第87話 飲食店における人手不足と更なる問題点の露呈について
「ふぅ。今日はマジで忙しかったなぁ~。あーうー」
ようやく一日の労働を終え、俺は椅子に背中をもたれかけるようにうな垂れ唸り声を上げしまう。それもそのはず、チラシ効果と朝食セット提供のおかげで今日は昼食すら取ることもままならないほど、忙しかったのだ。どうにも他の連中はいつものように客に交じって仕事中、各々飯食っていたようだがな!
明日以降もこれがずっと続くのだろうか? そうなるといよいよ人手不足が如実となってきていた。
「ね~え~シズネさん。人、増やさないの~?」
俺は疲れきっていたため、普段のそれとは違い明け透けも無くシズネさんへと質問する。
「うーん。そうですね~。良き人でもいれば良いのですが、これがなかなか……」
「そっか。難しい問題だもんね」
意外や意外シズネさんには珍しく、人手確保についてだけは自信なさげな表情を浮かべている。まぁ尤もそれも納得できる事柄かもしれない。
飲食店は仕事が忙しいわりに『薄利多売』なのだ。もちろんいわゆるフードコストなどの原価率は三割ほどと、その内情を知らないお客達からすれば一見著しく低いように見受けられるのだが、そこからいわゆるレイバーコストつまり従業員の給料、福利厚生と賄い飯の費用、皿やジョッキを洗うための洗剤などの消耗品、テーブルや食器などの備品、それにお店の家賃や『儲け』なども当然考慮しなければ、お店を維持し続ける事は困難なのである。
それに以前のウチもそうだったのだがお客達が集中する時間帯が昼と夜に限られるため、お客が少ないアイドルタイムにも従業員に給料は払わなくてはならない。もちろんその間に店内の掃除や食材加工などの仕込みなど仕事は山のようにたくさんあるのだが、それらは売上を発生しないので従業員を多く抱えていると、その分儲けが出ていてもトータルではマイナスとなってしまう。
よっていくら店が忙しいからと言って、おいそれと人手を増やす事が躊躇されてしまう。また展望が判らないままならば雇用を増やす行為は愚作とも言える。
また従業員は一度雇ってしまえば「お店が暇なので、貴方すぐに辞めてください」「今の時間帯はお客がいないので、給料にはなりませんから」などとは言い難いし、それをしてしまうと悪い噂が広まってしまうので、後々人手確保しようとする際の足枷となってしまう。だからある程度お店が流行る見通しが無いならば、どこの飲食店でも『現状維持する』ことが精一杯の努力だと言えるだろう。
一口にお店の経営すると言っても最低限これらの事柄を考慮しなければならず、そこに新メニュー開発や接客、宣伝や周りの店と仲良くしたり、お店の改装や別の業態展開などありとあらゆる面を常に考えなければならないのだ。
「だが、シズネはこれから事業展開とか抜かして『宿屋』や『クラン』を開くつもりなのじゃろうに? ならば人手確保は避けては通れん話なのじゃぞ」
「むむむっ」
横からサタナキアさんがシズネさんに対して苦言を呈していた。それがまた珍しく正論すぎる正論だったため、シズネさんも何の反論もできない様子。
「そうだなぁ~。それにお客を飽きさせないために『ショー』などもするのだろ? あと最低でも二人くらいは欲しいところかもしれないなぁ~。今のままでは店を回すだけでも精一杯だし」
「もきゅ~」
アマネも自分なりの考えを述べ、もきゅ子も「そうだよね~」っと納得している。それにいつまでも休み無く働き続けるなんて到底無理な話であろう。人数がそれなりにいればローテーションを組み交代で休むこともできるので、やはり人手確保は急務の案件に他ならない。
「あの~、それならばギルドで募集をされてはどうでしょう? 『依頼』ということになれば、皆さん受けてくれると思いますけど……」
「ウチで? それはちょっとどうかしらね。それはそれで私は問題も多いと思うわよ、アヤメ」
今日は珍しくマリーとアヤメさんが夜まで店に残っていてくれた。と言ってもシズネさんが強引に「まま、お食事を出しますので……」などと口八丁で繋ぎ止め、今の今までずーっと働かせていたのだった。
「問題? でもアヤメさんの言うとおり『依頼』ってんなら、人手は容易に確保できると思うけど……それに何の問題があるって言うんだ?」
俺は相槌を打ちながらも、二人の意見に耳を傾けていた。マリー達は立場こそギルド側だろうが、色々な思惑が絡み俺達に協力してくれている。また知識もあるし、顔も広い。それに議論するならば人が大いに越した事はなかった。
「旦那様、依頼を出すということは必ずギルドを通す……ということになるのですよ。旦那様も元冒険者なのでご承知だとは思いますが、そこには依頼報酬に対するギルドへの手数料がかかるのです」
「ああ、そっか。そうなると余計人件費……給料払う分が増えることになるよね」
要はギルドへ依頼を貼ってもらうと人手の問題は容易に解決できる。だがそこにはギルドへの依頼掲載に対する手数料が発生するので、トータルで言ってしまえば大損してしまうのだ。
「ええ。余計な間を通す事で人件費も更に嵩みますし、元々の基本報酬も高くなりがちになるのです。またそれにいくら冒険者に依頼すると言っても、接客や調理などをお金を取るプロとして仕事ができる人が少ないでしょうし、また依頼は短期が主です。それだと人を雇う度に一から仕事を覚えさせないといけないので、効率がかなり悪くなりますしね」
言わば今のウチに必要な人材とは料理も接客もでき、それと同時に長期で働き賃金もあまり望まない人ということになる。果たしてそんな人が存在し得るのだろうか?
次話までにどうにかそんなご都合主義の人材を創造することを念頭に置きながら、明日の自分へと無駄に前振りをしつつ、お話は第88話へつづく
<補足説明>
※原価率=販売価格に占める割合。要は値段に占める材料費の割合比率のこと
※アイドルタイム=お昼から夜までの間。つまりお客が少ない時間帯を指す名称のこと
※展望=お店の将来。お客が増えるのか、減るのかなど未来予想図
※店を回す=与えられた仕事をこなす。




