第51話 魔神サタナキア目覚めるとき
「ふむ……これはもしや、伝説の勇者だけが持てないという『聖剣フラガラッハ』ではありませんかね?」
「えっ? シズネさん、この剣知ってるのか!?」
(しかもしかも「伝説の勇者だけが持てない」って部分の単語が嫌に引っ掛かるぜぇ~。それだとその聖剣とやらを持っていたアマネは、伝説の勇者じゃなくなっちまうよ……。というか、ハブかれてんの? もしかしなくても、軽いイジメ設定が組み込まれちゃってる感じ?)
どうやらシズネさんはアマネが持っている聖剣について詳しそうである。まぁ元魔王様なのだから過去になんやかんやあったとしても、何ら不思議ではないご都合主義の極みであった。
「おや、なんだシズネはこの剣を知っていたのか!? そうだ。そのとおりなのだ! これは唯一魔王を倒せるかもしれない雰囲気を醸し出している、紛れもない『聖剣フラガラッハ』なのだぞ! どうだ、凄いだろ?」
「もきゅ~っ」
アマネはシズネさんが剣の存在を知っているのに驚くと、何故か笑い嬉しそうな顔をしていた。そしてもきゅ子は「へぇ~っ。これがそうなんだぁ~」などと、自らの魔王様であることを忘れているかの如く頷くと感心していた様子である。
「(おい、もきゅ子。それ、お前を倒すかもしれない剣なのになんで興味津々になってんだよ。そんな姿もちょっと可愛いじゃねぇかよ!)」
俺はもきゅ子に新たな萌を感じてしまうのだった。
「確か……この剣には『魔神サタナキア』が封印されているのですよね?」
「うん? そう……なのか?」
「いや、所有者のアマネが知らないのに俺が分かるわけねぇだろ……」
シズネさんの問いに対しアマネは本当に知らないのか、何故だか俺の方を向いて「マジで? これそんなの入ってたの?」っと謎の同意を求めようとしていた。
「少し調べてみましょうかね……貸してもらえますかね? ってか、寄こせよ」
「あ、ああ……どうぞ」
「…………」
(口悪っ! 魔王様が勇者に命令すんなよ。そしてアマネも軽い気持ちでその命令にしたがって、大切な聖剣を渡してんじゃねぇよ)
ブンブン……。そしてシズネさんはアマネから剣を受け取り勝手に装備すると、素振りをしている。
「うーん。もしかすると……剣本体の動力源が切れ、封印されている魔神にまで動力が回っていないのかもしれませんね」
「「動力源?」」
「もきゅきゅ?」
シズネさんは素振りをすることで、魔神が起きるのかを確かめていたのかもしれない。俺とアマネ、もきゅ子は聞きなれない単語に思わず聞き返してしまった。
「ええ。この剣にはですね、剣本体に組み込まれている動力源を用いて中にいる魔神サタナキアを起動させているのです。それで火力を引き出し、その一撃は魔王でさえも一撃で葬り去ることができると言われております」
「えっ? ま、マジでそんな凄い剣だったの!?」
(……というか、そんな魔王を一撃で葬り去る剣をですね、その対象となっている魔王様が持っているこの状況は本当に大丈夫なのかよ?)
そんな説明を受け、俺は二重の意味で驚きを隠せない。
「ふむ……やはりな」
「(いや、アマネよ。今の今まで剣の由来というか、その概要すら知らなかったクセに、何で腕組みながらドヤ顔で決め込んでいやがるんだよ。というか、その情報を魔王様本人から説明受けて納得してんなよな……)」
もはやどちらが勇者なのか、分からない状況。
「ですがその代償と言いますか、この剣には呪いが含まれてしまっています。ま、その説明は後ほどいたしましょうかね」
「呪い……か」
どうやら曰く付きのマジで本物の聖剣らしい。その呪いとやらの詳細を聞こうにも、先回りされ「後ほど……」と言われては聞くに聞けない。
「ではどうすれば起動できるのだ? その、動力源……とやらを交換するのか?」
「そうですね……あっ、確かウチに予備があったかもしれません。ちょっと待っててくださいね!」
アマネは剣の話を聞いて体がウズウズしているのか、早く魔神を起こしたいとシズネさんにそんな質問をしていた。
ガッ、キンッ。またシズネさんも魔神を起動させる動力源について、「予備があるかもしれない……」と一旦席を離れると隣にあるテーブルの上に聖剣をぶん投げ、何故か壁際に椅子を持っていった。
「いや、剣の扱い雑すぎんだろうが……」
「よっと」
俺の苦言に耳を傾けないまま、シズネさんは椅子に昇った。
「あっ、旦那様少し椅子を押さえておいてくれますかね?」
「ああ……いいよ」
俺は訳も分からず……というか、敢えて理解したくないので言われるがまま、シズネさんが昇った椅子を押さえることにした。そして俺の目の前には、シズネさんのナイスなお尻が顔を見せている。
椅子を押さえつつ少しだけ屈もうとしたのだったが、生憎とシズネさんが履いているのはロングスカートでその中身を覗くことができない。
「……ちっ」
「おや、旦那様どうされたのですか?」
「い、いや……なんでもないよ」
俺はこのとき「何でシズネさんのスカートがロングなんだよ……」っと、人目を憚らず無意識にシズネさんバリの舌打ちをしてしまった。それがシズネさんにも聞こえたのか、「ふふっ。残念でした~♪」っと最初からそれを見越してたかのような顔をされてしまう。
どうやらあのスカートは鉄壁のガードらしい。
「あっ、よいしょっと」
「…………」
そしてシズネさんは少し背伸びをしながら、壁にかけてあったモノを外した。その間、俺はと言うと目の前でフリフリ動くお尻をガン見している。
「(うん……改めて思ったけど、メイドさんっていいよね♪ ロングスカートだから中身は見えないけど、こう体のラインっていうの? 思わず手を伸ばしたくなるそんなお尻が目の前に……)」
「旦那様、もういいですよ」
「……」
どうやら俺の眼福タイムは終わりを告げたようだ。そしてシズネさんは椅子から下り、アマネともきゅ子が待っている席へと戻って行く。俺も椅子を片付け、やや前傾姿勢になりながらにその後を追った。
「うん? シズネが持っているその中に動力源が入っているのか? それとキミ……何で前屈みになっているのだ?」
「きゅ~?」
「ふふっ。旦那様ぁ~、お腹でも痛いのですかね? それとも真っ直ぐに立てない事情でもおありなのでしょうか? くくくっ」
シズネさん達は俺が前傾姿勢のまま、歩いている姿が気になるらしい。というか、シズネさんは理解した上でわざと言っているのだろう。そんな公衆の面前で思春期男子を合法的に殺す、そんな悪魔染みた笑いを浮かべていた。
「(どうする? なんて言い訳したらいいんだ? 誰か助けてくれ!!)」
『シズネ達になんと言い訳しますか? 以下よりお選びくださいませ♪』
『実はお腹が痛くて……』はいっ、無理ーっ
『開き直り、自らの宝物をみんなに披露する』自然体にセクハラですよね
『とりあえず訳の分からない理屈を並べ立ててみる』できんの?
(ええい、だまらっしゃい! むしろ俺は最後まで抵抗してやるよ!!)
「あーっ、これはその……ほら、こんな前傾姿勢すれば空気抵抗を大幅に減らせるじゃんか? 空を飛ぶ鳥さんとかもこんな格好してるだろ? だから……」
口を付いた言い訳がそれだった。空気抵抗を減らすどころか、むしろ凹凸が突出しており空気抵抗ありあり感を否めない。
「ふむ……そうなのか? それは知らなかったな」
「もきゅ」
「あらあら、それはそれは……」
「あっははははっ。うんうん」
どうにかこうにか、誤魔化すことができたようだ……肝心要のシズネさん以外はなっ!!
「で、シズネさん肝心の動力源ってまさか……」
「ふふっ。お察しが良いですね、旦那様っ! そうです……なんとなんと『電池』で駆動しているのですよ!」
シズネさんはそう言いながら、聖剣フラガッハの持ち手部分をスライドさせカパリッっと開け放った。するとそこには古びた単四電池が一本入っていたのだ。まさか魔王を倒せる唯一の伝説の剣が、電池駆動とは誰が思いつくことができるであろうか?
ちなみにこの世界では魔法に並んで技術的革新が進んでおり、少ないならがも電気やこのような電池なども存在している。尤も貴重金属を用いるため価格が高く、一部の貴族や電灯などに使われているのだ。
「お~っ! この剣は電池で動いていたのか!? なんとも最新の技術を駆使しているのだなぁ~♪」
「もきゅ~♪」
「(ぼそりっ)電池とかありえねぇよ……しかも単四充電池一本とかさ」
アマネももきゅ子も、聖剣の動力源が電池とは夢にも思わなかったのか、大層驚きを隠せない様子である。
俺もまた同様に驚きを……いや、ぶっちゃけ『魔法石』とか『古代の技術』で動いてるものとばかり思っていたので、拍子抜けもいいところ。
「どうです? これには、旦那様でも、驚いたのでは、ないですかね?」
「うん、まぁ……ね」
(何で上半身だけ前後左右に激しく動かしてんだ? あとその奇妙な動きが早すぎて目で追えねぇんだよ……一体何がしてんだよ、アンタ)
シズネさんはフラワーロックのようにクネクネ、クネクネっと不思議な動きをしながら俺を翻弄していた。だが俺としてはこれっぽっちも関わり合いになりたくないので、敢えて無視することに。
「……ちっ」
そして奇妙な動きにツッコミが入らないと気付くや否や、シズネさんは軽い舌打ちをして動きを止め本来の道筋の話を切り出す。
「さてっと。お遊びはこの辺にして、さっそく動力源の交換をいたしますかね」
「(やっぱりツッコミ待ちだったのかよ。しかも時計用の古い電池なんか抜いてたりして、それを代用品に入れて大丈夫なのかよ?)」
カチャカチャッ……。そうシズネさんが壁から外したモノとは古めかしい壁掛け時計だったのだ。そしてその裏蓋を開けると中から電池を取り出す。しかもその電池はご丁寧にも所々錆びており、マイナス端子接触面の隙間からは液漏れしているのが隣にいる俺からでも窺える。
俺は尽かさず苦言と言うか、馬鹿らしくなり口を挟む事にした。
「いや、シズネさん。こんな古いの入れても普通動くわけ……」
『ピーッ。動力源の補給を確認いたしました。これより魔神サタナキア……起きまぁ~す♪』
「動いたーっ!? あと起動音とかちょっと格好良さ気かと思いきや、ノリ軽いうえにすっげぇダサイぞッ!!」
これはもう近代文化がヤケに進み、スマホ族と成り下がったマサイ族もビックリ仰天の出来事であろう。
「おおっ! ついに魔神が目を覚ますのだな!」
「もきゅ~っ!」
傍らに居たアマネも、そしてもきゅ子も興奮冷めやらぬ様子で事の成り行きを見守っていた。
「あっ、いくつが言い忘れていましたが……魔神サタナキアは「妾が世界を滅ぼしてみせようぞ!」が口癖の輩ですからね」
「……それを今言うんじゃねぇよ、シズネさん!! そんな邪神起こしちまったら、世界が……」
「先程からやかましいぞ、小童風情がっ!! お主なのか、妾を起こした者は?」
その声はまるで地の底から聞こえ……いや、目の前のテーブル上から聞こえてきたのだった……。
人手不足の話そっちのけにしながら何故か魔神が復活しつつ、お話は第52話へつづく
※火力=武器の攻撃力の値。
※魔法石=自然界に存在するマナエネルギーを蓄積した石の総称であり、魔法を扱えない一般人でも簡単に使えることができる。




