第92話 人を雇い入れるには資金と一定の売り上げが必要となる
「えっ!? し、シズネさんが普通じゃない感じって、それって……」
俺はその子の的を得た言葉に酷く動揺してしまっていた。何故なら初対面にも関わらずシズネさんが普通ではないと見抜いてしまう、この子に底知れぬ畏怖の念を抱いてしまっていたのだった。
「くくくっ。バレてしまっては仕方ありません。何を隠そうこのワタシは元魔お……むぐぐぐっ」
「シズネさんっ!!」
まさかいきなり自分の正体を告げるとは思いもよらず、俺は自ら元魔王様だと宣言するシズネさんの口元を咄嗟に押さえてしまう。
「へっ? 元魔? えっ? えっ? それって一体……」
「あっはははっ。な、何でもねぇってば! ね! シズネさんっ!!」
「むぐぐぐぐぐっ」
「(しーっしーっ。シズネさん、わざわざ波風立てるような事ばかり口にしないでよ! アンタほんとに何がしてぇんだよ!!)」
さすがに怪しいと感じ取ったのか、その子は眉を顰め必死に誤魔化している俺と口を塞がれているシズネさんを交互に見ていた。
「あーっ! もしかしてお姉さんの正体って、元魔……」
「ぐっ!?」
(マジかよ、マジかよ。さっそくシズネさんの正体がバレちまったのか!? こりゃ観念してこっちから言っちまうか? その方が傷口が広がらないよな?)
その子は俺達の怪しげな行動を見て取り、何かに気づいたように大きな声で叫ぶとシズネさんの正体を口にしようとする。
『シズネの正体を目の前の女の子に対して、正直に告げますか?』
『必死に誤魔化す』嘘はよくないんじゃないかな?
『正直に打ち明ける』できるの?
「(ええい、黙らっしゃい! どうせ誤魔化してもすぐにバレるんだろ? なら、もうこっちから言っちまうからな!)」
俺は意を決したように、女の子にシズネさんの正体を明かすことにした。
「驚かないで聞いてくれよ。実はな、このシズネさんは元魔お……」
「お姉さん、もしかして……元魔法使いさんなんだよね!」
「おぅ~……そ、そう! このシズネさんはな、実は元魔法使いなんだよ! なんだ、さっそくバレちまったのか。こりゃまいったね~、シズネさん~」
俺はどうにか女の子のセリフに自らのセリフを被せることで、どうにか誤魔化すことに成功する。危うくこちらからシズネさんが魔王様だってことをバラしてしまうところだった。
「やっぱりねぇ~。見た瞬間、普通の人じゃないと思ったよ~」
「あ~確かにそうだよな。ってかキミもよく気づいたよな!」
「だってだってそんな黒い格好してるし、魔法の杖なんて持ってるんだもん。誰だって判るでしょ、お兄さん♪」
「あ~っ……あっははははっ。そ、そうだよな。格好で魔法使いだって判っちまうよな!」
言われてみればそれもそうだった。シズネさんはいつもの黒装束……もとい全身黒色のメイド服に身を包み、オマケに杖と大き目の帽子まで被っていたのだ。誰がどう見ても傍目には魔法使いにしか見えず、とてもじゃないが正体が元魔王様なんてのは気づくわけがない事だった。
「ってか、お姉さん、お姉さんは大丈夫なの? 何だか様子が変だけど……」
「へっ? ……あっ!?」
「むぐぐぐぐ~っ!」
そう言われ、ずっとシズネさんの口元を手で押さえていることに気づいた。見れば少し顔が赤から青へと変わっていく様がみてとれる。
「し、シズネさんっ! ごめん!!」
「ぷっはぁ~っ。ぜぇぜぇ……だ、旦那様。い、今のは……さすがに……このワタシでも参りましたよ。綺麗に口と鼻を手で押さえるんですもの。ふ、普通に死にますって……」
俺はすぐさま謝罪する。シズネさんはいつものようには怒らずに、少しだけ弱っていた。尤も、息が出来ないのだから苦しいのは当たり前のことである。
「わ、悪かったってシズネさん」
「……いえ」
さすがにシズネさんも自分の正体を明かそうとしたのを悪ふざけがすぎたのと反省したのか、それ以上は特に追及してこなかった。
「それでどうかな? お兄さん、お姉さん、ボクを雇ってくれるのかな?」
「そ、そうだなぁ~。確かにウチは人手不足だし、キミも困ってるようだし雇ってあげたいのは山々なんだけど……」
俺はそう言い訳を口にしながらも、全権を握るシズネさんに目を向ける。
「う~ん。正直言って、今のウチには人手は欲しいのが本音です」
「えっ!? じゃ、じゃあ……」
「ですが!!」
シズネさんのその言葉を聞いた瞬間、その子は笑顔で喜び前のめりに体を寄越すのだったが、シズネさんが右手を突き出すと勢いを殺ぐようにその動きをピタリっと静止させた。その途端「えっ? なんで?」そう言いたげにその子は不安そうな顔をしてしまう。
「ですが……ウチの店では、まだ貴女を雇い入れる程のお給金を支払うことができないのです。もちろんこれから先は可能かもしれませんが、現時点ではとても無理なお話なんですよ」
「そ、そんなぁ~」
シズネさんがピシャリっと「ウチでは雇いたくても雇えません」っと告げると、その子は今にも泣き出しそうな顔をしてしまっていた。何とかしてこの子を助けてあげたい。それはもちろんウチの店にとっても必要なことだし、これから先も人手不足の問題は常に付き纏うはずなのだ。俺はどうにかシズネさんを説得しようと、無駄だと解っていても言葉を口にすることにした。
「シズネさん、どうにかならないのかな? それにほら、チラシとか朝食セットの提供で少しずつ売り上げも上がってるでしょ? なら、この子一人くらい雇い入れても大丈夫なんじゃないのかな?」
「確かに旦那様の言うことにも一理あるのですが、人一人を雇い入れてお給金を払い続けるほどの資金の問題が……。それに今はお客が付いているにしても、これから先どうなるかは誰にも判りませんよ。もしも再び客足が遠のき、売り上げが下がって仕事が暇になったからと言ってお暇を出すことになってしまいます。それではこの子に期待を持たせた分余計に困ることになるでしょうし、ウチとしても迷惑ではないでしょうか?」
俺は必死に食い下がるのだったが、シズネさんはそう正論で捲くし立て「確かに人手は欲しいのですが……やはり無理ではないでしょうか?」などと、結局は諦めるようにとそんな説得してくる。
「お兄さぁ~ん」
「ぐっ!?」
その子は今にも泣き出しそうになりながら、必死に俺の腕にしがみ付き「お兄さんだけが頼りなんだよ! ボク、捨てられちゃうのかな?」っとウルウルとして瞳で俺を見つめていた。
「じゃあ、これならどうかなシズネさん! この子には……」
俺は捨て置くことが出来ず、この子を雇い入れ、それと同時にウチの人手不足の問題と資金面での解決策をすべて解決できる起死回生の言葉を口にするのだった……。
などとは言ったものの、実は勢いだけでそんなことを述べてしまい、何の打開策もないまま、明日の自分に前振りすることだけは忘れずに次話まで執筆までに何かしらのアイディアを思いつくことだけを祈りながらも、お話は第93話へつづく




