなくてはいけないから、明日すぐにまた食べるのはよしますね」


 わたしはニコリと微笑んで、パンをお皿の上に置いた。そしてまた、いつもより重く感じるフォークに手を伸ばし、ヴォレアノーンとキェチェンラの炒め物に突き刺す。口の中に突っ込んで咀嚼し、ゴクリとゆっくり嚥下する。


「ふぅ。真華、お茶はあって?」

「ただいま」


 真華に呼びかければ、すぐに好みのお茶が出て来た。前のクィツィレアとの面会で飲んだ、あのお茶だ。


「そういえば二人とも。凛赤様に差し上げるお茶の葉の準備は出来ておりますの?」

「それが……わたくしたちは実際に凛赤様にお会いしたことがございませんから、どのようなお茶を用意すれば良いか分からないのです。今厨房にあるお茶の葉で、凛赤様が好まれるお茶ができるかどうか……ですね」

「そうなのですね。それならば、わたくしが一度全てのお茶を飲みましょう。凛赤様の好みは大体把握済みです」

「ならば、わたくしが飲みますわ、レムーテリン様。レムーテリン様はご自分のお好きなことをなさって下さい。そのようなことを、側仕えに命じるのですよ、主上」

「そう、なのですか?それなら、珠蘭に任せますね。厨房に行ってらっしゃい」

「畏まりました」


 運良く小食の珠蘭はもう朝食を食べ終わっていて、実家から送られてきた資料に目を通していたところなのだ。


「ねぇ、サティ。夢楽爽には、一つ一つの地名か何かはないの?」

「もちろんございますよ?オーヴォシュリ先生から習いませんでしたか?」

「全く。政治のことしか教わっておりません」

「まぁ!」


 サティが驚いたように、「面会が終わったら説明致しましょう」と言ってくれた。

やっぱりオーヴォシュリ先生、向いてなかったっぽい?


「ごちそうさまでした」


 わたしは、いつも通り炒め物を少し残して、席を立った。後ろから、「今日も炒め物は……」「真華たちの何が……」という声が細々と聞こえてくるが、わたしはそっと本を広げて、パラリと本を捲った。この世界の炒め物は、胃がえぐれる感じがして苦く、酸っぱいのだ。日本人の舌には合わない。御免なさい。


 たまには皆に会いたいなぁ。さやか、風邪治ったかなぁ。今度こそ皆でアルバム見たいなぁ。向こうでは、時間が止まってたら良いなぁ。警察報道になってなきゃ良いけど。あぁ、考えてたら帰りたくなってきちゃったよ。今度、王様に許可を貰いに行こう。帰りたいな、久しぶりに。

 わたしは面会時間まで本に没頭し、クィツィレアの部屋に向かった。







「お久しぶりです、心梨様」

「お久しぶりね、レムーテリン様。どうぞ、こちらへ。凛赤様はまだいらっしゃっていませんわ」

「そうなのですね」


 心梨の柔らかい笑顔に癒され、わたしはやっと出来るようになった流れるような動きで椅子に座った。


「まぁ、動きが滑らかになりましたのね。綺麗だわ」

「お褒めの言葉、有難う存じます」

「失礼致します。お久しぶりですわね、クィツィレア様、レムーテリン様」


 わたしたちが他愛のない会話を交わしていると、するりと凛赤がやって来た。


「あら、ネーリンワーナ様!ようこそいらっしゃいました。どうぞ、ここのお席へ」

「畏まりました」


 凛赤は赤いリボンをたなびかせ、トスンと椅子に座った。


「どうぞ、お茶を」


 クィツィレアが毒見を済ませると、わたしたちはコクリとお茶を飲む。


「あら、これは……ユッチェントとアイニャファッシュのお茶ですわね?」

「さすがネーリンワーナ様、良くお分かりになること」

「あたくし、このお茶も大好きですもの。ふふふっ!」


 凛赤は、それはそれは楽しそうに笑って、また一度、お茶を飲んだ。


「それで、ミズキ様。お約束のお茶は、ありますの?」

「あっ、えぇ、もちろん。珠蘭」

「畏まりました。こちらが、お納めする予定のお茶でございます」

「まぁ、綺麗な色ね。何のお茶なのかしら?」

「これは、……」


 わたしは、訳の分からない話をし出した二人をそっと見て、すぐに思考放棄をした。


もう何が何だかだよね。お茶って全部同じ味がするよ、この世界。いや、心梨様に出してもらったあのお茶は格別だけど。


「ミズキ様、こちらが本ですわ。あたくし、頑張って選びましたのよ?」


 凛赤がそう話しかけてくるまで、わたしはたまにお茶を飲むだけだった。でも、凛赤からその本を手渡された瞬間、お茶なんてどうでも良くなった。


「まぁっ!分厚い本!それに……この書体も大好きなものですっ!ハァ、この古びた紙の感触も素晴らしいですね。触りすぎて黄色くなった紙の端も、薄い羊皮紙のようなところも……それに、紙とインク、金属の匂いがたまらないっ!ハァ、何て幸せ、何て素晴らしい……神様、有難う!」


 わたしが両手を組んで上を見上げると、そこには青空にサンサンと降り注ぐ清き天の光……などはなく、クィツィレアの部屋の大理石の天井があった。そこでわたしのテンションは理性に返り、一気に顔が赤くなっていくのを感じた。


「もっ、申し訳ございませんでした、クィツィレア様、ネーリンワーナ様!わたくし、みっともない姿をお見せしてしまって……恥ずかしい限りです!」

「良いのですよ、レムーテリン様。本への熱意を語られるときのお顔、とても綺麗でしたわ」

「そうですわ、ミズキ様。あたくし、そのようにお茶を熱くは語れませんから、熱弁出来るものがある貴女様につくづく憧れますわ」

「そっ、そうなのですか?失礼致しました……」


 わたしが恐縮しながら座って、ふるっと珠蘭を振り向くと、彼女は苦笑いで返してくれた。


「珠蘭、本を預けます。厳重に保管しておきなさい」

「はっ」


 笑い声を含んだような、たるんだ声ではなく、しっかりとした強い声が聞こえて来て、わたしは安心した。


「そうだわ、お父様やお母様、最近二人の方とお話をしていることが多いのよ。とても気が合うのですって」

「んまぁ、そうなのですか?まるであたくしたちのようですわね。ねぇ、ミズキ様?」

「そうですね、わたくしたち、仲良しですものね」


 クィツィレアに話を振られたときは軽く答えられるが、凛赤に同意を求められると何故だか綺麗な言葉が出ない。


ぐぬぅ、緊張。


「ミズキ様も、お友達をもっと作った方がよろしくてよ。あたくしたちだけじゃ、後ろ盾が弱すぎますわ。いくら王のご息女とその従姉妹の身分が固まっているからと言って、あたくしたちはか弱い女の子ですもの。どう頑張ったって、男の子のようにはなれませんわ」

「……そうです、か弱いならば、騎士特訓を受けたらどうでしょうか、三人で!」

「なっ、レ、レムーテリン様?」

「主上!」


 二人からは驚きの声が、側近からは諫める声が飛んでくる。そんな声はわたしの耳を左から右へと通り抜け、わたしの心には到達しないのだ。わたしは珠蘭に、「わたくし、ずっと思っていたのです。これを機に、ジムを作りましょう!」と笑顔で言う。


「わたくしの側近は、体力発散の場がなくて、ムズムズしています。側近になると、騎士特訓を受けることが不可能になるのでしょう?ならば、その騎士特訓を受ける代わりに、ジムでどんどん練習してもらえば良いではないですか!リスタート・騎士特訓ですよ!」

「リスタート・騎士特訓……?」

「そうです!そこは、女性も入れるスポーツジムのような形にして、わたくしたちか弱い女の子も参加するのです!汗をかいて、強くなるのです!」

「レムーテリン様、お言葉ですが、王の許可がないと……」

「では、取りに行きませんか?ちょうどわたくし、明日面会依頼を出そうと思っていたところだったのです。一度、天乃雨に帰ろうと思って」


 わたしが目をキラキラさせて発言すると、煌紳が「側近に相談せずに事業を進めるとは……」と楽しそうに呟いているのが聞こえた。


「良いですね。楽しそうではありません?ねぇ、クィツィレア様。やってみません?『ジム』作り」

「『ジム』が何か分かりませんから、王の前ではレムーテリン様の言葉が必要ですけれど……構わないのならば、わたくしも協力致しますわ」

「有難う存じます、クィツィレア様、ネーリンワーナ様!早速、面会依頼の手紙を出しましょう!珠蘭、手紙を」

「畏まりました……」


 珠蘭は、いざというときのために持っておいたという手紙をそっと出してくれた。後から聞くと、こんな「いざ」が来るとは思ってもみなかったそうだ。


「あら、レムーテリン様、字がお上手ですのね」

「本当だわ。あたくしよりずっとお上手」

「そりゃあ、9歳に17歳が負けませんもの。5歳差ですわよ」


 クィツィレア様がからかうように言うと、凛赤はお茶を飲んでから「クィツィレア様もあたくしと同じくらいの字の上手さですわ」とツンとして言った。


「まぁ、わたくしは字が下手だとおっしゃるの?うふふ」

「クィツィレア様、今軽くあたくしをけなされましたね?おほほ」

「まぁまぁ、お二人とも落ち着いて。このような文面で構いませんか?」


 わたしが二人をなだめてから手紙を見せると、二人ともしっかり吟味してから、コクリと頷いた。


「それでは泰雫、後で出して下さいね」

「か、畏まりました……」


 泰雫が手紙を受け取ってそっと下がると、今度はクィツィレアがキラキラした目でわたしに話しかけてきた。


「スイジュのお話、ネーリンワーナ様にもお話致しましたのよ?そしたらネーリンワーナ様、乗り気なのです、わたくしの考えに。ねぇ、ネーリンワーナ様?」

「えぇ、そうですわ。あたくしたち、スイジュの場所に行こうと話しておりますのよ」

「スイジュに?」


 そうですわ、と微笑んだ心梨が説明を始める。


「リスタート・騎士特訓と同じように、王の許可を取るものですから、わたくしたち三人で、面会に参りましょうね。ねぇ、レムーテリン様も賛成下さるでしょう?」

「もちろんです。クィツィレア様に協力すると決めましたから、全力でお手伝い致しますよ」


 わたしが笑みを返すと、クィツィレアが真剣な顔になって「それならば、契約を進めたいわ……」と呟いた。


「心梨様?」

「あぁ、何でもありませんわ、凛赤様。さぁ、お茶会を楽しみましょう」


 やっとわたしたちは、優雅なティータイムに突入することが出来た。


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