第74話 文字オンリーならではの強みとノーイート・ノーライフ
「もきゅもきゅ♪」
「ほれ、小僧よ。もう朝なのじゃぞ~。さっさと起きるがよいわ!」
「ん~っ? もきゅ子ぉ~、サタナキアさん~? ぅぅっ……ま、眩しいっ」
俺はいつの間にか深い眠りについてしまったようだ。この数日ロクに寝ていなかったため、これでも十分な睡眠時間とはいえないが不思議と体の疲れが残っていない。どうやらちゃんと寝さえすれば、体力が全回復するご都合主義の極みのようである。
「まったく小僧は朝が弱いのじゃのぉ~。早く起きねば朝食を食べ損ねてしまうのじゃぞ」
「ん~……そうだね~。ふわあぁぁぁ~っ。でもまだやっぱり眠いや~。もう朝食とかいらないんじゃないかな~。どうせ寝れば全回復するし~」
未だ覚醒しないボンヤリとした頭のまま、サタナキアさんの言葉にうな垂れるように頭を下げて返事をする。
「お主は良くとも、妾ももきゅ子も腹ペコなのじゃぞ! まったく仕方のないヤツじゃのぉ~……ほら、気付けなのじゃ!」
「ん~気付ごふっ……うごごごごごっ。ま、マジ痛ぇ~っ。いや、冗談抜きに死ぬからな……それはっ!!」
なんと『気付け』と称してサタナキアさんが、俺のがら空きの鳩尾付近に柄の部分で当て身をしてきたのだ。俺は朝一発目から既に多大なダメージを受けてしまい、昨日寝て全回復したはずの体力を強制的に減らされてしまった。
「わ、悪かったのぉ~っ。す、少し加減を間違えたのじゃよ。別に良いじゃろうに……許せよ!」
「いや、さっきのは完全殺る気できやがった打撃だったぞ! ……ったくもう」
「きゅ~っ」
サタナキアさんは開き直りとも取れる謝罪をしてくれた。俺はこれ以上文句を言っても仕方が無いと、ようやくベットから起きることにした。そして朝から体力ゲージが既に赤色を示している俺を心配してか、もきゅ子が「ぽんぽん大丈夫なの?」っと優しくお腹を擦ってくれていた。
「あ、ありがとうなぁ~……もきゅ子ぉ~」
「きゅ~っ♪」
こんなときに優しくされるのがとても嬉しく感じ、俺はもきゅ子の頭をそっと撫でてやった。もきゅ子も優しく頭を撫でられて気恥ずかしさと共に、とても嬉しそうに鳴いている。だが生憎と……それは表面上のことだった。
何故なら俺の腹には『撫でる』と称されたもきゅ子の爪が突き刺さったおかげで、更に少ない体力をドンドン減らしていたのだ。だがそれはもきゅ子の手前、口には出すべきではないだろう。そして文字通り、もきゅ子の優しさが痛いほどに沁み渡ってきていた……主に俺の腹に刺さった鋭い爪を中心としてな!
「旦那様ぁ~、もう朝なのですよ~。体力ゲージ真っ赤にして遊んでないで、早く下りて来てくださいね~」
「……う~い」
(だから何であの人にはすべてお見通しなんだよ。マジで監視でもされてんじゃねぇか、この部屋は? あと朝っぱらから赤表示になってるのは、どうみても遊びの範疇じゃねぇよ。いくら主人公補正持ってる俺でも下手しなくても、普通に死ねるんだぞ)
一階から起こしてくれるシズネさんの声に受け答えをしつつ「も、もう大丈夫だからな……」っと、もきゅ子を……そして腹に刺さっている鋭い爪を退かすことに成功する。そうして簡単に身支度を整えるともきゅ子を抱き抱え、ついでにいつものようにファ~ン♪ ファ~ン♪ っと口ずさみながら浮遊するサタナキアさんを従えて朝食を食べるため、一階に下りることにした。
「(昨日寝て回復したはずなのに、速攻で体力減らさせるってどういうわけなんだよ? マジで明日あたり『ベットの上で寝ていたら、いつの間にか棺になってました~♪』って状態になっても何ら不思議じゃねぇよな。この物語の主人公、実は『棺』だったんです! みたいなさ。……いやいや、どんな物語だよそれは? もうそれじゃ出オチじゃねぇか……)」
俺は残り少ない体力でどうにかこうにか、ボケとツッコミを心理描写で用いつつ一階まで下り立った。そしていつものように指定席であるテーブル席へと座る。以前は俺だけ別のテーブルで朝食を食べていたのだが、椅子を詰めればどうにか五人(?)座れるため共にテーブルを囲うことにしていた。
何気にサタナキアさんは空中に浮遊してるクセに、「妾も自分の席が欲しいのじゃ!」とか言いやがって、わりかし面倒な感じだった。きっと無意識下で『聖剣フラガラッハ』に封印される前の実体を思い出して、そんなことを言っているのかもしれない。
「あっ……キミ。そ、その……おはよぅ(照)」
「お、おうアマネ。あ~……うん。……おはよ(照)」
昨日の脱衣所のことがあったせいか、俺とアマネはどこかぎこちない雰囲気のまま朝の挨拶をする。だが未だ気恥ずかしさが残っているため、最後は互い消え去りそうな声になっていた。
「うん? お主らどうしたのじゃ? 互いに顔を赤らめおったりしてからに? もしや風邪でもひいたのかえ? それなら妾にだけは移すではないぞ! 妾の体は絹のように滑らかで繊細じゃからのぉ~」
「きゅ~?」
「あっ、いや……何でもねぇよ。な?」
「あ、ああ。そうだとも……別に何もないのだぞ! 変に勘繰ったりしないで欲しいな!」
何とも言えない俺達の雰囲気をサタナキアさんに指摘され、互いに誤魔化すようドギマギとした態度を取ってしまう。ってか、本体ねぇクセに剣に人間の病気移るのかよ? それはいやに人間らしすぎやしないか? ……ん? そもそもサタナキアさんは魔神なんだよな? 魔神……魔を司る神……一応紛いなりにも、神様が風邪ひいちゃダメじゃねぇのか?
「は~い♪ 皆様ぁ~朝食が出来ましたよ~♪ ……おや? どうされたのですか?」
「いや、何でもないよ。それよりも……おおっ! 今日もシズネさんの朝食は美味そうだなっ! いただきま~す♪ もぐもぐ……あーうめー♪」
「だ、旦那様……?」
「お、おおっ本当だな。確かに今日もシズネの料理が美味い美味い! これは毎日でも食べたくなる味だな~♪」
「あ、アマネ……?」
明るく朝食を運んで来たシズネさんも雰囲気を察してか、とても不思議そうな顔をしていた。「このままではマズイだろう……」そう思った俺とアマネは、まるで示し合わせたように大げさなリアクションをしながら、シズネさんお手製の朝食に舌鼓交じりに感想を述べ必死に誤魔化すことにした。
「あの、お二人共……」
「な、何さシズネさん。俺とアマネは普通だよ。何勘繰ってんのさ~」
「そ、そうだよ。私達はいつも通りなのだぞ。どこも可笑しなところはないからな!」
だが先程よりもシズネさんの顔は困り果てた顔をしていたのだ。もしかするとそれは……俺達の怪しい言動がより不信感を助長させたのかもしれない。
「いえ。あのワタシ……まだ朝食を配っていなかったのですが……」
「ぶっ!? ほほほほほ、本当だね。おおお俺達、今まで一体何を食べたんだろう? なっアマネ! あっはははははっ」
(たたたた、確かにまだ朝食を配った描写なかったわ!? というか、俺達今何を食べてたんだよ!? これじゃあ俺もアマネもテンパリすぎだろ。あといつになくあのシズネさんでさえ引いてる事態だぞ!?)
「ごほっごほっ。ほ、本当だな。もしかするとこれが今流行りの食べる真似事かもしれないぞ! はっはっはっ」
見れば本当にシズネさんはまだ両手に朝食セットを持ったまま、とても困惑した表情で立ち尽くしていた。どうやら俺とアマネが早とちり……どうやらそこまで頭が回らず、混乱していただけかもしれない。
こんなボケは絵が無い文字オンリーならではの強みであろう。俺とアマネはまさに、web小説界の非金字塔を共に打ち立てようとしているのかもしれなかった……というか、こんなのは絶対アニメ化の際に再現するのは到底無理な話と言えよう。
「は、はぁ? あの、どうぞ……」
「こ、今度こそ……いただきま~す♪」
「わ、私もいただきます!」
コトリッコトリッ。そしてようやく小鳥さんを二羽呼ぶ感じで、各自の目の前に朝食が置かれはじめた。困った顔と複雑な顔が入り混じっているシズネさんを尻目に、俺もアマネも全力で食べる食べる食べるぅぅぅぅっ!!
もう補足説明文ですら、勢いで誤魔化さないとやっていられないこの状況。文字オンリーの小説ならではを生かし、俺達は勢いに身を任せるのだった……。
常にweb小説の特性を頭の外に置きつつ、お話は第75話へつづく




