第76話 茶紙に包まれたモノの正体
「ふふっ……」
「……えっ? し、シズネさんっ!?」
「いいいい、いつからそこで見ていたのだ!?」
小さな笑い声が聞こえてくると振り返ると、そこには食器を持ったシズネさんが壁からこちらの様子を窺うようにいた。
「あっ、すみません。ですがお二人共、ようやく仲直りされたのですね」
「あ~っ。はははっ(照)」
「ぅぅっ(照)」
シズネさんに図星を指されてしまい俺達は互いに頬を赤らめてしまったり、頬を指で掻いたりしてしまう。アマネに至っては見られていたのが恥ずかしいのか、下を向いていた。
「うんうん♪」
「シズネさんは最初から分かってたんだろ? まったくもう~」
嬉しいのかシズネさんは俺達を交互に見ながら納得するように頷いていた。俺は「なら、最初からすっ呆けないでよ~」っと尽かさず軽いツッコミを入れた。
「いえいえ先程までは『お二人が何やらいつもとは違う……』そのように感じ取りましたが喧嘩しているとは知りませんでしたよ」
「あっ、そうなの? いや……でも」
確かに朝食を配膳していた時のシズネさんは普段とは違い、とても動揺というか困り果てた顔をしていた。あの時点では気付いていなかっただろうが、俺達の余所余所しい態度で感じ取ってくれたのかもしれない。
「お二人がどうして喧嘩をなさったのか? その事情の程は存じ上げませんが……どうせアマネが入浴しようと着替えようとした際に、タイミング良く旦那様がいらして上下下着姿のアマネとバッタリ遭遇。でもって乳繰り合いながらワタシが業と床に零した水滴アマネが足をとられ倒れこんだ挙句、今度こそ文字通り乳繰り合ってから気まずい雰囲気になられたくらいのお話なのでしょ?」
「「…………」」
(いや、普通に俺達の事情とやらを存じ上げちゃってるじゃねぇかよ。そりゃも~う、最初から最後までさ! 何見てたの? それとも元魔王様だから感覚的なモノで推理できちゃったの? マジでチートすぎるだろ……)
シズネさんのあまりにも的確な推理に愕然とし、俺もアマネも一言も発することができなかった。というか、ぶっちゃけ何てそれに答えればいいのか分からないので、……で手抜きしてみたい年頃。
「ま、仲直り成されたのならば、良いでしょう。それにいつまでも喧嘩をしていると仕事に差し支えますからね! というか、いつまでも照れ照れしていないで、お話を本編に戻させていただきますからね!」
「あ、ああ……ごめん」
「ぅぅっ……すまない」
俺達はシズネさんに怒られてしまい、謝ることしかできなかった。そうして「せっかくの朝食の雰囲気を気まずくしたバツだ!」と言うように、三人分の使い終わった皿を渡される。さすがに今回はこちらに落ち度があるので、素直に受け取りアマネ共々洗い物をすることにした。
きっとシズネさんなりの気遣いなのかもしれない……と思い込みたい。
「ふふっ。先程はシズネにしてやられてしまったな」
「まさかああも的確に言い当てられるとは思わなかったけどな。というかシズネさんのあの能力、あまりにもチートすぎるだろ……」
「確かにな。でもシズネならば不思議ではないんじゃないか?」
「まぁ……そうだな。シズネさんなら何をしても、どんな困難があったとしても軽がると乗り越えちまうイメージあるよなぁ~」
俺もアマネも皿を洗いながら、シズネさんについてアレコレと話し盛り上がってしまう。こんなとき共通の悪口を言うもので、人は意思の共通を自然と図るものなのかもしれない。尤もシズネさんのそれは「シズネ(さん)なら……不思議じゃない」という悪口というか、負け惜しみに近いかもしれなかった。
そうして俺達は皿を洗い終えると、先程とは違いテーブルへと戻るのに躊躇しなくなっていた。どうやらいつの間にか心が軽くなり、そのような些細なことを気にする必要もなくなったのかもしれない。
「ふぅ~。シズネさん、皿洗い終わったよ……って、アヤメさん?」
「あっユウキさん。おはようございます♪ 今朝は良い天気ですね~♪」
濡れた手をタオルで拭きながら戻ると、そこには何故かアヤメさんが居たのだ。何故こんな朝っぱらからアヤメさんがウチの店に来たのだろうか? 当然ながら食事をしに来たにしてはあまりにも早すぎる。
「お、おはようアヤメさん。……うん、そうだね。ちょっと暑くなりそうな天気になるかもしれないね」
「ええ♪ ですがその方が良いかもしれませんね~♪ あっ、アマネさんもおはようございま~す♪」
返しの朝の挨拶をしながら、一応アヤメさんの天気の話しに合わせてみることに。このような時には『挨拶』と『天気の話』はもはや王道と言えるかもしれない。
「うむ。おはよう!」
「それでアヤメよ、お主何用でここに参ったのじゃ? まさか朝食を食べに来たのではあるまいに……それに先程から手に持っておる茶紙は何なのじゃ?」
アマネもアヤメさんに挨拶を返す。だが空気を一切読まないサタナキアさんは「とっとと話を進めよ!」とアヤメさんにウチに来た理由を問い質していた。
「あっサタナキアさんも、もきゅ子ちゃんもおはようございます♪ ええ、実はですね……」
「もきゅ!」
「う、うむ……おはようなのじゃ」
(どうもコヤツと話すと調子が狂うのぉ~。ハッ! も、もしやコヤツ……妾が狙っているメインヒロインの座を奪うつもりなのかえ? ぐぬぬ~っ。ちょ、調子に乗りおってからにぃ~)
「(すっげぇサタナキアさんの聖剣フラガッハの剣身からドス黒い霧のようなオーラと、心理描写が聞こえてくるのは気のせいなのだろうか? ってか、アンタまだメインの座狙っていやがったのかよ」
アヤメさんは丁寧に頭を下げ挨拶を交わすと「そうでしたそうでした……」っと言われて思い返すように、ガサガサっと茶紙で覆われたそれを破くと中のものをテーブルにドンっと置いた。
「ジャーンなのです♪ 昨日依頼されていたチラシなんですよ~♪」
「「「「お~~っ♪」」」」
「もきゅ~♪」
アヤメさんが持ってきた茶紙の正体は、なんと昨日彼女が絵を描いてくれたチラシ印刷だったのだ。昨日依頼したのは確かだったが、こうも早く……それもこんな早朝にこうしてわざわざ届けてくれるなんて。きっと昨日あれから帰ってすぐに印刷してくれたのかもしれない。もしかすると徹夜で作業してくれたのかもしれない。
俺はそんなアヤメさんに感謝の言葉を述べようとしたのだったが、改めてチラシに目を落とすと気付いちゃいけないことに気付いてしまった。
「んっ?」
「あれ?」
「これは?」
「なんじゃなんじゃ?」
「きゅ?」
そして一緒に覗きこんだ他のみんなも俺同様にそのチラシに描かれたモノを見て、戸惑いの声を上げてしまった。何故ならそこには……
<ちはやれいめいさんからのコラボアート提供>
『悪魔deレストラン&アンパンダー』と堂々と描かれたチラシだった……。
その内タイトルにすらアンパンダーの文字が躍り出てしまうかもしれない……などと不安に怯えつつ、お話は第77話へつづく




