第71話 桃源郷の終焉と迫りくる赤いお尻
「も、もきゅ子ぉ~。誤解してシズネさんとか呼ぶんじゃねぇぞ」
「……も、もきゅ!」
「……うん? 誰か来たのか? この声は……もきゅ子なのか? ちょうど良かった。助けてはくれないか?」
「きゅ、きゅ~っ?」
もきゅ子は素直な性格なのか、俺とアマネの言葉を理解したかのように頷いた。だがどうしたら良いのか分からずに「ど、どうすればいいのかな~っ?」っと俺達の周りをウロウロしている。
「も~~きゅ~~っ! きゅきゅ~♪」
「うわあぁぁぁっ!? ここここ、コラーッ!! (照)キミそのようなところ触れないでくれと、先程から頼んでいるだろうっ! もしかして……お尻フェチなのかっ!? そうなのだな!」
「俺じゃねぇってばよっ!! もきゅ子だ、もきゅ子っ! 確かにまぁ~……嫌いじゃねぇけどさっ! ……ああ、むしろ大好きだよ俺はっ!!」
だがやはりそこはドラゴンの子供なためか、もきゅ子はアマネのお尻目掛けてダイブしてスリスリっと顔を擦り付けていた。アマネはアマネでお尻にもきゅ子からの抱きつきを受け、そして何かが自分のお尻に触れている感触を俺がしていることだと勘違いしている。
「きゅ~♪ きゅ、きゅ、きゅ~っ♪」
「クッソぉ~。それは俺がやりたかったヤツなのに……ぅぅっ。主人公で……主人公でなければなぁ~っ!! 主人公と言う縛りが無ければ、今のもきゅ子のように色々と……」
「き、キミは何を言っているのだっ!? 心の声が駄々漏れになっているぞ!」
「し、しまった!? 普通に欲望が口から漏れちまってた!?」
もきゅ子は下着の感触が大層気に入ったのか、未だスリスリしている最中。俺も俺でその光景を真下から覗き、羨ましくとも嘆きの言葉を心理描写でつい口にしてしまっていた。きっと性がそうさせたのかもしれない。
「こ、コラもきゅ子! そんなにアマネのお尻……いや、下着の感触に酔いしれていないで俺達を助けてくれよ!」
「そ、そうだ。いつまでも読者サービスは危険すぎるのだぞ!」
「きゅ~? ……きゅ、きゅっ!!」
そうやく自分の行動が間違いだと気付いたのか、もきゅ子は慌てた様子で「そ、そうだったよねっ!!」とようやくアマネお尻から離れてくれた。
「むぎゅっ」
「きゅ~」
まぁその際、ちょうど運悪くもその真下に顔面を曝け出していた俺の顔目掛け、もきゅ子がお尻から落ちてきたのは言うまでもない。体重がそれほど重くないとはいえ無防備に顔を曝け出していた所に落ちたため、軽い衝撃と視界一杯に近すぎる赤い色が覆ってしまう。もきゅ子は「ごめんね~」っと謝るように鳴いて謝罪した。
俺の駄々漏れ真っ盛りの桃源郷への欲求は奇しくも、もきゅ子のお尻によって補完されることとなった。一応もきゅ子も女の子だから、これは俺得になるのか?
「もきゅきゅ~」
「お、おお……ありがとう。助かったぞ」
「よ、ようやく解放されたかぁ~。はぁ~っ」
(も、もう少し……ほんのもう少しだけ楽しみたかったなぁ~。というか、今からでもあの桃源郷に帰りたいなぁ~)
もきゅ子の助け(?)を得てどうにかアマネが起き上がることに成功すると、俺は柔らかい重みという名の感触と共に、天国とも言える桃源郷の光景とを同時に失ってしまった。その喪失感と言ったら、言葉で、そして文字で言い表せるものではない。
「(ちぇっちぇっ。ドッキリハプニングもう終わりなのかよ……ちっ)」
「うん? なんだか、キミは残念そうな顔をしていないか? もしかして先程のことを喜んでいたのか!? きっと私のお尻とピンク色の下着から『桃源郷』だとも名前でも付け、そして太ももに乗る自由自在に形を変えてしまうほどの柔らかな胸の感触を秘かに楽しみ、『ああ、いつまでもこの天国でいたいなぁ~。あっ。なんだよもう終わりなのかよ? ……ちっ』などと思っていたんじゃないのか!?」
まるで俺の心の内を見透かすかのように、アマネは的確にも鋭く切り込んできた。
「い、いや違うって。ようやく重さと息苦しさから解放されて、息ついて安心してんだよ。だ、だから誤解するなよな」
(なんだよ、その状況把握能力はよ。チートなの? ああ、勇者だから無駄に能力補正でもかかったのか? というか、最後に舌打ちしたのまで当てやがるなよな……)
「う、うん? そう……なのか? ご、誤解だったらすまないことをした。んっ!」
俺の言い分に納得したのか、アマネは疑問交じりに首を傾げながらも謝罪すると、「ほら、キミもそろそろ立ったらどうなのだ?」っと右手を差し出してくれる。
「あっ、わ、わりぃな」
「ふふっ。構わないさ。むしろ私の方こそ、キミが下敷きになってくれたおかげで怪我をせずに済んだのだ。こちらの方こそ、感謝を述べないといけないな」
アマネが手を貸してくれたおかげで、俺はようやく立ち上がろうとする。
「別に感謝しなくても、むしろこっちの方が感謝ぁぁぁぁーっ! うわっと!?」
「おわっ!」
少しアマネの引く力が強すぎたのか、グイっと引き寄せられてしまい俺とアマネは再び互いの吐息がかかるほど、そしてアマネの柔らかい胸が俺の胸で押しつぶされ、そこから鼓動が聞こえるほどに密着してしまう。
「……わ、わりぃ」
「……いや、私のほうこそ」
そして目の前にはアマネの綺麗な顔が迫り、目と目とが偶然にも合ってしまうと何故か互いに離せなくなっていた。互いに一応謝罪の言葉を口にするのだが、目が離せなく気のない返事になる。忙しなく、アマネの瞳が俺の目と合わせるように揺れ動き、俺もまたそれを追うように瞳が揺れ動いてしまう。きっと互いの距離があまりにも近しいから、ピントが合わないのかもしれない。だがそんな論理的な現象はこの際、どうでもいい。
「…………」
「…………」
互いにそれ以上の言葉はいらなかった。……というか、その体で描写手抜きをしてみたい。そんな作者の思惑に乗りつつも、俺達は見つめ合い、吸い寄せられるようにそっと唇を近づけていく。
「……アマネ(このまま……いいよな?)」
「キミ……(ああ……もちろんだ)」
「きゅ~」
「(うん? 今何だか一つ返事が多かったような)って、もきゅ子ぉっ!?」
「うわあぁぁぁっ!? いいいいい、いつからそこに居たのだ!?」
「きゅ? もきゅ? きゅきゅ~っ、もきゅきゅ~っ♪」
俺達が唇を重ねるその寸前、隣から聞こえてきた鳴き声により、もきゅ子がこの場にいることをようやく思い出してしまう。もきゅ子は「えっいつから? 最初から? 私は邪魔をしないから、どうかそのまま続けてねぇ~♪」などと、もきゅ語と補足説明を巧みに使い分けていた。
「オマエが見てる前で、続けられるわけねぇだろうがっ!! な、アマネ?」
「あ、ああ……そうだぞ! それにこれはキスしようとしていたわけじゃないのだ! ごごごご、誤解するな!」
「きゅ~? きゅきゅきゅ~?」
「「ん???」」
俺達は必死にもきゅ子に弁明するのだが、当のもきゅ子は「そう? なら、何でいつまでも二人は抱き合ってる~?」っと更にツッコミを入れてきた。「えっ? 何が???」と、一瞬キョトンっとした顔つきで互いに見合わせると、改めて今現在俺達が陥っている状況を確認してしまう。
「「…………うわっ!?」」
「きゅ、きゅ~♪」
「ぬぬぬぬぬっ(照)」
「ぅぅぅ(照)」
それはまるで磁石同士が反発するかのように瞬時に離れた。そして気恥ずかしさからか、互いに背を向けてしまった。もきゅ子は「ふふっ。どちらも初心なんだね~♪」っと更にからかい、俺達は互いに顔が赤らいで体温が上昇していくのを肌で感じ取っていた。
「じゃ、じゃあ俺は行くからさ、二人共ゆゆゆ、ゆっくりしてな!」
あまりの居た堪れなさから俺はアマネにもきゅ子を預けると、返事も聞かずそのまま退散してしまった。脱衣所を出て、気持ちを落ち着かせようとドアへと持たれかける。
「(さっきのはさすがにヤバかったなぁ~。もしもきゅ子がいなかったら、あのままアマネとキスしてたかもしれないし。でも……何で俺はこんな焦ってるんだ? 別にアマネとキスしても……いや、俺にはシズネさんって妻がいるし、それにマリーやアヤメさんとだって……(照))」
幸か不幸か、もきゅ子の存在がキスを阻止してくれたおかげで、アマネをハーレムに加えるのを阻害してくれた。シズネさんは妻だし、強引とはいえマリーともキスをした。そしてアヤメさんとは……更に親密な関係になろうともしている。
「むむむっ……」
(これは俺の時代がついに……キターっということなのかな? でもアヤメさんとマリーはそのことに関して寛容みたいだけど、一番の問題はシズネさんだよな? いや、それだとシズネさんが許してくれればマジもんのハーレムモード?)
俺はこれからの自分の行く末を考えながら、自分の部屋へと戻って行くのだった……。
最近ハーレム要素多くない? 何狙ってんの? などと改めてこのジャンルタグを確認しようとしつつも、お話は第72話つづく




