第82話 金ヅルの捕まえ方とその締め上げ方のレクチャー
「だ、大丈夫だから今取ってやるから、そこで止まれってばっ! そんな動いてたら外したくても外せねぇんだぞ!」
「も、もきゅ! きゅ、きゅ~っ」
俺は強い言葉で静止させると納得したのか、「そ、そうだよね! 早く、早く助けてよぉ~っ」っと嘆きの鳴き声が聞こえてきていた。
「んっ! もう大丈夫だぞ~、もきゅ子」
「もきゅ? もきゅきゅ~♪」
どうやら頭部は外れなかったのではなく、単に重くもきゅ子の力では持ち上げる事ができなかっただけのようだ。俺がいとも容易く持ち上げてやると、可愛いもきゅ子のお目見えする。そして苦しみからの解放と嬉しさから俺へと飛び抱きついてきた。
「もきゅ子、そんなスリスリしたらくすぐったいだろうが~」
「もきゅもきゅ♪」
まるで俺が「命の恩人だ!」という勢いでもきゅ子は俺に甘えていた。何だかそんな姿・行動がとても愛らしく感じてしまい、頭を撫でたり背中を擦ったりして落ち着かせてやる。
「すんすんっ。ほ、ほんと助かって良かったですね~、もきゅ子ぉ~。これには、ワタシでさえもついつい涙を貰ってしまいますよ。(チョンチョン)ぅぅぅっ……」
「そ、そうだね……うん」
(シズネさん、自分でもきゅ子に頭被せておいて、何にを感動しようとしてんだよ? てめえが原因なんだろうに棚上げしてんじゃねぇぞ、コラッ! あと俺達が見てる目の前でよくもまぁ~目薬点せるよなぁ。ほんと良い度胸してるわ)
そのシズネさんのあまりにもあざとすぎるき真似に若干顔を引き攣らせ、これ以上波風立てぬよう賛同する。
「はいはい♪ じゃあ客引きの見世物も終わりましたし、そろそろチラシ配りを始めましょうか♪」
「(こ、これって見世物だったのかよ……)」
シズネさんはパンパン♪ っと景気良く手を叩き鳴らすと「何事か?」っと、集まってきた客達に対してチラシ配りを始めていた。どうやら今の騒ぎを利用して、惹きに使う腹積もりらしい。
「なぁ。ちょっと聞くけれどよ、これって店の出し物だったのか? とてもそうは見えねかったんだけど……」
「うむ……実はそうなのだ! ちなみに店では毎日このような催しモノが無料で見られるのだぞ! 是非とも来店するがいいさ!!」
アマネ達もそこらにいる客達に色々話しながら、チラシ配りを始めた。
「(ってか、アマネよ。普通に販売促進してんじゃんか! 勇者らしい勇ましいチラシ配りの件とやらはどこいったよ? あとそこはいつもの歌舞伎役者じゃねぇのかよ……)」
アマネはまるでそこらに突っ立っているアルバイトのように、極々普通な感じでチラシ配りをしていた。
「ほれ、そこの若いの。これがチラシなのじゃよ。是非とも店に来て下さい!」
「あ、ああ分かった……ってかこのチラシ、真ん中から破けてるぞっ!? しかも剣が浮いている上に言葉を喋っているだと!?」
サタナキアさんもサタナキアさんなりに、自らで突き刺し貫いたチラシを若い冒険者へと渡していた。だが如何せん抜き身の剣が浮遊して人間の言葉を喋っているのだ、その誰もが驚きの声を上げてしまっていた。
「まぁ街にダンジョンがあるくらいだしな、今更驚く事でもねぇだろ若いの?」
「ああ、そういえばそうだよな! あっはははは」
少し年上の手慣れ風の冒険者に肩を叩かれながら諭され、その若い冒険者も納得しながら笑っていた。これは陽気とも言うべきなのか、はたまたあまり細かいことは気にしないのが冒険者の良いところなのかもしれない。
「あっ、そこのいかにもお金持ち風なご老人! どうですか? 朝食をウチの店で食べていきませんか? 今ならご注文時にこのチラシをご提示していただければ、なんとなんとですねぇ~、お客様だけ特別に料金割り増しにて料理をご提供させていただきますよ~♪ さぁどうぞどうぞ♪」
「なんじゃ、ワシだけを特別扱いしてもらえるのかい? じゃが他のお客の手前、そんなことをしても大丈夫なのか?」
「ええ、ええ。お客様をパッと見た瞬間、金ヅル……じゃなかった上品な感性の持ち主だとワタシはすぐに気付きましたよ♪ ですから他のお客様とは別の特別対応させていただきますです、はい~♪」
「おやおや、お嬢さんは眼力もあるのじゃのぉ~。確かにワシャ、金なら呻るほど持ち合わせておるわ」
シズネさんはお金持ち風のおじいさんを捕まえ、チラシを配っていた。というか、相手が金持ちだと知るや否や、腕をガッシリと捕まえ毛頭逃がす気はないように思える。
「(しかもすっげぇ不安な言葉を耳にしたんだけどさ、何々このチラシをあのおじいさんが提示すると何故だかあら不思議、何故か料金が水増しになっちゃうの? ……普通、それ逆じゃね? 割り引きされるならまだ話は理解できるけど、割り増しされるなんて見たことも聞いた事もないわ! まぁ今し方目の前で見てもいたし、聞いちゃってたから矛盾しちゃうんだけどね。あといつもながらシズネさん、言葉遣い悪すぎっ!!)」
俺はこの世の摩訶不思議な出来事を目の当たりにして、驚きを隠せずにいた。というか、驚くなという方が無理と言える光景であった。
「じゃが、ワシャ~年でのぉ~。実はあんまり食べられないのじゃよ。それにほら注文して残してしもうても、お嬢さんにも悪いし食べ物も勿体ないしのぉ~」
「(お~っと、ここでおじいさん、飯あんまり食べない発言でシズネさんの猛攻を防ごうとしているぞ~。どうする? さぁシズネさんはどう反論するんだい!)」
俺は見物とばかりにシズネさんの動向に注目せざろう得なかった。何せ相手はあんまり食べられないと宣言しているのだ。普通の飲食店ならもうお手上げ状態である。ここからどう逆転できるのか? その一挙手一頭足が気になってしまう。
「あっ、そうなのですか? まぁ別に食べなくても注文してお金だけ払ってくれれば、ウチとしてはそれだけでもいいですよ。あとはそこいらの店員の賄い飯に回したり、隣のお客にそのまま提供いたしますのでね。ま、早い話観賞用の食べ物みたいな存在ですよ。絵とかも見るだけで食べられませんよね? あれと一緒一緒♪」
「ほぉほぉほぉっ。お嬢さんはとても商売上手じゃのぉ~。そのように言われてしまっては、ワシも注文せずにはいられなくなってしまうわい。こちらのお店で良いのじゃな?」
「(…………ごめん。あのさ……何が? あのじいさんとシズネさんが何言っちゃってるのか、俺全然理解できねぇんだけどさ。マジで誰か翻訳してくれるか? もしかして二人揃ってボケてんのかな?)」
シズネさんは適当な屁理屈と、適度なリサイクル精神旺盛を垣間見せながらおじいさんに猛プッシュしていた。そしておじいさんもとうとう折れたのか、シズネさんに誘導されるまま店の中へと入って行ってしまう。
「金ヅル一名様ぁ~、ご来店で~す♪」
シズネさんも付き添い店の中に入るその瞬間、俺の方をチラッと振り向き「あとは頼みましたよ、旦那様。ワタシはこのおじいさん……もとい金づるをもきゅ♪ っと全財産締め上げるので忙しいのでね♪」っとアイコンタクト交じりにコクリっと頷き、目配せをしてきた。
「あっはははは」
俺は渇いた笑みを浮かべながら、軽く右手を挙げて応える。正直、アレには関わらない方がいいと本能で悟ったのかもしれなかった……。
通りでお金持ちを見かけたら常に料金割り増し精神旺盛に宣伝をしつつ、お話は第83話へつづく




