第67話 人にモノを頼む態度とディスイズ・ディスカッション
「もにゅもにゅ、もきゅもきゅ。ごくん……う~ん♪ アヤメさん、とっても香ばしくて美味しいパンでした。ありがとうございます♪」
「いえいえ、こちらこそです♪」
やはり一日中働いているのであれくらいの量では、物足りなかったのかもしれない。アヤメさんから貰ったバタールをさっそく食べると、少しの欠片すらも残さずペロリっと食べて切ってしまった。
「じゃあ俺、食べ終わった食器の方、片付けちゃいますね」
「あっ、ユウキさん。私も手伝いますよ!」
アヤメさんとマリーの食べ終わった鉄皿を二段に重ねると右手に持ち、自分の分の皿を左手へと持って片付けるようとする。尽かさずアヤメさんが手伝いを申し出たのだが、「いえ、これくらいなら大丈夫ですから……」っと丁寧に断わりを入れた。
「で、さっそく明日からアヤメが作ったチラシを配るのかしら? 何ならウチの印刷所を使ってもいいわよ」
「そうですね。数が整い次第配ろうと思ってはおりますね。おや、マリーさんにしては珍しく太った腹ですね! まさか無料で使わせていただけるなんて……」
俺が厨房へと食器を運んでいる最中、マリーが次のお店の戦略をシズネさんへと尋ねていた。
そして「また貴女が頭を下げると言うならば、印刷くらい手伝ってあげてもよろしくて」と挑発すると、シズネさんも負けずに「無料でなら使ってあげてもいいですけどね。ってか私に物を頼むのなら、むしろそっちがカネを寄こせ!」などと、再び不毛な言い争いが始まろうとしていた。
「(マリーも大概だけどさ、シズネさんもシズネさんだよな。なんだよ、太った腹ってのは? 太っ腹を誤字ったのか? それじゃあ、もきゅ子のぽっこりお腹になっちまうだろうよ)」
ガシガシ。俺は汚れた鉄皿プレートを洗いながら、二人の話を聞き入れるとその都度ツッコミを入れ、自らの出番を増やすことに専念する。
「きゅきゅ、っと♪ ふぅ~っ」
「ふん! だから貴女は胸が小さいのよ!」
「ふふふふっ。それはマリーさんも一緒でしょ? むしろ私の方が0.1mmほどマリーさんより大きいのですよ!」
俺が皿を洗い終わり濡れた手をタオルで拭きながらホールに戻ると、今後は互いの短所でバトルしていた。
「(0.1mmってほぼ測り間違いだよな? ほぼ同類、同類。どっちも貧乳には変わらねぇだろうに……)」
「あっ、ユウキさん。お疲れ様です♪」
言い争ってる二人を尻目に、俺が再び隣のテーブルに着くとそれに気付いたアヤメさんが労いの言葉をかけてくれた。この中じゃ一番女子力が高いのは、アヤメさんかもしれない。
「あ、あれ? アマネともきゅ子はどこに?」
「ああ、お二人ならあちらの方へ……」
アヤメさんに言われるがまま、指差すほうへと顔を向けると食べ終わったお客に対し退店の挨拶をしている二人の姿が目に入った。どうやら本分を忘れずに、ちゃんと仕事をこなしているようだ。
「あいや、ありがとうございましたぁぁぁぁぁっ。またのお越しをっっっっっ、従業員一同、お待ち申し上げておりまするぅぅぅぅぅぅっ! (ババン!)」
「もきゅきゅ~♪」
アマネは相も変わらずヘンテコな歌舞伎役者を演じながら挨拶をし、もきゅ子はちゃんと手を振ってお客が帰るのを見送っていた。
「ありがとうなのじゃ~♪ さて、片付けるとするかのぉ~」
そしてサタナキアさんも食べ終わった食器を片付けていた。さすがに剣先では無理があると配膳時の失敗で悟ったのか、剣を横へと滑らせ剣身の平らなところに食器を乗せ器用に運んでいる。
「あれできるなら、最初からすれば良かったのに……」
剣先と剣身の平らなところとの発想の違いで、あの様にいとも容易く運べるならば最初からして欲しいものである。
最初からしていればナポリタンを盛大に床へとぶちまけるなど、俺が片付ける手間もなかっただろうに……。
「サタナキアさん、洗い場の所に置いておいてくれればいいからね。後は俺が洗っておくからさ。お疲れ様」
「おおっ! 分かった、了解したのじゃぞぉ~♪」
褒められたのが嬉しいのか、サタナキアさんはファ~ン♪ ファ~ン♪ っと鼻歌交じりに次々と汚れた皿などを洗い場へと運んで行ってくれた。
「そういやシズネさん、チラシはいいとして……いや、まぁ本当はよくないけどさ。医者にアンケート取るって言ってたやつはいいの?」
「医者に……」
「……アンケート、ですか?」
俺の言葉に反応するようにマリーとアヤメさんが「なにそれ?」と言った感じの顔をしている。
「もしあれならさ、マリーに協力してもらうってのはどうなのかな? マリーはギルドの長なんだから顔は広いだろ? ダメか?」
「ちょ、ちょっと待って。状況を詳しく説明してちょうだい。じゃないと何を協力すればいいのか分からないから判断のしようがないわよ!」
俺は簡単に事の概要を説明し始めた。朝食セットを売り込むためのステマとして、この街にいる医者達にアンケートを取る。そしてそれを宣伝へと使う。そのためには顔が広いマリーに協力して欲しい。必要な説明を一通り終えると、マリーはニヤリと笑った。
「ふふっ。それは面白いアイディアね! よくもまぁそんなことを思いついたこと。ええ、いいわよ。それくらいな私も協力……」
「いえ、別にいていただかなくて結構ですよ」
「「えっ?」」
協力すると言ってくれたマリーの言葉を遮るよう、いいやむしろ否定するかのようにシズネさんはその提案を拒絶した。これには俺だけでなく、マリーも驚いた様子である。
「い、いやシズネさん。せっかくマリーがこう言ってくれたんだからさ、何も断らなくてもいいんじゃ……」
「旦那様、別に私はマリーさんの提案を無碍にするとは言っておりません。ただ必要ない、それだけの話なのです。ぶっちゃけ、そんなものは『風評』と言うなの風を起こすきっかけにするだけですので、事実など皆無でも成り立つのがこのステマの大きな特徴なのです」
シズネさんはいけしゃあしゃあと「んなもん、自分で書いてでっち上げればいいんですよ。何ならもきゅ子が書いてもいいですね♪」っと言って退けたのだ。
「いやいやいや、それでアンケート取ってないのがバレたらどうするんだよ!? むしろそっちの方がリスキーすぎるわ!! というか、もきゅ子を代筆に使うんじゃねぇよ!」
「あ~。言われてみれば……それもそうですねぇ~。なら、マリーさんアヤメさん。ちょくら知り合いの医者共にアンケート取って来てくださいな♪ あっもちろん、無料で、ですからね! そこだけは決して履き違えないように!」
シズネさんは俺の説得(?)で納得したのか、またもやしれっとした顔でマリー達に頼んでいた。しかも無償でやれ! っとのオマケ付き。
「ふ、ふ~ん。そ、それが人にモノを頼む態度なのかしら? ちょ~っと、貴女調子に乗っているんではなくて!」
「おやおや、これは失礼いたしました。ははーっ。マリーsummer、どうか協力してくださいな♪ 無料でね♪」
「(おっほぉ~♪ マリーもマリーだけど、シズネさんもシズネさんだわ。というか、むしろディスってる感あるぞ、こりゃ~)」
マリーはピキピキっと眉を顰め、拳をプルプルとそこらを徘徊して今にも死にそうなおじいちゃんの真似事をしていた。シズネさんも言われて一応は頼み込んでいるようにもみえるのだが、その態度は完全にディスっているのはもはや言うまでもなかった……。
ディスコをディスりながら、ディスイズ・ステマについてをディスカッションしてもテーブル席がややディストピアになりつつ、お話は第68話へつづく
※いけしゃあしゃあ=平然とした顔で、冷静なままで
※ディスってる=ディスリスペクト=相手を馬鹿にする、ふざける、軽視などの意味合い。元々は黒人ヒップホップが発祥だが、「ディスる」「ディスり」などは日本では独自に進化した言葉。




