第96話 現実的主義理論と理想的主義理論の考え方について
「なぁ?」
「うにゃ? ボクを呼んだのかな、お兄さん?」
俺は思わずそんなジャスミンへと声をかけてしまった。別に質問せずともよかったのだが、この際だから聞いてみることに。
「こんなこと聞いたら悪いんだけどさ、ジャスミンは商人なんだよな? ならさ、ギルドに対して何か思い入れというか……怨み辛みもねぇのか? 商人なら、それなりに妨害ってか、邪魔されたりもするんだろ? だったらギルドを倒そう! とか思ったりしねぇのか?」
「っ!?」
「だ、旦那様!? いくらなんでもそれはっ!!」
そんなことを質問するとは思いもしなかったのか、思わずシズネさんが口を挟もうとするのだが、それをマリーが手だけで静止させる。きっとマリー聞いてみたい質問に違いない。俺はマリーがいるにも関わらず明け透けもなく、ジャスミンに質問してみた。
「ギルドに怨み? なんでかな???」
「へっ? い、いやだってギルドって悪いことばかりしてんだろ? それで庶民の生活が苦しくなってるし、ジャスミンだって商人だからこれまで何度も邪魔されたりしてきたんじゃないのか? それにそれに……」
俺は何故かジャスミンを見ているとギルドについての自分の思い、そして考えを打ち明けてしまっていた。シズネさんの時にも機会はあったと言うのに何故今頃こんなことを……しかもその長であるマリーの目の前で熱く語ってしまっているのか? 自分自身の行動なのに意味が分からなくなっていた。
「う~ん。お兄さんが何を聞きたいのか、そしてどんな答えを望んでいるか分かんないけれど、ボクは『どうでもいい……』ってのが本音かなぁ~」
「ど、どうでもいいだってぇ~っ!?」
この世界ではギルドに取り入るために支持する者と、反対に対立し敵視する者の二元論の意見が大半だった。だがジャスミンのそれはそのどちらとも違い、ギルドに味方するとも敵になるとも違っていたのだ。
「うん! だってさ、物事に『表』と『裏』があるように『ギルド』という存在に対して、一概には『良い』『悪い』なんて判断できないんじゃないかな? そりゃ~、ギルドの悪評は西方地方だけじゃなく色々の地方から上がってるよ。でもさ、その逆に『助けられたって人』や『仕事をして生活を維持している人』だって同じくらいは存在しているんだよ? 物事に白黒はっきりさせたいって気持ちは分からないでもないけれども、ギルドだけを敵視して『悪だ!』と決め付けちゃったら、その人達まで否定することなるよね? それに一辺倒にだけ考えを偏らせるのは危険だと思うよ。もしするなら冷静に、そして大局を見てから判断しなきゃ、とても上に立つ人間にはなれないんだよ」
「ぐっ!?」
俺が質問したはずだったのに、今度は逆にジャスミンから質問で責められてしまっていた。確かにギルドが悪なのは周知の事実だったが、逆にそれで生計を立てている人がいるのも現実なのだ。俺はぐうの音しか出せず、たじろいでしまう。
「それに仮にお兄さんの言うとおり『ギルド』を倒せたとして、それで本当に平和が訪れるのかな? ま、ボクのような庶民達にとっての『平和』とやらが何を指し示すかは、人それぞれの考え方次第だと思うけど……。結局は統治する上の頭を挿げ替えるだけなんでしょ? ふふっ。だったら結局はやってることが同じになっちゃうでしょ(笑)。そんなの庶民の暮らしにとって何の関係も無いし、ただ単に名前が変わったくらいの認識しかないんじゃないのかな? ま、そうは言っても確かに最近は物価も上がり、水さえもお金を出して買うから以前よりも断然生活は苦しいかもだけど、それでも働きさえすれば、どうにかその日一日は生きていけてるしね。なら、今の生活を維持しながらどうやってより豊かにするか、それは本人の『努力』と『アイディア』そしてなによりも……『考え方一つ』で大きく変わるんじゃないかな? な~んてボクはいつも思ってるんだけどね。あっそれよりもギルドを倒すなんて発想なんかより、今よりギルドをより良く生かす方法を考える。そっちの方がよっぽど建設的で、より現実的に可能なんじゃないかな? どうお兄さん? これじゃ質問の答えにならなかったかな?」
「「「「…………」」」」
俺達は一様にそのジャスミンの説明に聞き入ってしまっていた。この年で……いや、何歳かは分からないのだが俺達の誰よりも思慮深く、それと同時にモノを見る目と冷静に物事を判断できるジャスミンに驚き、そして声も出せずに固まってしまっていた。
ジャスミンのその考え方は『シズネさんの極論及び暴論』と『マリーの理想論』をも飲み込み、それとまた同時に否定してしながらも、より改良を加えた『理想の形』そのものだった。しかもその理想がより現実的主義と理想的主義とを兼ね備えたモノであり、今まで二人の『是非』か『否か』の極論だった考えへと、一石を投じる新しい考え方だったのだ……。
そろそろコメディの類は終わりにして物語における本質を描きつつも、まだまだ小ネタの引き出しがあるので例に漏れず文字稼ぎしつつ、お話は第97話へつづく




