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元冒険者と元魔王様が営む三ツ星☆☆☆(トリプルスター)SSSランクのお店『悪魔deレストラン』~レストラン経営で世界を統治せよ!~  作者: 雪乃兎姫
第6章 ~経営指南編~

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90/240

第88話 疲労への限界と歪み

挿絵(By みてみん)

「はーい、朝食セットお二つ上がりました~♪ 旦那様、お願いします」

「はいよ! こっち終わったらすぐ持っていくから!」

(とは返事をしたものの、今日も嫌になるくらい客が来てるんだよなぁ~)


 俺は客が食べ終わった皿を片付けながら、シズネさんにそう受け答え返事をした。


 チラシ配りと朝食セット提供から数日後、今日もウチの店「悪魔deレストラン」は繁盛していた。最初はそれらの宣伝効果が一貫性のモノとばかり思っていたのだったが、日増しに少しずつ固定客(リピーター)も増え続け、今では安定的にお客が来店するようになっていた。だがしかし、肝心の人手不足は相も変わらず未だ解決できていないのが唯一の懸念材料だった。


「もう疲れたのじゃ~。(わらわ)、このまま浄化されてしまいそうじゃよ~」

「きゅ~」


 連日連夜の激務によりサタナキアさんともきゅ子が愚痴を零している。尤もそれは二人だけではなく、アマネでさえも同じだった。


「こ、これも勇者としての勤めなのだろうか~? 私はいつダンジョンに、そして魔王を倒せるのだろう~……ぅぅ~っ」

「アマネ!? し、しっかりしろよおい!!」


 ちょうど目の前を歩いていたアマネがフラフラ~っとよろめき倒れるその寸前、俺は咄嗟の判断で抱き止めることに成功する。アマネですらもあまりの仕事の忙しさにダウン寸前となり意識が朦朧(もうろう)としながら、自分の自身のそして勇者としての存在意義の不遜(ふそん)を口にしていた。


 ズズーッ。俺は近くに空いていた椅子を引き、アマネを座らせ休憩させてやる。


「アマネ、暫らくここに座って休んでろ。ホールは俺が引き受けるからさ」

「す、すまない~。だがこれしきのことではとても『勇者』なんて名乗れなくなってしまうぅ~」

 

 アマネにしては珍しく、弱気な声でそう俺に謝ってくる。そしてテーブルに突っ伏し、ぐでぇ~っと倒れこんでしまった。どうやら本当に疲れで参っているのかもしれない。


 思えば確かにここ一週間ばかり朝から晩まで休み無く働き詰めで、半日すらの休息時間も無かったのだ。これではどんな人間……いや、魔神()や魔王様だったとしてもさすがに参ってしまうのも頷ける。


「ほら、サタナキアさんともきゅ子も、こっち来て休んでな。疲れたろ?」

「すまんのぉ~」

「きゅ~っ」


 近くで無意味に浮遊しながら、互いにグルグルと追い駆け合っていたサタナキアさんともきゅ子にも声をかけ、アマネと同じテーブル席で休ませてやる。でなければ、このまま配膳中に倒れてしまい怪我をする可能性もあり『危険である』と判断したからである。


「旦那様ぁ~」

「あっ、はいよ!」


 また次の分の料理が出来上がったのか、シズネさんに呼ばれてしまう。シズネさんは今のこの状況を本当に理解しているのだろうか? というか、一番大変な仕事なのにシズネさんは弱音どころか愚痴すらも口にしていない。ほんとに人間……いや、悪魔demo(でも)元魔王様であったのを忘れていた。


「(悪魔……いや、魔王様って社畜体性というか、それにも特質的能力(チート)でカバーできるのかな? でもシズネさんなら「あっはい。そうですよ~♪ くくくっ。むしろこのために魔王様になったようなものですからね!」なんて言い出しそうだよなぁ)」


 それから俺は三人分の仕事をどうにか仕事の手助け(カバーリング)することで、その日のお昼の混雑時(ランチタイム)をどうにか(さば)くことができた。だがそれも俺一人で毎日毎日続けるのには無理があるだろう。もちろん途中から三人も仕事を手伝うのだが、いつものようなキレ(・・)はそこには見受けられなかった。時折休み休み椅子へと座り、いつもの冗談やふざけている様は皆無だったのだ。それだけ疲弊している。そう感じてしまった。


 そしてちょうどお昼の混雑時(ランチタイム)が終了して客足が途切れ、俺達も昼食を取る時間帯にシズネさんに進言する事にした。このままではいつアマネ達が倒れるか判らないし、正直俺だって既に限界になりつつあったのだった。



「なぁシズネさん、マジで人手不足はどうにかしないとダメじゃないかな? アマネ達も相当参ってるみたいだしさ」


 俺は賄い飯であるナポリタンを作っているシズネさんに話しかけながら、未だテーブルへと倒れるように寝ているアマネ達を尻目にそんな提案をしてみる。既にシズネさんへは何度も言ってきたのだったが、未だ満足できる回答は得られていない。


「ええ、ワタシだってもちろん理解しているのですが、特にコレと言った良いアイディアが浮かばないんです」


 ジュ~ッ。シズネさんは少し俺の方を見ながらも、そのまま調理を続けている。だがその言葉にはいつものような自信もまた覇気も無く、そこで「シズネさんも疲れているんだ」ということに嫌でも気付いてしまった。


「(そりゃそうだよな。俺達の中で一番大変な調理を一手に請け負ってるわけだし、それに調理以外のことだって全部シズネさん任せだもん。疲れるに決まってるよな……)」


 先程まで俺は「シズネさんは疲れ知らずで、何でも出来るんだ!」と自分勝手に思い込んでいた事を恥ずかしくなってしまう。俺達のように口にこそ出さないが、シズネさんも相当疲れているのだ。


「じゃあさ、人手増やさなくても休息日……いわゆるお店の『定休日』を決めたらどうなのかな?」

「えっ? 定休日ですか? お店の?」


 そこで初めてピタリっとフライパンを振るう手を止め、シズネさんがこちらの方へと体を向けた。一瞬「おっ!」っと俺もシズネさんも互いに思ったのだったが、シズネさんはすぐに正面を向いて調理を再開し始めた。


「よっと♪ ふぅ~っ。確かにそうかもしれませんね。……ですが、今お店を休んでしまえばお客は離れて行ってしまうでしょうね」

「えっ?」


 ジャッジャジャーッ。フライパンで麺とソースと具材などが絡み合い、ようやくナポリタンが完成した。そして火を止めるとシズネさんは改めて俺の方へと体ごと向き直すと「今は休めない」と言ってきた。「どうして?」俺はそんな表情を浮かべていたのかもしれない。シズネさんはそんな俺を納得させるように、そのまま言葉を続けるのだった……。



 どうしてお店を休めないのか? その理由を次話までに考えつつ、お話は第89話へつづく

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